表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第五章・グッドバイ・ベビーフェイス
134/146

26.ブギーマンとBTR

 先ほどの看護師の件から気を取り直そうと、俺は少し力みながら病院内のクリアリングを行っていく。


 大きな病院に対し、僅か十人しかいない俺達は数名ずつに別れて行動した。トーチ4が上階からクリアリングを行い、俺達トーチ3がそれを追い掛けるように下から調べていく。


 二階に上がり、リックとファリンが東側を進む。俺とエル、エリクソン曹長が西側を担当した。


 俺を先頭に廊下を歩き、各部屋の扉を開けていく。だが、どの部屋にも脅威となる敵はなく、病床に伏せた者や怪我を負った人がベッドの上でこちらを見て怯えているだけであった。


 怪我した人を見る度、先程の看護師の事が頭にちらつく。


『すべて殺して、安全を確保つもりなのっ!?』


 彼女の言葉がどうしても離れない。俺はそれを振り払おうと任務に集中しようと努めた。

 いくつかの病室を回り終え、ちょうど別棟の連絡橋の丁字路に差し掛かった時だった。


 廊下の窓から見える連絡橋に目をやっていると、一人の男が病室から出てきた。黒と白のストライプが縦に入ったワイシャツを肌色のパンツスーツに入れた中年の男だ。先頭にいた俺が叫ぶ。


「外は危険ですっ! 中にいてくださいっ!」


 男は俺の声にギョッとし、身体をビクつかせると驚愕の表情を見せた。


 次の瞬間、男が出てきた病室からAK-74Uアサルトライフルを構えた兵士が、半身を乗り出すように見せると同時にこちらに向かってフルオートで発砲した。


 けたたましい音と共に俺達の周囲に弾丸が吐き出される。俺達は廊下の壁から飛び出す様に僅かに出ている柱に身を隠す。


「敵だっ!」


 俺は柱の影で身を捩じらし、弾が当たらないように身体を縮める。周囲の病室から女性の悲鳴や子供の泣き叫ぶ声が響く。


 敵が撃ち終えると俺達はすぐに応戦した。なるべく柱から身を出さないようにM4を短く持って引金を引く。先ほど撃ち終えた敵は身を隠しており、中年の男は連絡橋の上を走っているのが見えた。


 兵士はまた身を出し、こちらに応戦する。今度は俺達が身を隠す番となり、弾丸が当たらないように体躯を捩る。


 銃撃や止み、すぐに廊下に目をやると、今度は兵士たちが中年の男を追いかけるように走っている。俺達は廊下の窓のガラス越しに兵士にたちに向かって引金を引く。


 銃声の中で微かに唸り上げるエンジン音が聞こえ、俺は窓の下に目をやった。

 階下の道路にはいつかの俺達を苦しめたものと同型のBTRが走り、俺達の近くで見上げるように砲塔を回して停車した。


「BTRっ!」


 俺が叫んだ瞬間に、俺達に向けられていた砲塔から12.7ミリの機関砲の弾丸がけたたましい音と共に撃ち放たれる。大口径の弾丸が外壁に穴を開け、廊下の壁や窓ガラスを穴だらけにしていく。間一髪で頭を下げた俺達の頭上にコンクリートや石膏ボードの粉が降り注ぐ。


 BTRの攻撃は容赦がなく、俺達が隠れる壁を撃ち抜こうと射撃を止めない。壁越しに伝わる着弾の振動に恐怖を覚えた。


「出るなっ! 絶対に出るなっ!」


 後ろでエリクソン曹長が叫ぶ。


 最悪な事に、俺達の装備ではBTRに対抗できる装備を持っていない。だがこのままでは嬲り殺しだ。

 俺の頭の上の窓枠が吹き飛ばされ、それを固定していたコンクリート壁が欠け、俺のヘルメットの上に落ちる。


 一瞬、銃声が止むとエルが迂闊にも窓から顔を覗かせる。慌ててエリクソン曹長がエルの身体を引っ張り込むと、エルが覗いた辺りに向かってまた銃撃が行われる。今度はエルがいた所の壁が吹き飛び始め、窓枠とそれを固定していた下端のコンクリートが削られていく。


 このままでは皆がやられる。そう思った瞬間、身体が先に動いた。


 俺は這いずるように廊下を進み、連絡橋へと進んだ。連絡橋の中ほどで、進むとガラスの割れた窓から下を覗く。


 下にはBTRのルーフが見える。砲塔は本棟にいるエリクソン曹長やエルに向けられており、俺の姿には気付いていないようだ。


 瞬時に判断した。俺なら、やれる。根拠のない自信が満ち溢れた俺はガラスのなくなった窓枠の冊子を掴んでいた。


「よせよせよせっ! マシュー、やめろっ!」


 エリクソン曹長の制止する言葉を無視し、俺は窓を乗り越えてBTRのルーフに向かって飛んだ。


 身体が宙に浮いている一瞬の間に俺は左手でM4のハンドガードを掴み、着地の際にぶつけないように注意を払う。


 硬いブーツの底が鋼鉄のBTRの屋根にぶつかり、俺は落ちた勢いで張り付くように突っ伏す。すぐに身体を起こし、砲台の所まで駆け出す。


 敵も俺が飛び乗った事に気付いたのだろう、砲塔上のハッチが開いて一人の兵士が片手にハンドガンを握って半身を出そうとしてきた。


 俺は駆けながらもレッグホルスターに差していたM9を抜き、こちらにハンドガンを向ける前に兵士に向かって数発引金を引く。撃たれた兵士はそのままハッチの下に落ちていく。


 駆け込んだ俺は閉まる寸前のハッチに足をねじ込み、M9をホルスターに納めると、ベルトに備えていたポーチの中から手榴弾を掴み取る。


 足を抜き取ると同時に左手でハッチを掴み、右手に握った手榴弾を口元に運び、ピンを歯で挟んで抜き取る。安全レバーがピンっと軽く飛び、俺はハッチの中に放り込んでハッチを閉じてやった。


 足元から騒ぎ出す兵士たちの声が聞こえ、俺は即座に車両の後部に走る。

 後部の右側面に寝そべるように身を出し、ガンポートを開け、先程と同じように左手で蓋を開け、右手で最後の手榴弾を口でピンを抜き取り、放り込む。


 今度は慌てふためく声が聞こえだし、砲塔側の方で鈍い破裂音が聞こえた。


 俺はBTRから飛び降り、M4を構えて後部に回る。降車用の後部ゲートが勢いよく開き、兵士たちが慌てて飛び出してくる。俺はBTRに身体を寄り添わせ、M4のセレクターをバースト射撃に切り替え、奴らの背中に向けて引金を引く。


 飛び出した四名の兵士を射殺した瞬間、BTRの中で二度目の爆発が起きる。弾切れを起こしたM4から手を離し、俺は右手でM9を抜き、左手を背中のバックパックの下に潜らせ、隠し持っていたジェイクから貰ったガバメントを引き抜き、前に構えてBTRの開け放たれた後部ハッチから車内に入る。


 車内では手榴弾でミンチにされた兵士の死体と、逃げ遅れたであろう二名の兵士が床から立ち上がろうとしているところだった。俺は二丁のハンドガンで生き残っていた二名の兵士を射殺する。


 俺は兵士の死体を乗り越え、運転席側へと向かう。ちょうど砲塔の近くに存在する運転席は、先程の手榴弾のお陰で運転手と助手席に座っている男はピクリとも動かない。俺は躊躇いなしにシートの裏側からM9を一発ずつお見舞いしてやる。なぜか? もう動かないように、と思ったからだ。


 BTRを完全に無力した俺は二丁のハンドガンをしまい、M4カービンのマガジンを交換しながら後部から車内から出た。足元には先ほど射殺した四名の兵士の死体が転がっている。その辺りで自分の起こした行動を改めて振り返り、身震いした。


 考えるよりも先に行動を起こした自分が怖くなった。数分にも満たない時間の中で、たった一人で十人の兵士を殺害した。僅かな恐怖を感じる一方で、妙な高揚感を覚える。


 一瞬の思考を巡らせていると、無線が入る。


『ブギーマンめっ! 何を考えているっ!』


 耳元と頭上でエリクソン曹長の怒声が響く。見上げると連絡橋の窓から呆れたような半笑いを浮かべる顔を覗かせている。


「曹長、申し訳ありませんっ! 敵車両を無力化しましたっ!」


 俺がありったけの声で叫ぶと、エリクソン曹長は口角を上げたまま首を小さく左右に振る。


「このサイコ野郎っ! お前は大した奴だっ! そのまま別棟に向かえっ! さっきの男達を追うぞっ!」


 エリクソン曹長が言い終わると、即座に顔を引っ込めた。続いてエルが顔を覗かせ、ニヤリと笑った。その笑みが何を意味していたのかはわからない。


 俺もエリクソン曹長に命ぜられた通り、すぐに別棟に向かって走り出す。


 歩道と敷地の間に植えられた背の低い街路樹を飛び越え、建物に向かって走り出す。別棟に入る扉は見当たらず、俺は建物に沿って走り続ける。


『こちらジェリー少尉だっ! 先ほどの銃声はなんだっ!?』


 インカムからジェリー少尉の怒声が聞こえる。俺が応答する前にエリクソン曹長が無線に答える。


『こちらトーチ3。接敵しました。敵は西側の別棟に潜んでいます』


『了解した。各員、援護に行くぞ』


 ジェリー少尉からの無線が終わり、俺は建物の角を曲がってまた同じように進んでいく。目の前には広い駐車場が広がっており、何台もの車が駐車されている。


 そのまま角まで進み、角を覗き込む。ガラス張りの正面玄関が見え、中のエントランスホールには人の気配ない。


 その時、背後でエンジンが掛かる音がして瞬時に振り返る。駐車された車の群れの中から一台の銀色のセダン車が走り出すのが見えた。俺は建物の角から離れ、車を追いかける。


 タイヤをアスファルトに切りつけ、甲高い音をたたせながら走り出させている。俺は走るのを止めて、車に狙いを定める。距離はおよそ二十五メートルもないだろう。俺はタイヤに狙いを付けて引金を引く。


 バースト射撃にしたままで引いた弾丸はアスファルトと車のリアバンパーに当たっただけで、タイヤには命中しなかった。


 どんどん離される中、俺はもう一度狙いを定め、指先とスコープから見える車に集中する。


 パン!


 俺の背後で銃声が響き、スコープの中で走っていたセダンの右後輪がパンクし、車体が左右にぶれる。


 振り返ると、背後にはエルがM4を構えていた。エルの後ろにはエリクソン曹長が走っている。エルは車のタイヤを撃ち抜いた事を確認するとニヤリと口角を上げた。


 コントロールを失った車は近くに駐車していたバンにフロントから突っ込み、後輪を浮かせるように停止した。すぐさま運転席と助手席のドアから兵士が飛び出し、応戦しようと構える。後部座席のドアも開き、先程のワイシャツ男が転がるように飛び出る。


 俺達はすぐに構え、引金を引く。運転席の兵士は発砲する前に弾丸を浴び、その場でリズムの取れていないようなダンスを踊って倒れた。助手席の男もその場で膝をついて崩れ落ち、なんとか上体を起こそうとするも、エリクソン曹長の放った弾丸によって絶命する。


「男が逃げたぞっ! 追えっ!」


 エリクソン曹長の叫び声に俺とエルは射撃体勢を止め、駐車している車の群れを縫うように走る男を追いかける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ