33.事情は夢の後で
未だに日本で捜索を進める警察関係者に防衛省から衝撃的な通達が入る。
それは誘拐されていた二名がアメリカ軍によって保護され、帰国されたというのだ。また、英造から感謝の礼と多額の寄付金が送られた。それはつまり、いまだに敷かれてある箝口令をそのままに闇に封じろ、という意味でもあったのだろう。
この件は警察官僚の者だけが知っており、末端の捜査官には捜査の解決ということになった。当然、でたらめな書類が作られてだ。
ただ、納得しない者もいる。その中の一員であるあきと国原は早速覆面パトカーを出し、桜陽島に向かった。
桜陽島に入り、さくらえんの寮まで向かう。住宅街を通り過ぎ、さくらえんの前を通り過ぎると、寮の前には一台の車がエンジンを掛けたまま止まっていた。ナンバーから県警の車だとすぐに分かった。
近づいて行くと玄関の前に日下部が立っているのが見える。日下部もこちらに気付くと、玄関ドアの前で二人を待つかのように見つめていた。
二人は日下部の車の後ろに停め、寮の前まで向かう。
「あら、県警本部の方がどうしてこちらへ? 捜査はもう中止のはずですよね?」
皮肉たっぷりの台詞を日下部に浴びせる。
「えぇ、少々気になることがございまして。失礼ですが、あなた達はどのようなご用件で来られたのでしょうか?」
揚げ足を取られたあきは思わず口を噤む。その代わりに国原がささっと前に出る。
「以前にあった暴漢事件のせいで彼らの家にパトロールするように言われてましてね。巡回ルートに入っているんですよ」
すかさず作り笑顔を浮かべる国原。
「そうですか。それはご苦労様です」
そう切り出すと日下部は二人の横を通り過ぎる。
「あら、来たばかりに思えるのに、もう出て行かれるんですか?」
「はい、中を覗けばわかりますよ。ここは後日にでも出直すとしましょう」
ニコリと笑い、日下部は二人に背を向けて車に乗り込んだ。
日下部はシートベルトを締め、そのまま走り出して行った。
玄関の鍵は開いていた。思わず二人はそっとドアを開ける。
「ごめんさなーい。中央署の相沢ですが」
声を掛けるが返事はない。だが、リビングでは人の気配がする。
あきは靴を脱ぎ、そっと玄関に足を上げる。あきに続くように国原も中に入る。
リビングを覗くと、そこにはカーペットの上で川の字になって眠りこけている五人の姿があった。
全員、着の身着のままぐっすりと仰向けになって眠りこけている。
秦と慶太は最後に会った時にはなかった顔や身体に包帯を巻いている。そんな秦に至ってはいびきまで掻いている。
「こりゃあ、また出直しのようだな」
国原が愉快そうにいう。
「そうですね」
こんな無垢な寝顔を見せられては、起こすのも可哀そうに思える。
二人はそっと静かに玄関を閉め、寮を後にした。