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「タリスマン」「空拳」「薩来」
タリスマン
魔女は呉れた粘膜の魔法陣
それから食蟻獣の背水陣
百鼠なした生活の絵図
除雪車が浚う蜃気楼
大砂時計ひとに火
をつける夢の夕
青空のかくす
霹靂と無窮
眼球捻れ
ぶるり
笑む
了
。
空拳
うまれたての描線による雷鳴を
カセットテェプに深々と鎖し
まるだしの眼球を振り上げ
すると拳の勲しさで光り
毛穴より滲む鼓動の露
春夏秋冬ハ逆転セリ
真夜中は朝を覆い
わたくしの空拳
肉の棺を開き
カスケイド
にじいろ
皓々と
死病
了
。
薩来
純粋な感情をアスファルトに打ち
きずだらけの苗に口笛を吹くと
わたくしの時間が凝血しゆく
デニムから滑り墜つ足跡は
硝子のねを立てて青空へ
投擲した薄い瓶が吐く
するどい舌は紅蓮色
感嘆符ぬきの迷宮
そればかりが真
人間は感覚器
に過ぎない
茜の炎を
泉へと
帰す
了
。