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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第一章・ボディガード・チルドレン
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9.護衛開始

 秦達を乗せた車はハイウェイを降り、大きな商業施設や工場などが並ぶ通りを走っていく。どれも大手企業ばかりが目につく。


 やがて広大な敷地の中に、これまた幅のでかい四階建ての施設が見え始めた。ゲートが見えてくると、車はウィンカーを上げて減速する。ゲート近くの看板を見るとヤダナギコーポレーションを表す『YC』のロゴが見えた。


「ここはヤダナギコーポレーションの支社でございます。ここで落ち合う事になっております故」


 志摩はそう告げてハンドルを切り、入り口に設けられたゲートの前まで進む。


 ゲートの隣にはガードマンの詰め所があり、落ちている赤と黄色のバーの間で停車すると屈強な身体をした黒人のガードマンがのっそりと車の横まで進む。詰め所に目をやると、二人のガードマンがこちらを覗いている。


 志摩が身分を告げるとガードマンは黙ったまま頷き、詰め所に向けて手を上げる。バーが上に上がり、通るように促す。彼の横を通り抜ける時、腰のガンホルスターに目をやる秦。僅かに見えるグリップからして恐らくはM9ピストルだろう。軍用拳銃を持ったガードマンの配置を見て、改めてヤダナギコーポレーションの大きさに感心した。


 車は進み、立派なガラス張りのエントランスの前を横切り、建物の外周に沿って地下駐車場の入り口へ進んでいく。敷地内には屋外駐車場もあるのに、地下にまで駐車場があることに秦は改めて関心を寄せる。


 緩やかなスロープを降り、煌々とした蛍光灯がいくつも並び、灰色の硬いコンクリートと綺麗に止められた高級車を照らしている。その奥に秦たちが乗っているSUVと同型の車がエンジンを掛けたまま停車している。


 志摩がその車の横まで進み、停車させる。するとすぐに運転席から一人の女性が現れた。若いが護衛者ではないようだ。パンツスーツに身を包み、毛先にパーマを掛けたこの女性は恐らく志摩と同じくヤダナギコーポレーションの人間だろう。


 志摩がエンジンを停止させるなり、全員が車から降りる。それぞれスラッと女性の前に並ぶと、彼女は綺麗な姿勢のまま、秦達にお辞儀をした。


「私はお嬢様の世話係をしております八木裕子と申します。お見知りおきを」


 顔を上げる裕子にはどこかミステリアスな雰囲気を感じる。世話係というには遠い印象を受ける。バーンズを筆頭に秦と慶太も釣られてお辞儀を返す。


 二人の挨拶を見届けた裕子は後部座席のドアを開ける。そこから写真で見たあの少女がどぎまぎしながら現れた。


 春物のクリーム色のカーディガンに柄の入ったロングのキュロットスカートの裾を揺らす。肩まである長い髪を指先で払いながら皆の前に立ち、緊張した面持ちで大きな瞳で全員の顔を交互に見る。


「えぇ~と…初めまして。私は小泉……じゃあ、なかった。あ、谷田凪――」


「谷田凪瑠璃、様ですね」


 慶太が淡々と答える。調子が狂った瑠璃は「あ、う、うんっ! そうですっ!」とぎこちない笑みを浮かべる。


「え、え~と裕子さん……いや八木さんから話は聞いているわ。君が――」


「横山慶太です」


 すかさず秦が慶太を押し退けて瑠璃の前に現れる。


「そして私が波喜名秦です。“波”が“喜”ぶ“名”と書きまして、波喜名。そして“奉”仕する、という漢字に似た字で秦です。」


「え、えぇ」


 戸惑う瑠璃にお構いなしにキリッと決めた顔で秦はどんどんと近寄る。


「これからあなたにお仕えする身です。私のことは――」


「好きなようにお呼びください。ただし、フルネームで呼ばないでください」


 秦の襟首をつかみ、慶太が淡々と終わらせる。その様子を見ていたバーンズは頭を痛ませた素振りをする。


「……本当に彼らだけでよろしいんで?」


 三人の様子を見ていたバーンズが皮肉を混じらせて言うが、裕子は首を縦に振る。


「構いません。それが、依頼主の要望にございます」


 裕子の見えない位置でバーンズはやれやれという素振りを見せる。


「お嬢様。私はバーンズ様をお送り致します。空港までは志摩と彼ら二人にお願いしております」


 裕子がそう告げると、今度は秦と慶太に向き直る。


「波喜名様、横山様。お嬢様をどうかお願いします」


 慶太に負けぬほどの淡々とした抑揚のない言葉を浮かべて、お辞儀をする裕子。その言葉に思わず三人とも「はい、わかりました」と返す。


「そういうわけだ秦、慶太。俺はここで戻る。これからはお前たち二人だけの護衛になる。……正直に言えば、心配な面がかなりある」


 バーンズの視線が秦を睨む。思わず両手をぴったりと足を伸ばし、気を付けの姿勢になる秦。


「が、お前らの事だ。必ず出来ると俺は信じてる。いいか、絶対に気を抜くなよ!」


「はいっ!」


「訓練の成果を見せろっ!」


「はい、教官っ!」


 二人の威勢のいい返事に頷くと、今度は瑠璃に向き直った。


「谷田凪瑠璃さん、でしたね」


「え、あ、はいっ!」


 突然の問いに瑠璃も同じように威勢のいい返事で答える。


「こいつらはまだ人間としては半人前な所があるかもしれません。ですが、こいつらの腕は一人前です。どうか、信用してください」


 今まで見せた事のない優しい笑みを浮かべるバーンズ。瑠璃も釣られるように頬を綻ばせて「はいっ!」と意気込んで返事をする。二人の様子を見ていた秦がボソリと囁く。


「女には優しいんだな」


「静かにしとけ。聞こえるぞ」


 バーンズは「くれぐれも気を抜くなよ」と言い残し、裕子の車に乗りこんだ。バーンズを乗せた裕子も「それでは、これで失礼します」と告げ、運転席に乗り、秦達に見送られながら走り去っていく。


 見送りが終わるなり、秦達も志摩の車に乗って地下駐車場を後にするのであった。


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