33.そして、現在へ
入学までの約一か月とちょっと、俺は束の間の自由を手に入れた。自由とは言ってもハリソンの部下の監視が付いたものであったが。
俺が居たのはワシントン州のシアトルで、俺は街中を散策したり、ハリソンが用意してくれた金で外食したりと、今まで出来なかった事をした。当然だが、俺のナリでは入れない店もあったが、それでも不便をする事はなかった。
そして部屋で一人になって思うんだ。“俺は随分遠くまで来てしまった。これから、また俺はどこへ行くのか?”って。
入学するまでの時間、俺は不安だった。そればかりが悩みの種であった。だけど、入学したら入学したらで、今度は別の悩みの種が出来たよ。
それが、お前だ。秦だ。
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最近になってだが、レイに頼んでかつての仲間がどうしているのか、調べたよ。
まずイーサンおじさんとサリーおばさんだ。
彼らは故郷を離れ、別の町で暮らしている。おじさんはまだ自動車工場で働いてるらしい。元気でなによりだ。
続いてミオ・チェルザ。彼女はいい大学を出た後、どこかの保護団体に就職したそうだ。優しい性格だから、やはり彼女らしい選択だ。
そしてレンジャーのみんなだが、正直にいえば、いい話はあまりなかった。
まずレンジャーの入隊の時から一緒だったハリス。
ハリスは俺が死んだ2年後、レンジャーを除隊した。そして故郷のノースカロライナでPTSDに悩まされ、自宅で拳銃自殺したそうだ。俺は奴の墓にも行ったよ。
続いて世話になったジェリー少尉。彼は未だに現役レンジャーだ。
だが、トリチェスタンで戦闘中に負傷し、左腕の肘から先を失くしたらしい。お陰で彼は名誉レンジャーとして、本国で訓練教官としてレンジャーを続けている。
そして皮肉屋のファリン。
彼はひどかった。トリチェスタン戦争で俺を含む多くの仲間の死を見てきたせいで、おかしくなってしまったのだろう。トリチェスタンで反政府兵士の捕虜に暴行し、殺害してしまった。彼は今でも軍隊刑務所に服役している。
一個先輩のリックは変らずレンジャーをしている。恐らく、相変わらず悪党を殺して、息子に話しているのだろう。ドーベルマン・キラーだからな。
エリクソン曹長もそうだ。相変わらず曹長の役職のままだ。無口で硬い男だが、部下には優しい。きっと彼の部下は最高の上司だと思っているだろう。
アフガニスタンで可愛がってくれたバードマン伍長は戦死していた。どうやらトリチェスタンで俺が死んだ作戦の後に報復作戦が行われ、その戦闘に参加して亡くなった。
中隊長に昇任したアレックス中尉も現役だ。
最近の写真を見たが、ストレスのせいか前髪が少し後退していたのが気になったよ。
一番の驚きだったのはライバン軍曹だ。
彼はレンジャーを除隊後、ハリウッドで軍事インストラクターとして働き出し、なんと俳優になったのだ。
彼が最初に出演したのはプロパガンダのような戦争映画で、そこでアメリカレンジャー隊員を演じた。しかも、本人役として。面白かったのが、彼が俺のブギーマン役も兼任していたことだ。相変わらずイカしていたよ。
そして、エル。
エルは除隊し、民間軍事企業にいったことは聞いていた。でもまさか、ヤダナギコーポレーションのPMCとは俺も思ってもみなかったよ。
これが、マシュー・ジェンソン軍曹と、短いプロトが歩いてきた物語だ。