21.一件落着?
すっかり日が落ちたニューハルス空港の滑走路には多くのパトカーと救急車が到着した。滑走路には多くの警官と、空港職員が慌ただしく動いている。冷めだしたコンクリートに射殺された襲撃者とそれに殺されてしまった空港警備員の死体が並べられている。
秦達は用意された救急車の後部座席で警官たちと事情聴取を行い、瑠璃は別の救急隊員に用意された毛布を肩から包まり、暖かいインスタントのココアを啜っていた。
秦と慶太は警官から全てを聞いた。
襲撃者はロサンゼルス空港での襲撃を含めて16名。そのほとんどがブラストから金で雇われて、詳しい目的などは知らされていなかったようだ。また、死んだブラストと志摩のケータイは鑑識に回され、これから背後関係を洗うようだ。
警官たちの尋問が終わると、今度は裕子が目の前に立った。
「ご苦労様です。お嬢様を守って頂きありがとうございます」
深々と頭を下げ、二人にお礼を述べる。機械的な声だが、感謝しているのは確かなようだ。秦も慶太も「いいえ」と丁寧に答える。
「この度は身内の不祥事という失態を招いてしまい、大変申し訳ありません。今後、我々も警戒するように致します」
裕子が淡々と話す。そっと秦が片手を上げる。
「なぁ、八木さん。俺は思うんだが、志摩さんはきっと誰かにそそのかされたんだぜ」
裕子が秦を見つめる。その瞳は特に何も動じず、ただ見ているだけという感じにとれる。
「それは、志摩から聞いたのでしょうか?」
志摩の言葉を思い出す。
「誰が、とは言ってなかった。だが、金が必要だと言っていた」
裕子が納得したかのように小さく頷く。
「承知いたしました。私の方でも調査をします」
秦は頷く。だが、裕子は続ける。
「ですが、御二人にはお嬢様の護衛を優先してください。今回の一件は私の方で上手く処理します。このままお二人はお嬢様を日本までお連れしてください。何かわかりましたら、私の方から報告いたしますので」
そう言い切ると裕子は踵を返し、瑠璃の元へと歩いて行く。二人は腑に落ちないまま、その背中を見つめるしかなかった。
「とんだ初任務だったな」
秦がぼそりと呟く。思えば、慌ただしい数日だったと思い返しながら。
突然の卒業から得体のしれない大企業のキャリアウーマンとその社長の娘。そして目的の分からない襲撃者。急に疲れがドッと出てきた。
「いや、これからがもっと大変だぞ」
秦の方を向かずに慶太が言う。その視線の先に裕子と話す瑠璃が居る。
「ここまでの襲撃をやったんだ。これで終わるはずがないだろう」
瑠璃は涙を滲ませて裕子と話している。今にも裕子にすがろうとしている様に見えるが、裕子の態度がそうさせてくれない。どこかもどかしさを覚えさせる光景だ。
「その予想、外れることを願うな」
秦はそのままストレッチャーの上に寝そべり、救急車の天井に設置された明かりを見つめた。
清潔な照明が見える狭い車内であるが、今はこの世で一番安全な場所のように感じるのだ。
第一話「ボディガード・チルドレン」完