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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第五章・グッドバイ・ベビーフェイス
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8.サンダークラップ作戦

 あの戦闘から二日後、中隊長の口から都市部に集結しているターリバンの勢力を一斉に掃討する作戦が『サンダークラップ』と名付けられ、正式に決行することを告げた。


 ネイビーシールズに伴い、海兵隊、更にはデルタフォースを投入し、ターリバンに組みする部族の長やターリバンの幹部級を捕縛することがこの任務の目的だ。


 作戦本部は躍起になっているのが雰囲気でわかった。大統領選挙が近い今、この作戦を成功させなければ今後の軍への予算が変わるのだろう。なんせ経って国民は戦争に疲れてしまっている。国としても税金の無駄遣いは防ぎたいし、それのアピールも行いたいだろう。


 だが最前線で戦う俺達には、そんな事どうでも良かった。

 俺達はツインタワーを破壊した悪党を国の命令を受けて倒しにきたのだ。俺たちに政治の事だとか、国家予算がどうだとか言われても困る。つまらない議論をしていたら、死んでいった仲間たちは報われない。


 特に俺たちのチームは先の闘いで死んだジェームスの仇を討つのに躍起になっていた。

 俺とハリス、ファリンは作戦前に背中に入れ墨を彫った。もちろんジェームスの名前だ。


 奴は最高の仲間で、俺が出会った中で最高の黒人だった。忘れることはないが、自分を戒めるためにも身体に刻んだ。


 作戦は真っ昼間に市内にハンヴィーとヘリボーンで乗り込む同時侵攻作戦であった。俺たちレンジャーは都市部の周囲を囲い、逃げてくる奴や都市部へ応援に向かう勢力の足止めであった。


 アレックス少尉のチームは都市部でもっともアジトに近いと言われる通りの封鎖を行う。そこで俺はアレックス少尉のチームに希望を出した。そこでドライバーのアルバーンが交替すると手を上げた。

  俺の所属するジェリー曹長の班は郊外付近で、戦闘が少ないと見込んだのだろう。アルバーンは安心した表情を浮かべていた。正直、ムカついた。


 俺はまたアレックス少尉の他にエリクソン曹長、ライバン軍曹の乗った車両に乗り、作戦に身を投じた。

 俺が運転席に乗り込むと、隣にはライバン軍曹が座った。すかさず肩を叩いてきた。


「マシュー、話は聞いた。ジェームスは残念だった」


 俺は頷く。ライバン軍曹は続ける。


「気を落とすな。強くなろう」


 再度肩を叩くと少し口角を上げて、男前なスマイルをくれた。こういう時、古参の兵士は頼もしい。

 後部座席にはエリクソン曹長、ハリスが滑り込むように乗り込む。銃座にはファリンがついた。

 なぜ彼らが乗り込んだのか理解できず、俺が目を丸くしているとハリスが笑う。


「マシュー、こっちに移ったぜ」とハリス。


「なんでだ?」


 俺は思わず笑みをこぼす。


「小隊長にお願いしたんだっ!『マシューにはおしゃぶりをつけるママが必要だってなっ!』」


 ファリンが言い終わるとガッツポーズを上げる。

 どうやらアレックス少尉が気を使ってくれたようだ。少尉は後方の車両に移ったらしい。

 俺達の様子を見たライバン軍曹はニヤニヤと笑っていた。エリクソン曹長も表情では呆れているが、まんざらでもないような顔だ。


『こちら、カウボーイ。《キャシーは今日も笑った》繰り返す、《キャシーは今日も笑った》』


 車載無線から声が流れる。”カウボーイ”とは本作戦の暗号コードで、《キャシーは今日も笑った》は作戦を開始する合図だ。


「“クソ(ファッキン)キャシー”」


 ライバン軍曹が笑いながら呟く。

 俺はエンジンを掛け、アクセルを踏み込む。

 俺達レンジャーのハンヴィーは蛇のような列を作り、砂埃をまき散らしながら基地から出て行く。

 上空ではUH-6リトルバードヘリ、そしてMH-60ブラックホークヘリが飛んでいく。



 ― ― ― ―



 街が見えると、俺達”新生”トーチ3はアレックス少尉の乗るトーチ2と一緒にもっとも広い、南のメイン通りの入り口を封鎖した。


 すでに市内に突入したネイビーシールズやデルタフォースが激しい銃撃を行っている。俺達は海兵隊の車列が通り過ぎるのを見た後、ただひたすらに敵を待った。


 だが敵は逃げ出すことも、応援を呼ぶこともなかった。こちらのエリート部隊が良い仕事をしているのか、それとも奴らのガッツが高いのだろう。


 十五分ほど、ただ熱い地面に膝を付いて、周囲を見回すだけであった。

 しばらくして無線が入る。


『こちらカウボーイ。市内にて海兵隊が分断されている。トーチ、お前たちのチームが一番近い。行けるか?』


『こちらトーチ、了解した』


 今度は無線にアレックス少尉が答える声が聞こえる。またアレックス少尉がいう。


『こちらアレックス。一番近いのはトーチ3だ。いけるか?』


「こちらトーチ3。了解した」


『聞いての通り、海兵隊(デビルドッグ)※が分断された。エリクソン曹長、行けるか?』


「了解です。トーチ3、集合」


 エリクソン曹長の声で俺達はハンヴィーに集まった。


「今から海兵隊(デビルドッグ)の救出に向かう、付いてこい」


 俺達は「了解」と頷く。


「ハリス、お前はここでトーチ2と残れっ!」


 ファリンがハリスの目とは鼻の先で指先をひらひらさせる。


「ハリス、お前は留守番だ」


 ファリンのからかう顔に向けてハリスはニヤリと笑う。


「土産を頼むぜ」


 俺達はすぐさま装備を確認し、移動準備を行う。

 俺もM4の弾のチェックをし、すぐにでも撃てるように安全装置は外した。

 準備が整った俺たちは通りの建物の壁に張り付く。エリクソン曹長が無線を入れる。


「こちらトーチ3。海兵隊の場所を確認したい。指示が欲しい」


『こちらドラゴンフライ3。君たちを確認出来た。北へ一ブロック進め。その先を右だ。』


 上空を旋回する無人攻撃機・プレデターの操作する兵士の無線が入ってくる。


『座標を送る。場所は……445123だ』


「了解、感謝するドラゴンフライ3」


 応答を終えると、俺達はエリクソン曹長に続いて通りを横断した。指示された方向に向けて足を進めていくと、断続的な銃声が近くなっていくのを感じる。さほど遠くない所で戦闘が起こっていたようだ。


 俺達は指示に従い、通りの右側沿いに走る。通りの向こうからはよりいっそう銃撃戦の音が耳に届く、一番先頭のエリクソン曹長が角の建物からそっと通りを覗き、ハンドサインで俺たちについてくるように促す。


 角から指示のあった通りに出る。通りの少し遠くの真ん中で何かが白い煙を上げている。敵はどうやら、建物の屋上や上階から銃撃しているようだ。

 エリクソン曹長が無線を入れる。


「トーチ3。通りまで出た。味方の位置を教えてくれ」


『こちらドラゴンフライ3。あぁ、君たちの姿を確認した。君たちから見て左側だ』


「了解した。接近する」


 俺達は肩に力を入れ、ライフルを構えながら通りをゆっくりと進む。


 途中、右手側から銃撃が来た。反射的に身をかがめ、弾丸は俺たちの誰にも当たらなかった。敵の姿は見えなかったが、銃撃がきたと思われる建物に、皆が数発ほど撃ち込みながら足を止めない。


 近くの商店の前を通り過ぎた時、商店に人影が見えた。思わず全員が銃口を向けるが、分断されたと思われる海兵隊だとわかると引き金から指を離す。


「撃つなっ!」


 海兵隊の一人が叫ぶ。俺達はすぐさま商店に飛び込み、すぐに入り口の壁に張り付く。店内を再度一瞥するが、海兵隊は二人しかいない。


「第75レンジャー・トーチ3。エリクソン曹長です」


「第23海兵師団所属、ロード4のハリソン中尉だ」


 細い顔つきの海兵隊がいう。年の瀬から30代前半だろう。


「同じくガナー伍長です」


 隣にいた少し背の低い男がいう。こちらは多分、俺よりも若い。

 ハリソン中尉は商店の入り口に移動し、通りの交差点を指差す。


 覗くと、交差点のど真ん中でフロントから白い煙を上げているハンヴィーが見える。煙の正体は海兵隊のハンヴィーだったようだ。


「状況を教えてくださいっ!」


「隊が分断されたっ! 奇襲を受けて私の乗っていた車両が行動不能になったっ! まだ中に二人いるっ!」


「さらに部隊が機銃掃射を受けました。自分は退避していた所、中尉に救われましたっ!」


 ガナーが付け加える。

 ハンヴィーの奥を覗くと、分断されたと思われる海兵隊が応戦しているのが見えた。


「仲間を救うぞっ! お前ら、いいなっ!」


 エリクソン曹長の声で俺達は商店を出た。敵の攻撃はより一層激しくなる。建物の物影から物影へと縫うように移動し、通りのハンヴィーへと向かう。

※デビルドッグ……海兵隊の別名

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