16.強烈な視線、再び
バス停から歩き、ホームセンターに辿りついた三人。広い駐車場を抜け、エントランスまで歩く。
店内に入ると、秦は周囲を見回して少しがっかりした顔を見せる。
「思ってたより小さいなぁ」
「そっか。向こうのホームセンターって大きいもんね」
瑠璃はいう。以前、テレビ番組で見たアメリカのホームセンターは確かに大きかった。中にはガンショップや
「そうか?俺の住んでいたとこのホームセンターはこんな感じだったぞ」
慶太が隣でいう。秦が「へぇ~」と返し、
「お前のとこには何があった?」
「エースだ」
慶太の答えに秦がニヤリと笑みを浮かべる。
「俺のとこはロウズだ。それにホームデポもあった」
どちらも瑠璃には聞き慣れない名前だ。慶太は不敵な笑みを浮かべる秦を一瞥し、やれやれという感じの素振りを見せる。
「くだらない張り合いをしてる場合じゃない。とりあえず買うものを探すぞ」
勝ち誇る秦を一蹴するかのように慶太は歩き出す。
― ― ― ― ― ― ―
慶太と秦は買い物カートを押し、かごに次々と商品を放り込んでいく。
センサーライト、侵入防止用の窓金具、防犯フィルム。それに加えて針金やワイヤー、更には砂利なども積んでいく。
一方で秦も同じように探すが、気になった工具をいじくり回したり、どこか散漫な様子だった。
一時間としないうちに上下二つに荷物を載せられるカートにはあっという間に商品でいっぱいになってしまった。
その辺りから周囲の客の好奇な目が飛び込んでくるようになる。だが二人はそんな視線など露程にも気にしていなかった。
レジに並んだ所でたまらず瑠璃が慶太に声を掛ける。
「ちょっと慶太くん。一度にこんなに買ったら、持てないよ」
「安心してください。一部の商品は配送で送ります」
慶太が壁に貼られている掲示板を指さす。そこには確かに『配送可能』という文字が書かれている。
「それはいいけど……。あと、お金はどうするの?」
「資金に関しては八木さんに領収書を回せば出してくれるそうです。ここではとりあえず私が出しますので」
「私がって……慶太くんが?」
「はい、そうです」
ちょうどその時、自分たちの会計の番が回ってきた。瑠璃の心配を尻目に慶太と秦は商品をレジカウンターの前に出していく。
次々と商品がバーコードリーダーに通され、掲示される電光板の金額が上がっていく。その度に瑠璃の緊張も比例するように上がっていく。
「ありがとうございます。お会計は13万3668円になります」
レジをしていた中年の女性店員が読み上げる数字に仰天する瑠璃。
「キャッシュで」
そう告げて財布を開く慶太。
財布の中には瑠璃が見た事もないほどの一万円札の束がぎっしりと詰まっており、14枚の札を抜いてもまだ厚みはあった。この光景には瑠璃もレジの女性店員もギョッとした。
「それと配送使わせていただきます」
「は、はぁ。とりあえずお会計から失礼いたします」
女性店員はどこか緊張した手付きで札を受取り、レジを打ち始める。その間にも秦がササっと商品を運んでいく。
その光景はどこか異様だ。無理もない。15歳の少年が率先して大金を支払っているのだから。
周囲の客も物珍しそうに眺めていた。瑠璃は内心、この二人から距離を置きたい気分だった。
突如、昨日のスーパーで感じた鋭い視線がまた瑠璃の背中に突き刺さった。
思わず周囲を見回す。だが、周囲には自分たちに興味を示す客ばかりで、その視線の張本人らしい人間は見抜けなかった。
「どうかされましたか?」
周囲をキョロキョロと見回す瑠璃に気付いた慶太がいう。瑠璃は思わずドキッとしたが、すぐに気を取り直して「なんでもない。気のせい、かな?」と顔を横に振った。
気が付けば嫌な視線も消えている。気のせいだろう。むしろ、ここまで好奇な視線に晒されていれば、そう勘違いするのも仕方ない。瑠璃はそう自分に言い聞かす。
会計を済ませると他の店員の応援を借り、商品の大半をサービスカウンターに運ぶ。若い男の店員が商品をチェックし、配送用の用紙を差し出す。
「こちらに記入をお願いします」
慶太がササっと用紙にサインする。いつの間にか覚えた住所を書き上げ、自らの名前を記入する。
「ありがとうございます。えー早ければ明日の午後には配送できますので」
「承知いたしました」
やはり15歳とは思えないほどの対応だ。二人はある程度の小物が入った袋を取り、サービスカウンターを後にする。瑠璃は二人の背中を追い掛ける。
「ね、ねぇ。ちょっと」
「なんだい?」
「せ、せっかくここまで来たんだし、そこの外に美味しいたい焼き売ってる店あるから、寄って行かない?」
瑠璃の言葉に秦と慶太は目を合わす。すぐに向き直り秦はいう。
「そうだね、せっかくだから食べて行こうか」
思わず慶太が秦に目をやる。どうやら慶太の考えては相反していたようだ。
「ありがとう」
瑠璃は微笑む。もちろん、たい焼きは二の次だ。二人には聞きたい事が山ほどあるのだ。