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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第一章・ボディガード・チルドレン
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11.空港内

 空港内に入ると多くの利用客がとめどなく往来していた。平日とはいえど、流石は国の玄関口となるところだ。多彩な人種が様々な目的の為にせわしくなく足を運ぶ。ビジネスマン、観光客、旅行者、移住者、労働者。秦と慶太は全てに目を配らせる。


 秦は瑠璃の横を歩きながら、頭の中でガードマンやテロ対策として派遣されている米兵の位置や空港の構造を少し前にみた資料と照らし合わせた。進みながら確認をするが、ほぼ違いはないようだ。


 三人はチケットカウンターまで行き、若いブロンドの女係員に身分を話す。話を聞いた係員は傍らにあった電話機を持ち上げ、手慣れた手付きで一つのボタンを押して耳元に受話器を置く。おそらく、内線で空港のお偉い方に確認をしているのだろう。秦と慶太は係員を尻目にまた周囲の目をやる。


 時間にして五分もないうちに係員は内線を切り、秦と慶太に志摩からの言う通り、手配が出来ていることを話すと三枚のパスケースを渡した。首からぶら下げるストラップも付いている奴だ。


「おいおい、こいつはなんだ」


「これは当空港でVIP対応のお客様のみにお渡ししているカードです。これを係りの者にお見せください。チェックなどなく通れるようになっております」


 丁寧な口調で説明する係員。このパスカードを付けるという事はつまり『私は特別な人間です』というアピールになる。護衛にとって大事なのはあまり目立たないように行動することだ。秦は納得できずに不服を言おうとしたが、隣で察した慶太が静かに手を上げて制止を促すのでしぶしぶ黙った。


 係員は空港のフロアガイドを取り出し、搭乗口とそこまでのルートを指でなぞって教えてくれた。ルートは一般人が通れないルートを通るようだ。このおかげである程度の不安要素は減る。


 三人はカウンターを後にし、支持された搭乗口へと向かう。途中、ガードマンたちとすれ違うと奇異な目で顔と胸のパスカードに向け、耳打ちをする。違う意味で有名人になったようだ。


 大声で話すイタリア人観光客の集団の横を通り過ぎる時、瑠璃が口を開いた。


「ねぇ、二人は日本に来てどうするの? 学校とかは通うの?」


「それに関しては資料を渡されました。詳しい内容はまだ目を通しておりません」


 瑠璃の方など見向きもせずにサラリと答える慶太。


「じゃあ、もしかしたらうちの学校に通うのかな? 秦君はたしか同い年だったよね? それなら同じクラスになれるかもね」


「そうかもね。そしたら楽しく――」


 言い切る前に瑠璃が続ける。


「でも、慶太君は年下だから学年違うし、どうするのかなぁ?」


 慶太は瑠璃の問い掛けに相変わらず「さぁ、とりあえずは状況次第でしょう」とさらりと返す。つまらない奴だと秦は思った。


「でも、なんだろうね。家族が増える感じでいいなぁ。私の家ね、本当の家ってわけじゃあないんだ。身寄りのない子供が集まる施設でね。今は私が年長なんだけど、下の子が居てさ。そこで兄妹とか姉妹みたいに暮らしてるの。それで――」


「そんな事より谷田凪さん、君はもう人気者だぜ」


 慶太の塩対応にどぎまぎしながらも楽しそうに話す瑠璃に対し、何かに気付いた秦がぼそりと声音を低く変えて遮った。え、という表情を浮かべる瑠璃。


「二時の方向。スーツの男。左胸のジャケットの下、拳銃有」


 次に慶太が低く抑揚のない声で囁く。え? とした顔で瑠璃が慶太を見た後、それらしい方向に目を向ける。ソファーに腰掛け、紙コップに入ったコーヒーを啜る中年のサラリーマンが居た。すると今度は秦が囁く。


「さっきすれ違った旅行者風のおっさんの左手にナイフダコが出来てる。引き返してぴったりこっちに来る」


 秦の言葉に瑠璃は振り返ろうとしたが、静かに肩を叩いて制した。


「振り向かないで。いざという時は慶太がカバーする」


「言われなくても。上部連絡橋にケータイを持つ男、胸のジャンパーに拳銃有。恐らく連絡員」


 瑠璃は顔を上げずに瞳だけでちらりと上を向ける。そこにはサングラスをしてケータイを耳に当て、空いた片方の手で身振り手振りをしながら話す作業服の男が居る。とても恐ろしそうな人間とは思えない。


「配置の仕方が教本で教わった襲撃の仕方に似てるな」


 秦がいつの間にか取り出したケータイ電話を操作しながらボソリと呟く。瑠璃がちらりと画面を見るが真っ暗だった。操作するふりをして、ガラスの反射で周囲を見回しているようだ。


「教本は実際の襲撃作戦を模しているからな。ならばどこかにパーティーマン(※騒ぎを起こし、陽動を行う人物)がいるはずだ」


「この人数では勝ち目がないな。なら搭乗口通路に向かう角で巻く。奴らにバレてねぇうちに」


「そうだな」


 秦と慶太が頷き合う。瑠璃は二人の会話がとても理解出来なかった。思わず半笑いを浮かべる。


「え、ちょっと二人ともふざけてるの……?」


 瑠璃の問に秦はニヤリと笑い、「そう思うなら、あの角を曲がって走った後に振り向けば解る」と告げる。


 三人はそのままロビーを進み、従業員専用通路に入る角の近くまで歩みを進める。VIP専用の通路まではもう少しだ。


「後ろから例のスーツの男が近づいている。危ないな。合図で走る」と秦。


「わかった。だがターミナルにも待ち伏せがいるはずだ。進路先はお前に任せる」と慶太。


「よし……って敬語使えっ! 四……三……二…」


「ね、ねぇ、二人とも……」


「一……走れっ!」


 瑠璃の問いかけなど聞かず、秦の合図と共に慶太の二人で瑠璃の背中を押し、一気に駆け出す。思わず「キャッ!?」と小さな悲鳴を上げる瑠璃だが、気にせず角を曲がり、滑走路を見渡せる小さな通路へと出る。


 三人はそのまま『関係者以外立ち入り禁止』の札が掲げられた通路の中へと飛び込むように走り抜ける。


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