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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第一章・ボディガード・チルドレン
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16.ニューハルス空港

 通りを走る車内では先ほどしたたかに頭をぶつけた秦が唸っていた。


「いい作戦だったけど、あったま痛ぇ」


 志摩が「申し訳ありません」と謝るが、慶太は小さく手を上げて志摩を制する。


「いや、謝ることなどありません。いい運転でしたよ」


 褒められたのが嬉しかったのか、少し照れ隠しような笑みを浮かべる。


「いえいえ、滅相もございません」


 上機嫌そうな志摩に秦はちょっと不貞腐れた顔を出す。それに気付いたのか否か、瑠璃が「大丈夫?」と心配する声を掛ける。

  秦はすぐに取り繕った笑みでにかりと笑う。


「大丈夫ですよ、このくらい。私、タフに出来てますので」


「え、あぁ、うん」


 対応に困った瑠璃が苦笑いを浮かべる。慶太は秦に呆れながらも周囲を見遣る。どうやら追手は付いて来れないようだ。

 みんな安堵し、志摩の運転に身を任せた。


 ― ― ― ―


  しばらく会話もないまま車は走り続け、ニューハルス空港まで一キロの看板が見えてきた。車内ではどこか安心感が生まれ、空気が和らいでいるその瞬間だった。


  後部座席から秦がサイドミラーを覗いていると、後方から猛スピードのバンが現れ、助手席の窓が降ろされるが見えた。途端に血相を変えて口を開ける。


「志摩さん、伏せろっ!」


 秦が叫ぶのが早いか、志摩が頭を下げると同時に銃声が響き、弾丸が窓を叩きつける。防弾を施されたガラスがピシピシとヒビが入る。高性能ライフルで撃ってきている証拠だ。


「きゃあっ!」


 叫ぶ瑠璃を庇う様に秦が覆い被さり、慶太が後方を覗く。バンの助手席から男が身を乗り出し、アサルトライフルを構えて引金を引いているのが見える。連続で放たれる弾丸が遂に防弾ガラスを破り、その破片と弾丸が車内に飛び交う。秦がくそ、と悪態を吐き、さらに頭を沈める。


「なんでここがバレたんだ!」


「そんな事は後でいい!」


 慶太も頭を屈ませながらルームミラーで後方を確認する。敵はAKタイプのアサルトライフルを構えているのが分かる。弾倉の大きさから7.62ミリタイプのものだ。あの弾丸を食らえばひとたまりもない。


「志摩さん、飛ばしてっ!」


「か、かしこまりましたっ!」


  弾丸が当たらぬよう、蛇行しながら進んでいるとすぐにニューハルス空港のゲートが見えてきた。断続的に続く銃撃に頭を伏せながらもゲートを見据える慶太。


「志摩さん、止まるなっ! ゲートを突き破るんだっ!」


「は、はいっ!」


 志摩がハンドルを切り、タイヤはアスファルトを切りつけるように左に大きく切り、閉ざされているゲートを破る。


 ゲートの詰め所にいるはずのガードマンが見えない。代わりにパーカーに弾倉ベストを腹に巻いた男が飛び出し、車に向かって発砲してきた。


「くそ、先回りしてるのかっ!」


 どうやらここのセキュリティは破られたようだ。空港内も安全ではない。そうなると用意されている飛行機も安全とは思えない。


 空港内を見回す。正面の滑走路には恐らく用意されたであろう小型ジェットが停まっている。ジェットの周りに人影は見えない。その少し右手前には白い外壁の貨物倉庫が見える。倉庫の入り口には積み込む予定の貨物が並び、いくつもの鞄や段ボールが荷物を運搬するタグ車に積まれており、荷物を詰め込むベルトローダー車やキャビンなどが点在しているのが見える。


「志摩さん、滑走路には行かないでっ!そのまま右の貨物倉庫の前へっ!」


 焦りながらも志摩は返事し、車を滑走路から右方向へと進ませる。

 秦が後方から付いてくる車に向けて応戦する。だが弾は追手のバンの車体には当たるものの、運転手も助手席の射手に当てる事は出来ない。敵は怯みながらも応戦してくる。その時あたりから秦は妙な違和感を覚えだした。


  だがその違和感の正体を突き止める前に敵の弾丸が左後輪に当たり、車は速度と制御を失った。車は倉庫から200メートル離れた所に停車していたトーイングトラクター※に接触し、そのまま運転席側を先の倉庫側に向くような形で停車した。


  すぐに志摩がエンジンを掛けるがうんともすんとも言わない。すぐに慶太がハンドガンを抜きながら助手席から飛び降り、応戦しながら車の反対側に回る。秦も車が動かない事が分かると瑠璃にドアを開けるように促し、瑠璃の後に続いて降りた。


  追手の車は速度を落とし、停車しようとしている。すかさず狙いを定めた慶太が引金を引き、助手席からAKを構えていた男を射貫く。弾丸は右鎖骨に当たったようで、男は撃たれた衝撃で持っていたAKを滑走路に落とした。バンは慌ててハンドルを左に切り、秦達と距離を開けた。


  だが安心はできない。バンの後方から二台のセダン車が迫ってきていたのが見えた。そうちの一台はフロントが大きくへこんでいる。廃工場で撒いた車だ。厄介な増援だ。

 秦はまだ車から降りない志摩が気になり、運転席の窓の前まで回る。


「志摩さん、急いで車を出ろっ!」


 秦が叫ぶが、志摩の動きがノロい。不自然なその動きに運転席の窓に近づく。ハンドルにもたれかかり、腹部に片手を当てている。指の隙間から赤い血が滲み出ている。思わず瑠璃が両手を口元に当てる。


「そ、そんな……」


「わ、私の事はいいですっ!は、早くお嬢様をっ!」


「くっ」


 少し躊躇したが、秦はすぐに瑠璃の手を引っ張り、車を後にした。慶太も応戦しながら秦と瑠璃の背中を追う。


 全速力で走りながら後方を振り返る。2台の追手の車はすぐに志摩の車を通り過ぎ、運転席側を隠すように停まった。だんだん小さくなっていく景色の中、追手の車から8~9人の男が降り、志摩の車に銃を構えているのが見えた。その後は秦も慶太も振り返るのを止めた。





トーイングトラクター……(航空機をけん引するトラクター)

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