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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第二章・新しい生活
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4.新しい住まい

「そ、それじゃあ、これからまず二人にこの家のルールを教えるわね」


 手を叩いた瑠璃に皆が注目する。


「まず、月曜日と金曜日は燃えるゴミの日ね。それから、燃えないゴミは水曜日。あ、あと資源ごみは土曜日ね。それで、皆が当番制でやってるの。えーと明日の燃えないゴミの当番は……美咲だっけ?」


 思わず美咲は首を振り、健太を見る。


「それ、健太の仕事でしょー?」


「美咲姉ちゃん、俺、昨日風呂掃除やったよ?」


「なあに? 昨日夕飯作って、今日も朝ごはん作ってやったじゃん?」


 美咲の睨みに負けじと不機嫌そうに見る。慶太はやれやれという顔で瑠璃を見る。


「谷田凪様、わかりました。ですが、最初に……」


「あ、待って慶太君っ!」


 慶太の言葉をまた遮る瑠璃。出鼻を何度もくじかれた慶太もどこか機嫌が悪そうだ。


「さくらえんではみんなの事は名字では呼ばないっていうルールなの。だから、私の事は下の名前で呼んでね」


「下の名前で?」


 慶太が一瞬だけ不服そうな面持ちを見せる。


「そう。だから、私のことは『瑠璃ちゃん』とか、『瑠璃お姉ちゃん』って呼んでね。あ、『お姉ちゃん』でもいいよ」


 ニコッと笑って見せる瑠璃。


「じゃあ、俺の『瑠璃ちゃん』はそのままでいいんだな」


 秦が割って入る。その様子を見ていた美咲がムスッとした顔を向ける。


「あんたは何か慣れ慣れすぎぃ」


「なにぃ?」


「それにあんた、なんか下心丸見えなんだよねぇ」


「あんたとはなんだっ! 俺はお前より年上だぞ!? お前いくつだ?」


 思わず立ち上がり、テーブルから身を乗り出す秦。美咲も負けじと立ち上がって秦を睨み返す。


「なによ、14歳だけど? でも、ここでは私の方が先輩なんだからねっ!」


 ムキになる秦と美咲。ぶつかり合う視線からは今にも火花が散りそうだ。慌てて瑠璃が仲裁に入る。


「ほらほら、喧嘩しないで。それにこのさくらえんでのルールには『喧嘩しない』っていうのがあるでしょ?」


 二人はしばらくにらみ合った後、互いに顔を背ける。一方で慶太はそんな状況に興味をなくし、周囲の様々なものに目を配っている。その様子を見ていた健太が問う。


「あの、なにを見てるの?」


 慶太は周囲を見終わると、健太に向き直る。


「物の配置です。これからの生活では、家具の配置や間取りなどを覚えておく必要があります」


 少しぶっきらぼうに説明した慶太は立ち上がり、リビングを歩き回る。皆の視線が慶太に集まると、慶太はいう。


「これから警護するのに、まず家の中を調べさせてください。それと各部屋もチェックしたいです」


「それって私の部屋もっ!?」


 慶太の言葉に美咲が慌てて反応する。慶太は頷く。


「ダメっ!? 絶対に誰も入れさせないからっ‼」


 頑なに首を横に振る美咲。


「ですが、あなたも私たちの警護に納得された以上は……」


「それとこれとは別っ! 私の部屋に入ったら、殺すからっ!」


 そう吐き捨て、慌ててリビングを出て自室に上がる美咲。慶太は少し頭を悩ませ、頭をポリポリと掻いた。


「ご、ごめんなさい。美咲姉ちゃん、今、けっこう神経質だから。その、思春期って奴で……」


 健太がフォローを入れる。慶太は何か言いたそうだったが、何も言わずに小さく溜息をついた。そんな様子を見かねた秦が口を開く。


「まず慶太の言う通り、家の中をちょっと見て回ろうか」


 秦の言葉に瑠璃も立ち上がる。


「あ、それじゃあ家の中を案内しようか。じゃあケンちゃんも行こう」


 瑠璃の言葉に健太も二返事で立ち上がり、三人の後ろを付いて行く。


 ― ― ― ―


 そのままリビング、ダイニング、キッチンを案内し、廊下を出て、玄関の前を通って風呂場やトイレを案内する。


 瑠璃が説明してる間も、慶太や秦は家具の裏側やコンセントの位置、ブレーカーの位置など細かい所に目を向けていく。

 その様子を見ていた瑠璃と健太は改めて、二人が普通の少年達ではない事を実感した。


 一階の全ての部屋を見終わり、二階に上がる直前に玄関のインターホンが鳴った。瑠璃が対応するより先に秦と慶太が玄関に行き、対応する。


 訪問者は運送業者で、秦と慶太の荷物を届けに来た。二人はささっと納品書にサインし、すぐに荷物を中に入れる。旅行鞄二つに段ボールが四つ程。

 運送業者のトラックが出て行ったのを見送ると、瑠璃が思い出したかのように手を叩いていった。


「あ、そうだ。まだ二人が使う部屋を案内してなかったね。先にそこに案内して、荷物をそこに置こうか」


 瑠璃の言葉に二人も頷き、二階に上がる。階段を上がるとキィキィと小さく鳴った。だいぶ年季の入った建物だな、と秦は考える。


 廊下に上がると、「こっちの部屋ね」と先頭に立って案内する。


 案内された扉の前まで行くと、隣の部屋のドア目が言った。ドアに『Misaki』と可愛い文字で書かれた表札が掲げられ、その下にはA4の学校のプリントの裏側であろう紙がセロハンテープで貼り付けられ、『入るな!』『入ったら殺す!』と物騒な言葉がマジックで書きなぐられていた。間違いなく美咲の部屋だ。


 二人は何も言わずに瑠璃が案内されたドアを開けた。そこは6畳ほどの広さの部屋で、学習机がポツンと一つだけあった。


「へぇー」


 秦が先入り、周囲を見回す。少し黄ばんだシーリングライトに扉がへこんだ小さなクローゼットの扉。BGCスクールの寮に比べれば、中々悪くはない。瑠璃はいう。


「二年前までは人が居たんだけど、その人はもう社会人になって、出てっちゃったから」


 悪くないな、秦がそう思っていると瑠璃は続けていう。


「二人にはちょっと狭いけど、この部屋ぐらいしか空いてないの」


()()っ⁉︎」


 瑠璃の言葉に同時に振り返り、すぐに互いに目を合わせ、また瑠璃に向き直る。思わず瑠璃は気まずそうな顔をする。


「あ~。他にも部屋はあるんだけど……そこは物置になっていて……」


 すぐにその部屋を案内させてもらい、中を覗いたが、確かに物置状態になっていた。いくつもの段ボールが置かれ、使われなくなったおもちゃや壊れた家電製品などが積まれ、埃を被っていた。


「これって、全部使わないもの?」


 秦が問い掛けると瑠璃は頷いた。


 秦と慶太は互いに顔を見合わせる。

 言葉にしなくても、いずれこの部屋を片付けて、どちらかの部屋にしようと決めたのだ。


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