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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第五章・グッドバイ・ベビーフェイス
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22.オペレーション・デザートキャッスル

 

 集結地点についた俺達は、眼前に広がる首都バグラムに目をやった。


 少し先に広がる大都市からは黒煙が上がり、幾つもの爆発音と銃声が響いている。上空ではこちらのF-22戦闘機やF-14戦闘機が、トリチェスタン軍が採用したミラージュ2000戦闘機とドッグファイトを繰り広げていた。


 どうやら制空権を掌握したつもりでいたが、反政府軍も最後の抵抗とばかりに隠し持っていた戦力を全て出してきたようだ。おかげで空軍はそちらの対応で手いっぱいなようだ。


 街の様子を見ると、郊外には空軍の攻撃によって朽ち果てた反政府軍の装甲車や対空砲、戦車が見受けられた。だが、市内はビルの森で囲まれており、様子を伺う事は出来ない。


『こちらハンターライト。空挺師団(イーグルス)が到着する。作戦開始まで残り五分』


 ふと上空を見ると、俺達は来た方向からAC-130ガンシップに付き添われるC-17の編隊が見えた。


 彼らは勇敢だ。ドッグファイトを繰り広げる中でも飛行機を飛ばし、そのまま敵地のど真ん中に降下するのだから。


 勇敢な空の戦士たちが飛んでいくを見届けるなり、俺たちは車両に乗り込んでいつでも発進できるように準備をする。


 国道にはアメリカ軍の高機動車が並び、都市を囲うようにM1エイブラムス戦車が横一列に並んでいる。俺達はただひたすらに作戦開始の合図を待った。


『こちらハンターライト。作戦開始だ』


 今回は開始のコードもなくスタートを言い渡される。俺達は戦闘を走る三台のLAVに続いて車列を進ませた。


 国道はそのまま都市の中心部へ進むハイウェイに切り替わる。ハイウェイの上には、放置された車両があちこちに点在し、それを縫うように車列は進んでいく。


 車列は徐々にビルの森へと近づいていく。改めて近づくバグラムはいつかみたシカゴの街に似ているような気がした。眼前に迫るビルの群れを前に、機銃座に座るリックがM249LMG(ライトマシンガン)のチャンバーレバーを前後に動かし、薬室の中に弾丸を押し込む。


『こちらコンピー1。二時方向、ビル屋上に不審な動き有』


 先頭のLAVから無線が入る。リックが警戒し、指示のあった方角にLMGの銃口を向ける。車内でも皆が窓から銃口だけを伸ばし、周囲を警戒する。


 だがそれ以降からは特に無線は入らず、遠くで響く爆発音と微かなに聞こえる銃声だけしか聞こえない。


 俺達が進むハイウェイは都市部の手前でスロープになり、高架橋の上を進んでいく。坂を上がっていくと、真下には片側四車線の国道が見える。このハイウェイに沿うようにの真下を通っているようだ。


 坂を上ってから十分ほど時間が経つ。やけに静かすぎる。車内でも妙な緊張が走り始めた。


 やがてLAVが都市の入り口とも呼ぶべき案内掲示板の真下まで通過した時、一発の銃弾がLAVの後ろを走るトーチ1のハンヴィーの車体に当たって甲高い金属音を鳴らし、跳弾したのであろう、前を走るLAVに当たる音が響いた。遅れて銃声が響き、俺達は一瞬だけ身をビクつかせた。


『こちらコンピー3っ! 被弾したっ! 方角は分かるかっ!?』


『こちらトーチ1。着弾を確認。あー……三時方向だと思われる』


 どうやらLAVの乗組員は自分たちが被弾したと勘違いしたようだ。そんな間抜けを笑えるほど俺達には余裕がなく、報告のあった三時方向に目をやる。レンガ調のビルやくすんだ灰色のビルが並び、狙撃手の確認は出来ない。


 俺が顔を向けた次の瞬間、周囲のビルの窓から数名の人影が見え、一発ずつこちらに向けて発砲するのが見えた。周囲のアスファルトや車体に銃弾が当たる。


『こちらコンピー3っ! 再度被弾っ!』


 再度無線が入る。すぐにリックが敵が居た場所に向かって発砲を開始する。けたたましい音と共に空薬莢がバラバラと車内や車の外にばら撒かれる。他の車両からも応戦を始め、周囲には耳をつんざくような銃声が反響していく。


『こちらハンターライトより各隊へ。そのまま集結地点“ロメオ”へ向かえ。』


 本部からの無線が入ると先頭を走るLAVは速度を上げた。俺達も自然と速度を上げる。


 “ロメオ”とは首都中心部である国立病院だ。今回の作戦ではロメオを制圧し、空挺師団の援護を行うことになっている。


『こちらスカイハイ。了解した。全てのチームはハイウェイ23を維持』


 今進んでいるハイウェイ23はロメオへの最短ルートだ。市内に入ってからは放置車両も路肩に避けてあり、走行は問題なく進めている。だが、それ事態に違和感を覚えた。


 嫌な予感がし、ふつふつと肌が粟立つ。この不安がなぜ来るのかわからない。ハンドルを握る手が汗ばむ。


 先程の銃撃以降、敵からの応戦がない。LAVもこちらのハンヴィーの銃座も周囲を警戒するが、敵の姿を捉えることはない。


 どうやら、嫌な予感を覚えているのは俺だけではなかったようだ。エリクソン曹長が無線で呼びかける。


『こちらトーチ3からトーチ1へ。敵の攻撃が薄い。妙だ。速度を落とせ』


『こちらトーチ1。了解した』


 わざとトーチ1に進軍を遅らせた。トーチ1のサンダーソン曹長も古参だ。敵の攻撃の仕方に違和感を覚えたのだろう。LAVに若干距離を開けて走行を始める。LAVは気付かずにそのままの速度を維持し、ハイウェイを抜ける。


 速度が落ちると、俺達の車列全体が重苦しい空気に包まれた気分がした。LAVに乗った海兵隊たちは気付かないのだろうか? 時間にして数分も経たないだろう、それは起きた。


 左側のビルから目に捕らえられない程の速さで白い煙が空中に線を描き、先頭のLAVが爆発して白い煙と破片をまき散らし停車した。


 すぐに減速し、俺は思わず煙の発射元に目をやる。一瞬だが、反政府軍の兵士が筒状の何かを抱えて物陰に飛び込んだ。一瞬でも分かる。RPG-29だ。RPG-7よりのはるかに破壊力の高いものだ。


『LAVが被弾っ! 繰り返す、LAVが被弾っ!』


 すぐに残った二台のLAVが発砲した付近にチェーンガンを撃ち込み、即座に後部のハッチを開いて海兵隊員を展開させる。その瞬間、周囲のビルの屋上から反政府軍の兵士が姿を現し、展開した海兵隊に向かって銃撃を浴びせた。

 俺達のハンヴィーにも銃撃が浴びせられ、甲高い金属音が響いて火花が散る。


 『トーチ1っ! 袋叩きにされるっ! ハイウェイを降りるっ!』


 トーチ1がハンドルを切り、ハイウェイの出口へと向かう。続いて目の前のトーチ2のハンヴィーも同じように続いていく。


「マシュー、ハイウェイを降りろっ! このままだと嬲り殺しにされるぞっ!」


「了解っ!」


 俺は頭を下げながら前を走るトーチ1、2に続いてアクセルを踏み出口へと向かう。


「彼らはっ!?」


 エルが銃声に負けじと声を張る。


「後ろの海兵隊に任せておけっ! 俺たちの任務は合流地点の確保だっ!」


 ファリンがエルに叫ぶ。


 敵もさるもの引っ掻くもので、俺たちに罠を掛けたのだ。俺達はハイウェイで抵抗するLAVを横目に、出口のスロープを降りていく。必死に周囲のビルに応戦する海兵隊たちの焦る顔が見える。


『トーチ5っ! フォーリー軍曹が被弾っ!』


 後方のトーチ5から悲痛な無線が入る。次第に無線は混線し、混乱と悲痛な声で埋め尽くされた。


『コンピー3っ! 負傷者が多いっ! 撤退を求めるっ!』


『ハンターライト、ハンターライトっ! ハイウェイ上で敵と交戦っ! 応援を求むっ!』


『こちらトーチ4っ! ハンターライト、支援ヘリを要請するっ! コード……334665だっ!』


 混乱する声が飛び交う中、微かにジェリー少尉が本部に支援ヘリと支援地点を告げる声が拾えた。


『こちらハンターライト。あー……コード334665だな? 負傷者の数は?』


『そんなもん知るかっ! 大勢だっ! ライノの支援も呼べっ! 海兵隊を死なすなっ!』


 ジェリー少尉の怒声が響く。さすがは我らレンジャーが誇る熱い男だ。先の検問の件もあってか、そうとう苛立っていたのだろう。だが、今の状況で冷静になれる奴はいない。


 トーチ1が出口を塞いでいた放置車両を勢いよく吹き飛ばし、国道に突入する。国道に至っては広い車線もあってか、放置車両が点在してもスムーズに進めた。


『こちらスカイハイ。トーチ1、目標は2ブロック先を右折だ』


『了解、スカイハイ』


『こちらトーチ5。フォーリー軍曹の出血がひどい。停車して治療にあたりたい』


『こちらスカイハイ。……ダメだ。敵地の真ん中だ。目標の病院まで待て、アウト』


 わずかだが、アレックス中尉が逡巡したのがわかった。悔しいが、確かにアレックス中尉の言う通りだ。下手に停車したら、さっきのLAVの二の舞になる。


 俺達は苦虫を噛み潰したような気持ちで車を進め、指示のあった交差点を右折した。右折を開始して全ての車両が曲がり切った時だった。


 バリバリとヘリのローター音が周囲に響き渡る。味方のアパッチだろうか?一秒にも満たないほど聞いていた時、その音に違和感を覚えた時に、それは目の前に現れた。


 目の前の交差点、それもビルの影からそいつは現れた。


 ロシア製戦闘ヘリコプターMi-24ハインドだった。機首をこちらに向け、流線形に丸みを帯びたコクピット下には12.7mmの弾丸を毎分四,〇〇〇発発射できるガトリング砲がこちらに向き、両翼の下には対戦車ミサイルとハチの巣のように幾つも穴が空いた無誘導ランチャーがシンメトリーのように交互に備わっている。


「ハインドっ!」


 誰かが叫ぶなり、俺は慌ててハンドルを左に切った。


 俺がハンドルを切るその瞬間、ハインドはこちらに向かって飛行し、ガトリング砲とランチャーを撃ち込みながら上空を滑空していく。


 目の前のトーチ2のハンヴィーのフロントにランチャーが着弾し、ハンヴィーは後輪が持ち上がり、爆発しながら後ろにのけ反った。


『各チーム散開しろっ!』


 アレックス中尉の無線が早いか俺達がドアを開けるのが早いか、各チームは車両から飛び降りた。戦場において、攻撃ヘリより早いものなんてない。到底、車なんかで逃げ切れるわけがない。


「車両から降りろっ! 建物に逃げ込むんだっ!」


 後ろでジェリー少尉が叫ぶ。ライバン軍曹もリックも慌ててルーフから飛び降りる。だが運転していた俺も銃座についていた二人も、自分のライフルやLMGだけは持って車両を離れた。


 俺たちはショーウインドウがある雑貨屋のような店の入り口で叫ぶジェリー少尉の元に必死に走る。走りながら、先程を掃射したハインドが飛び去った方を一瞥する。


 ハインドは空中で半円を描くようにターンを決め、再度俺達の車列にランチャーとガトリングを浴びせてきた。幸いにも皆が建物側に走った後だったので、被害は免れた。


 ハインドのお陰でチームは通りを挟んで南北に分断された。北側に俺達トーチ3、4。南にサンダーソン曹長のトーチ1、バードマン伍長がいるトーチ5。アレックス中尉は……爆撃を食らったトーチ2だ。


 俺達は店の中に入り、ガラス越しにトーチ2を見た。フロントはひしゃげ、黒い煙を上げている。店内ではトーチ4の隊員がジェリー少尉の耳元で叫ぶ。


「携行型対空ミサイル(スティンガー)が車の中ですっ!」


「どの車だっ!?」


「トーチ2っ!」


 サンダーソン曹長が苦い顔を浮かべる。

 その時、トーチ2をライフルスコープで覗いていたエルが叫んだ。


「サーっ!」


 皆がエルに視線を向け、続けてエルがトーチ2のハンヴィーに指を差し、それにつられてハンヴィーを見る。

 手前に見える運転席の向こう、助手席で動く影がある。助手席にはアレックス中尉が座っていたはずだ。


「生きているっ!」


 ファリンが叫んだその瞬間、エルが店を飛び出し、路上へと描けていく。


「エルっ!」


 俺が叫ぶなり、エルの後を俺とエリクソン曹長が慌てて追いかける。


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