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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
番外・その2
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寮のゴミ捨て

「おい、慶太。そっちを持ってくれ」


 レイブンの一件から数日後。

 事情聴取やらなにやら終わり、欠席した分の学校の課題を終えた。


 この日は土曜日。学校も休みということで秦と慶太は、寮の物置小屋と化していた空き部屋の掃除を始めた。


 まだ受けた傷も完璧に癒えてはいなかったが、そんなものは気にならない。

 二人はせっせと使わなくなった物を階下に降ろしていく。


「あんたら、あんな事件があったのによくそんな元気出るね」


 二階の腰壁の上で、頬杖をつきながら美咲はいう。あれから美咲もすっかり元気を取り戻していた。


「なあに、また日常に戻ったんだ。前からやろうとしていたことをするだけだ」


 秦が額に滲んだ汗を腕で拭いながらいう。

 玄関の前にガラクタを積んでいると、リビングから瑠璃がひょいと顔を出す。


「二人とも、お疲れ様。それで、このゴミはどうするの?」


「市の処分場に出すんだよ」


「でもこんなもの、どうやってそこまで運ぶわけ?」と階上の美咲。


「安心しろ、今日は一人手伝ってくれる人がいる」


 秦が美咲に顔を上げて答えていると寮の前に一台のバンが停まった。家族を乗せるようなバンではなく、後部座席がなく、荷物を運搬するような作業用の大きなバンだ。


 運転席の窓が開くと、そこにはニコニコとした深雪がいた。


「こんにちは。何やら大変ねぇ」


 秦と慶太は頷き、深雪のバンのハッチバックを開け、降ろしたガラクタをせっせと積んでいく。


 美咲は自室に移動し、窓からその様子を眺める。10分も経たないうちに、荷物はあっという間にバンに収まった。


「じゃあ、俺達は行ってくるから」


 窓から見ていた美咲に秦が手を振る。


「ねえ、ちょっとっ! あんたらボディガードなんでしょ? 私らの警護はどうするの?」


「心配するな、あそこにいる人たちが見てくれっから!」


 秦が叫びながら指をさす。その方向には覆面パトカーに乗ったあきと国原がいた。窓の外に身を乗り出した美咲と目が合う、軽く会釈をしてきた。思わず会釈を返し、慌てて顔を引っ込める。


 慶太と秦はそのままバンに乗り込み、走り出していく。


「もぉー。こういう時は調子がいいんだから……」


 少し小っ恥ずかしくなった美咲は不貞腐れた顔で離れていく深雪のバンを見送る。


― ― ― ― ―


 一方でバンの中では慶太が後ろのゴミを見ながら秦に問い掛ける。


「これほどのゴミ、そう簡単に捨てさせてくれるのか?」


「深雪さんに聞いたんだが、近くの市の処分場なら、住民票を持っている人間なら、お金さえ払えばなんでも処分してくれるんだってさ」


 秦の言葉に深雪が頷く。


「そうよ。でも、お金は大丈夫? 恐らくこの量だと5、6千円は軽く取られるわよ?」


 いやいや、と深雪に向けて人差し指を振る秦。


「だーいじょうぶですって。ボディガードの給料は中々のもんですよ? こんなゴミ捨てたくらいでどうってことないですよ」


 自慢げに秦は語る。横にいた慶太は少し呆れた表情を浮かべ始めた。


「あら、そうなの? それじゃあ、今度の夕飯のおかずは二人に任せようかしら」


 頼もしそうに深雪は微笑む。秦は「いいですよ。任せてください」と調子のいい言葉を並べる。


― ― ― ― ― ― ―


 ゴミを捨てて寮に戻ると、いつの間にかあきと国原のパトカーはいなくなっていた。

 深雪は車を返却する都合がある為、二人を寮の前に降ろすとそのまま走り去って行った。


 寮に入ると、リビングでは裕子がダイニングテーブルで待っていた。

 裕子は立ち上がり、深くお辞儀をする。


「この度はお嬢様を助けて頂き、ありがとうございます。


 裕子の深々とした挨拶に二人は「いえいえ」とお辞儀を返す。

 顔を上げた裕子の目がどこか険しいのに二人は気付いた。


「ですが、お二人には大事な話をしなければいけません」


 裕子の声のトーンが一気に冷たくなる。なにやら良くない話らしい。裕子は続ける。


「今回の騒動で、英造様はお二人に厳しい処分を下しました。まず、現在の報酬を二分の一にカットするということです」


「に、にぶんのいちぃ?」


 秦が素っ頓狂な声を挙げる。そうなれば、収入は40万になる。


 横にいた慶太は想像出来ていた。あそこまでの大騒動を起こしたのだ。それも、私設部隊や米軍を動かしてもいるのだ。ただではすまないと思ったし、むしろクビにならないだけありがたい話だ。


 だが、秦はガックリと肩を落としている。


「それから、騒動を収める為に費やした費用は御二人にもご負担する事になります。そうなりますので、約一年間ほど、報酬は約1/4になります」


 今度は20万に下がった。秦は開いた口が塞がらない。


「以上です。それとこちらは波喜名様にです」


 落胆している秦に、裕子からなにかやら一枚の紙が渡される。開いてみると、それは請求書だった。


「事故を起こされたバイクの修理費用です。私の方でお預かりしていましたのでお渡ししておきます」


 一番下の総額費用を見る。34万。そして手書きで分割と書かれ、二回払いとなっている。つまり、ひと月17万円だ。


 さくらえんの寮に入れるお金が5万。バイクの修理費が17万。支出は合計22万。マイナス2万円。


 絶望に打ちひしがれている秦の横で、慶太が請求書を覗き込む。


「秦、そのバイクの輸送費もまだ払い終えてないよな?」


 そうだ。輸送費26万があったことを忘れていた。

 つまり、今月の給料はとんでもないマイナスからのスタートだ。


「あ、後もう少しでゴールデンウイークも近いのに……」


 わなわなと震える秦。

 先月からの仕事で、明日にはその分の給料も入るがそれでもマイナスは確定だ。


 声に成らない絶望に秦は視界が真っ白になった。


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