13.不穏な影
日本・東京・新橋駅前
東京はいつ来ても魔窟だ。ごった返している人混みを見るとそう思う。
背広姿の男たちがケータイ電話を片手に電話しながら、時計を気にして生きている。
リチャルドもその群衆に混じって同じように腕時計を見る。
少しして、自らのケータイ電話が鳴った。
「もしもし」
「こちらは回収業者だ。依頼主はあんたか」
電話越しでも分かる程のふてぶてしい態度。リチャルドはこんな男を最近まで使っていたから動じない。まったく、自分は仕事が出来ると思っている奴はだいたいこんな感じだ。
「そうだ。私が連絡した。なにが聞きたい?」
「掲示した報酬には満足している。が、ここまでの報酬を出すのだ。理由があるだろう。そいつが聞きたい」
これだ。日本人という奴はどこか慎重的だ。黙って仕事をすればいいものを。
リチャルドは新橋駅の中へとゆっくり歩く。
「資料は送っているはずだ」
「資料はわかった。たいそうなとこの隠し子だっていう事も、ガキの護衛人がいるというのもな」
舐めたような口調だ。オホンと咳払いする。
「そのガキに痛い目にあわされたのだ。それ相応の人間に頼んだはずだが?」
電話の相手が舌打ちをして黙った。舐められてると思ったのだろう。リチャルドは鼻で笑う。
「まさか、追加料金の相談か?」
「こちらを甘く見るな。下調べは出来ている。残りの金とブツを引き渡す準備はしておけ。またすぐに連絡を入れる」
電話はすぐに切れた。リチャルドはすぐにケータイを胸ポケットにしまった。
これだけ発破をかけたのだ。奴らだって、プライドはある。どうして日本人という奴はどこかプライドが高いのだろうか?だが、そのお陰で仕事をやり遂げてくれそうだ。
英語のアナウンスに従い、切符売り場のタッチ画面を操作する。
さて、奴らが仕事をしているその間、自分はどこを観光しよう?アサクサ?シブヤ?スガモ?
日本の観光名所は多い。トウキョウが飽きたら、キョウトやオオサカもいいだろう。
国際化というはとても便利だ。電話をかけ、自分のような他国の人間でもビジネスが生まれる。
リチャルドは改札を抜け、これまた同じように英語の記載がされた看板の指示に従って進んでいく。
すれ違う背広の男女はコートの襟を立て、せわしそうに歩いて行く。
心の中で彼らに声援を送る。負けるな、日本の歯車よ。
リチャルドは勝ち誇った気分でホームを進む。