13.ロサンゼルス空港からの脱出
ロサンゼルス空港の従業員通路を慶太、瑠璃、秦の順番で走り抜ける。
「くそ、なんとも楽しい事になったなぁ」
吐き捨てると、秦は走りながら弾倉を引き抜き、残弾をチェックする。
「無駄口を叩いてる暇があるなら早く志摩さんに電話しろ!」
「分かってる、今から掛ける!」
片手でケータイを取り出し、すぐに電話を掛ける。
「ねぇ、さっきの何っ!?」
状況を理解出来ない瑠璃が尋ねる。慶太は首を横に振る。
「分からないです。ただ、あなたに危害を加える者であるのは確かですっ!」
「それって…もしかして私のお父さんと関係があるのっ!?」
志摩に電話をしながらもすぐに後方から気配を感じ、瑠璃の背中を押す秦。後方からは従業員の悲鳴らしき声と怒鳴り声が聞こえる。駆け付けたガードマンか、それとも襲撃者かはわからない。
「今は逃げる事が優先っ!」
全速力でバックヤードを抜けていく。通り過ぎ様に驚いたスタッフが何か叫んでいる。だが、そんな事な気にもしていられない。
「この先を抜ければエントランスまで行けるっ!正面に車を回すように言えっ!」
エントランスに出ると慶太が銃を構えて周囲を警戒する。周囲の人々は驚きと怪訝な視線を向ける。中には二人の銃に気付き、小さな悲鳴を上げる者も居た。すぐに異変に気付いたガードマンが腰のホルスターに手をおいたまま駆け付ける。すぐに胸に下げたカードケースを突き付ける。
「BGCだっ! 後ろから武装した奴が来るっ!」
慶太が叫ぶ。ガードマンはすぐにピストルを抜き、慶太たちが出てきた通用口を警戒しながら向かう。二人はガードマンたちの事など見向きもせずにエントランスを駆け抜ける。
エントランスを抜けてガラスドアを抜けて外に出る。するとすぐ目の前に志摩の運転するSUVが滑り込んでくる。窓を開けて、志摩が大声で叫ぶ。
「皆さま、こちらですっ! 急いでっ!」
車に駆け寄ろうとした時だ。志摩の車の向こう、縦列駐車された車の中で一台の古いセダンに目がいった。セダンのドアが開き、三人の男が降りてくる。手にはパイプを繋ぎ合わせたようなものを持っている。すぐにそれがM3サブマシンガンだと気付いた。
「三時方向に敵っ!」
慶太はすかさず2回ほど引金を引く。初弾は外したが、二発目は一番近くの男の右胸に突き刺さり、その場で倒れ込む。男たちが一瞬ひるんだ隙に志摩の車の陰に飛び込んだ。
「急いで乗ってっ!」
秦がドアを開けて押し込めるように瑠璃を車に乗せる。すぐに立ち直った男たちが志摩の車に銃撃を浴びせる。
「きゃあぁっ!?」
ババババババ、と激しい銃声が響き渡り、容赦ない弾丸が襲い掛かる。だが防弾仕様のお陰で車内に弾丸が飛び込んでくることはなかった。
秦はすぐに地面に伏せ、車体下の隙間から覗く男の足に2発発砲する。弾丸は見事に一人の男の両脛に当たり、男は苦悶の表情を浮かべて地面に転がる。
「慶太、来いっ!」
秦が車に乗り込み、続いて慶太が飛び乗る。
「志摩さん、発進しろっ!」
慶太の怒声に志摩は慌ててアクセルを踏み込む。だが目の前には最後の一人が車の正面まで回り込み、フロントガラスに向けて銃口を向けていた。
「避けろっ!」
男が発砲し、これまた防弾仕様のフロントガラスに弾丸を撃ち込む。いくつにも放たれた弾丸はガラスを破る事はなかったが、ピシピシと音を立てて小さなヒビを入れていった。
車は急ハンドルを切り、男の右側に回避しようとした。慶太は秦と頭を抱えている瑠璃の上を飛び越え、左側のドアを力任せに思い切り開ける。
タイミングよく開いたドアに男は押し退けられ、地面に転がる。男を押し退けた反動でドアはバタリと閉じた。
「止まらずにっ!」
慶太が叫ぶ。志摩はそのままアクセルを踏みぬき、車を加速させていく。
車はそのままロータリーを抜け、ハイウェイへと駆け抜ける。背後を振り返るが、追手が来る気配はないようだ。