表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第一章・ボディガード・チルドレン
20/146

19.全滅

 ブラストの指揮により展開した敵によって、秦は貨物倉庫からだいぶ離れた荷物のプール側へ、慶太は倉庫の入り口の近くの作業車の列へと移動を余儀なくされる。


 秦は個々に散らばりながらも迫る男たちに近づけさせんと応戦する。


 三人の襲撃者の名はライナー、マイク、ベンという男。


 一番近くにいたのはライナーで、手に持つUZIサブマシンガンを頭を出さずに銃だけを出して撃って秦をけん制する。その間に後方からマイクとベンが進む。


 ライナーが断続的に撃つUZIが弾切れを起こし、急いでマガジンを交換する。

 その時、秦の方からカラカラと小さな金属がいくつも床に落ちる音が響いたのがマイクの耳に届いた。すぐにベンの方に向き、手でリロードをしているジェスチャーを行う。


(リロードしたなっ!)


 マイクは考える。


(リボルバーは多くたって6発だ)


 一般的なリボルバーの装弾数は5、6発が多い。ブラストが言っていた通り、リロードにはスピードリローダーを使ってもそれなりに時間が掛かるはずだ。


 後方にいたベンが頷き返し、秦の動きを注意しながら様子を伺う。


 だが秦に一番近く、そんな事など考える余裕も、知る由もないライナーは、身を乗り出して突進しようと駆け出した。


 リロードを終えた秦がすぐに気づき、物陰から寝そべるように身体を出し、迫るライナーの左太ももと右腕を撃ち抜く。


「ぐおっ!?」


 ライナーは床に倒れながらも、落としたUZIに手を伸ばす。だが秦が放った弾丸がUZIを弾き飛ばし、ライナーから離した。ライナーは諦めたように伸ばした手を床に落とした。


(馬鹿がっ!)


 無知で後先を考えないライナーを呪ったマイク。だが、そのお陰で秦は三発も消費してくれた。仇は打ってやる。マイクは闘争心を燃やす。


 ベンが擬装用に着ていた作業ジャケットを脱ぎ、物陰から飛ばした。

 秦が反射的に銃口を向け、ジャケットに二発撃ち込む。


 それに気付いたマイクも横跳びに隣の物陰に移動する。

 秦が移動したマイクに気付き、6発目の弾丸が放つ。だが弾丸はマイクに当たらず、物陰にしていた小さなアルミコンテナの壁に穴を開けただけだった。


(奴の弾丸は尽きたはずだ!)


 すぐに秦が物陰に身を潜ませる。それを合図に二人は姿勢を整える。


「今だっ! 行くぞぉ!」


 マイクの叫びを合図に、二人は同時に飛び出す。


 ベンが持っていたハンドガンをやみくもに乱射しながら進む。秦が隠れた木製のコンテナに当てずっぽうの弾丸が撃ち込まれていく。


 途端にコンテナから秦が横跳びに飛び出してくる。

 馬鹿め、二人は秦の銃に弾丸が残っていないと高を括っていた。


 だが、すぐに2発の銃声が響き、ベンの腹部とマイクの右肩を撃ち抜かれた。


 (ば、馬鹿なっ!?)


 撃たれた衝撃と痛みで銃を落とし、片膝を付くマイク。

 一方で秦はゆっくりと近づきながらリボルバーの弾倉シリンダーを開ける。


「途中から応戦の仕方が変わったから注意していたが……まさか見事に引っ掛かってくれるとは」


 秦がへへ、と勝ち誇った笑みを浮かべる。マイクの前まで来るとリボルバーを傾け、シリンダー内に収まっていた空の薬莢を地面に散らばせて、リローダーで新たな弾丸を押し込む。足元に転がった薬莢を目で数える。8発だ。


「残念だったな、俺のリボルバーは八連装式の"R8"だ」


 スピードリローダーを使って新たな弾丸を込め直し、スゥイングを利かせてシリンダーを戻すと、マイクの頭部に銃口を向ける。マイクが悔しさを滲ませる。


「く、こんなバカな小僧に出し抜かれるなんて……」


「馬鹿とはなんだっ!」


 すかさずマイクの顔面に思いっきり蹴りをかます。

 必殺キックを食らったマイクはあっという間にノックアウトだ。

 マイクが伸びたのを確認すると、周囲を確認する。どうやら敵の姿はもうない。

 隠れて貰っている瑠璃の事も心配だが、慶太の事も気掛かりだった。


「一応、見てやるか」


 秦は周囲に闘える敵がいない事を確認すると、落ちている銃の弾倉を抜きながら、倉庫の入り口側へ警戒しながら移動する。



 ― ― ― ― ― ―



 倉庫の入り口から少し離れた作業車両の列で戦闘していたブラストは困惑していた。ブラストの他にジェノバ、カリルという二人の男と共にケータという少年を追い詰めていたつもりだったからだ。


 だが、この狭い車両の中で、奴が隠れたと思われる場所に撃ち込んでも、何の応戦もしてこない。子犬のようにブルってへたり込んでいるのか?

 いや、そんなはずはない。奴の瞳を見る場面があったが、奴の目は獣だ。獲物を捕食する直前の獣だ。


「逃がしたのか?」


 ブラストから少し離れた所にいたジェノバが叫ぶ。ブラストはジェノバの方に目を向けないで首を横に振る。

 並ぶ作業車の物陰を移動していても、自分たちの目に映るはずだ。


 三人は散り散りになり、車両と車両の間をゆっくりと警戒しながら進む。


 その時、カリルが並んだコンテナ車の荷台に積載された大人二人分が入れそうなコンテナの扉が半開きに開いているのを見つけた。ゆっくりとAk-74アサルトライフルを構えながら近づく。


 カリルは構えるAKのセレクターをフルオートに切り替え、音をたてぬように扉の前に立つ。じっと耳を澄ましてみるが、中から物音も息遣いも聞こえない。


 意を決し、扉を足で蹴り開けながらAKを掃射する。けたたましい音と共に弾丸がコンテナの中に飛び込んでいく。


「居たかっ!?」


 遠くからブラストが叫ぶ声が聞こえた。

 コンテナの中には誰もおらず、穴だらけになった段ボールの山があるだけであった。段ボールの中身は衣類なのか、飛び散った布の繊維や羽毛が待っているだけである。


「いや、なんでもないっ!」


 カリルは大声で叫び返し、一瞬の緊張が和らいだ。その瞬間だった。


 足元で銃声が二発響き、同時に両足首に激痛が走ってカリルは地面に転がった。

 苦痛に呻こうと口を開いた瞬間、車両と地面の僅かな隙間にこちらに向ける銃口と二つの目が見えた。猛禽類のような鋭い目だった。


 引金が引かれ、カリルは叫ぶ暇もなく頭を吹き飛ばされた。


「どうしたっ!?」


 ブラストが叫ぶが、カリルからの返事はない。すぐにカリルがやられたことに気付き、カリルの元に急いで移動する。それはカリルの近くにいたジェノバも同様だった。


 ジェノバはAK-74Uアサルトライフル構え、運転席が角ばったトレーラーのような車の角を曲がる。

 その瞬間、一回り小さい右手が伸び、AKの銃身が掴みあげられ、続いて慶太と左手で構えられたガバメントの銃口が目と鼻の先に飛び出してきた。


 驚きのあまりに口を開いたが、声を発する前に引き金が引かれ、左鎖骨の少し下あたりから下向きに連続で弾丸を撃ち込まれていく。苦痛に悶えながら銃を撃ち続ける少年の目と合った。ひどく冷酷に光る瞳だ。

 少年は顔色変えず引金を引き終えると、ジェノバはトレーラーのボディにもたれながら地面に落ちる。


 素早く拳銃をしまった慶太は、掴んでいたAKを奪い、瞬時に持ち構えて恐怖と苦痛に染まっていたジェノバの顔面に引金を引く。その様子をブラストが目撃していた。


「このガキっ!!」


 すぐにサブマシンガンの引金を引く。

 が、その前に慶太は横跳びで車両の影に消える。ブラストはすぐに追いかけ、物陰に銃口を向けるが慶太の姿は見えない。


 (な、なんてガキだ…!)


 ジェノバを殺したのは一瞬だった。

 ブラストは傭兵時代に特別顧問で呼ばれたロシアの訓練教官の動きを思い出す。その男もまた、多くの仲間を機敏な動きで簡単にねじ伏せていた。


 奴はただの子供ではない。

 顔面を吹き飛ばされた無残なジェノバの死体を横目に、ブラストは車両と車両の間をサブマシンガンを構えながら進む。緊張で心拍数の上がった自分の息遣いがやけにうるさい。思わず掛けていたサングラスを地面に投げ捨て、途切れる車両の影に銃口を向ける。


 やがてどこからか気配を感じ、足を止めた。その殺意を纏った気配は車両の影や車両と地面の間からではない。


 はぁ、はぁと呼吸を整える。気配は消えない。その代わりに感覚が鋭くなったような感覚に陥る。気配は自分の左後ろの上だ。


 ブラストは恐怖に塗りつぶされそうな心を払拭させるように、雄たけびを上げながら左後ろ上に身体を反転させる。

 その瞬間、けたたましい銃声と共にいくつもの弾丸が真上から降り注ぎ、ブラストの身体を切り裂いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ