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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第一章・ボディガード・チルドレン
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20.真相は

 倉庫の入り口で男の雄たけびと同時に銃声が響き、その後は静かだった。


 それからは銃声も何も聞こえない。サイレンの音だけが遠くで響いているだけであった。


 瑠璃は胸の中で抱えていた腕を解き、ゆっくりと扉の前に動く。


 少しためらった後、意を決して扉に手を掛けて力を込める。思い鉄扉がゆっくりと開き、外の光が漏れる。


 コンテナの向こうには美しい夕暮れのオレンジが広がっていた。アスファルトには大量の空薬莢ががばら撒かれ、鈍く光っている。他にはなにも見えない。


 獲物を捕らえた猫のようなゆっくりさでコンテナの外へ出る。さらに周囲を見回せば、戦闘不能になった男たちが地面に転がっている。僅かに悶える者や動かぬ者とまちまちだ。


 遠くから車が来るのが見え、思わず身構える。


 やがて車の後ろから赤と青の回転灯を回すパトカーが見えた。そして近づく車には見覚えがある。それに気付いた瑠璃はホッと安堵し、胸を撫で下ろした。



 ― ― ― ― ― ―



 秦が車両の列に辿り着くと、そこには敵から奪ったAKを握った慶太が居た。背後には空港で見かけた作業服の男が横たわっている。


「終わったのか?」


「あぁ」


 慶太は持っていたAKのマガジンを抜き、チャンバーレバーを引いて弾丸を抜くと地面に投げ捨てる。


「残るのは……」


「あぁ……」


 二人は目を見合わせ、同時に頷く。二人は分かっているのだ、本当は誰が仕組んだのか。


 遠くからサイレンの音が聞こえ始める。

 彼らが到着する前に、やるべきことがある。二人は自らの武器を持ち、足を揃えて歩き始める。


 ― ― ― ―


 薄暗い貨物倉庫の陰で志摩は腹部を抑え、ゆっくりとした足取りで管制塔の方へと進む。苦しそうな呼吸をし、時折片手を倉庫の壁に付いて呼吸を整える。

 その時、倉庫の中へと続く通用口の影に人の気配を感じ、足を止めた。


「芝居はもういいですよ、志摩さん」


 声と同時にふらりと現れたのは慶太だった。志摩の前に立ちはだかり、ガバメントを突き付ける。


「それは用意しておいた血のりでしょう? 残念ながらあなたが雇った連中はもう戦えない」


 銃口にたじろいたその時、今度は後方から気配がした。肩越しに一瞥すると、背後では秦が道を塞ぐように銃を構えている。


「おまけに瑠璃ちゃんは八木さんが手配した別の車で保護されるぜ」


 二人に挟まれた志摩は、荒い息遣いのままで答える。


「…何か、勘違いをされていらっしゃいませんか? 私の言動に何か不審な所がありましたでしょうか?」


 ぎこちなく取り繕った笑顔を二人に見せるが、前後の銃口が下がる気配はない。


「私がM&Aの話をしたからでしょうか?」


 慶太がかぶりを振る。


「いや、それ以前からあなたを疑って居ましたよ。なぜならロサンゼルス空港での配置は俺達が“三人”で来るという事を想定された配置だった」


「それならば同じく世話係の八木君も疑わしくなるが……」


 今度は背後の秦が答える。


「それも考えたよ。けど冷静に考えれば八木さんにはチャンスはいくらでもあった。瑠璃ちゃんを空港から運ぶ時にやればいいしな」


「それに」と慶太が付け加える。


「空港で撃ち込まれた弾丸は運転席から狙いが外されていた。それとあなた、さっきの銃撃の時に頭を伏せるが早すぎた。そこで確信したんですよ」


 また慶太が言う。前後からの問い詰めに志摩は言葉を失った。


「それだけの事で……」


「それだけで十分だよ。志摩さん、いや≪ガウス≫さん」


 慶太が志摩の足元にケータイを放り投げる。ブラストが使用していたケータイだ。画面には『ガウス』と登録された通話履歴が表示されている。


「車の中に残っていたケータイが鳴っていましたよ。取りに行ったらどうです?」


 慶太が皮肉を言う。少しの間が空き、志摩はふふ、と小さく笑った。


「君も、若いな」


「何?」


 ふぅ、と小さく溜息を付く。演技を止め、腹部を抑えていた手はそのままに背筋を伸ばす志摩。


「君の中には薄暗い何かを感じるよ」


 嘲笑うかのように言う志摩。慶太がふん、と鼻を鳴らす。


「年端もいかない女の子を襲撃するような輩に、そんな事言われてたまるか」


 慶太が秦の射線に気を付けながら、ゆっくりと近づく。その時だった。


「慶太っ!」


 秦の怒鳴りと同時に後ろの気配に気づき、すぐに振り返る。


 そこには倒したはずのブラストがハンドガンを構えていた。全身から血を流し、足元もおぼつかない様に見えるが、その銃口は確実に慶太を捕らえていた。


(くそっ―――)


 すぐに身体を捻り、銃口をブラストに向ける。その瞬間、視界の影で志摩がジャケットの懐に手を回すのが見えた。

 神経と身体は既にブラストに集中し、志摩への対応が出来ない。ブラストが引金を引く前に、慶太が引金を引く。


 パン。ダン。


 二つの銃声が響く。一つは自らのガバメント。だがもう一つは違う。

 銃弾を食らったブラストは最後の反撃を繰り出す事はなく、低い唸り声を上げて地面に崩れた。

 慶太は身体は何もダメージがないことに気付きながらも、すぐに振り返る。

 見えたのは、志摩が右手に小型のピストルを持ったまま地面に倒れこみ、血反吐を吐くシーンだ。その後ろではR8の銃口から硝煙を漂わせた秦が見える。


「志摩さんっ!」


 秦がすぐに銃の構えを解き、駆け寄って志摩を抱き起こす。志摩は震える唇をゆっくりと動かし始める。


「……目先の金に目がくらんで、こんな事になるとは……」


 慶太が銃口を向けるが、すぐに秦が制止する。志摩が苦しそうな咳をする。


「あんた、根っからの悪党じゃないだろ?」


 ふふ、と呆れたように小さく笑う。自分に向けた嘲笑なのだろう。


「必要だったんだ……。薬漬けの……娘の……治療の……」


「待ってろ、今すぐ助けを呼ぶからなっ!」


 秦はすぐにケータイを取り出そうと尻ポケットに手を入れようとした。が、慶太がそれを止める。そして秦の顔を見つめ、神妙な顔で横に振った。助からない、というサインだ。


「馬鹿な娘に……馬鹿な親で…あったな……」


 ゲホ、と血の混じった咳をする。口の中には真っ赤な血が染まっており、唇の端から一筋の血を流している。


「なぁ、待てっ! あんたには色々と……!」


 遮るように志摩は秦の胸倉を掴む。精一杯の力だ。秦は黙り、志摩の目を見る。


「お…嬢様…には……黙っていてくれ…ない…か…?」


 そう言い切ると、胸倉を掴む指の力が無くなり、するりと地面に落ちた。志摩の目が閉じられ、ゆっくりと頭が下がっていく。

 秦は諦めたように志摩の身体を優しく地面に置く。ゆっくりと立ち上がると、志摩の遺体に身を翻す。


「クソっ!」


 背を向けたまま悪態を吐く秦。慶太はなんとなくであるが、悔やむ秦の気持ちが分かった。だが、今回ばかりはどうしようもない。

 少しして、銃を構えた重武装のロサンゼルス市警の警官たちと、彼らの背後から裕子が近づいてくるのに気付いた。




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