都会がなんだ
「_…窓側のお客様から順番にお呼び致します」
キャリーケースを持ったサラリーマン
有名なテーマパークのお土産を下げた若い団体
別れを惜しむカップル
見た目は仕事出来そうなカッコイイ女性
パソコンやタブレットで、カタカタを仕事をする人、旅行で疲れきってる子供を抱く親御さん…
空港って独特の雰囲気が漂ってる気がする。
こんなスーツ着てるだけで、かっこよくて、仕事バリバリしてるように見えて、お金持ちに見えて、人生豊かな人の集まりのように見える場所って他にあるのかな。
飛行機に乗って見てきた世界は
きっと新たな冒険だったと思う。
仕事でなんども同じ場所しか行かない人でも
このお店に入ってみたらご飯が美味しかった。
とか
新しい出会いをした方と飲んでみたら
シラケてしまった。
とか
何かしら、きっと何かしら
あったと思う。
私は、これから。
冒険に行く。
国内だけど
海を渡って。
機内に入り、イヤフォンで機内放送を聴く準備を始める。
SNSに、「出発します」と投稿した。
飛行機から、まだ出発してない飛行機が沢山見える。空はすっかり綺麗な夕日が始まりかけていた。
イヤフォンから、最新音楽が流れる。
この曲が、今後聴く度にこの旅を思い出すようになるとは、思ってもいなかっただろう。
車に乗ってるかのように滑走路を長く走り、ついに勢いよく前に進み始めた。
フワッとした感覚とともに、空へ向かっているのがわかった。
急に見えた、見慣れた夜景がどんどん遠ざかる。
見慣れてるはずなのに、その夜景は息を飲むほどとても美しくて
思わず、新品のカメラを取り出して、1枚撮った。
この旅の、最初の1枚。
ブレてしまったけど、カメラ初心者っぽくていいか。
スマホでもその光景を撮った。
…こっちは何も考えなくても綺麗に撮れるな
なんて、クスっと1人で思いながら
窓の外へ視線を移す。
もう、夜景はどこにもなくて
光が線になって、先程には及ばない小さな光の集まりを繋いでいる。
高速道路って、上から見ると血管に流れる血みたい。
あえて、WiFiが飛んでいる機体であっても
それを使わずに過ごしたい。
長年の夢だった。
様々な国へ旅に出たライターさん?が書いた話を読むと、ほんとに旅に出たかのような気分になる。
まだまだ、知らない世界があるんだな。
そう気づかせてくれるのが、空の旅のいいところ。
私も、国内ではあるものの
今まで足を踏み入れたことの無い場所に行く。
研修で、飛行機に初めて1人で乗った時
この洗練されたサービスと空間
なによりWiFiに繋げないとスマホを使えない
特殊なこの環境が大好きになった。
子供の頃は退屈で仕方なかったのにね。
機内誌には、洗練された大人が使いそうな時計やキャリーケースなどのカタログがある。
しっかり働けば買えないこともない値段なのに
仕事出来る大人が持ったらキマるんだろうなって、思っちゃったり。
どうやったら、こういうものが似合う人になれるんだろう。
様々な顔が突然浮かんできてしまい、頭痛がでた。
私の目指す仕事ができる人って?
こういうのをスマートに着こなして
勇ましく会議で討論したり
発表も噛まずにみんなの注目を集めて拍手されるような人?
ビルの下で、コーヒー片手に誰かと電話して、誰かに指示を出してるような人?
オシャレなイタリアン、フレンチ、などで
女子会を開いてたり、デートしたり?
そういうのに行かなくても
オシャレなアロマの香りや入浴剤でのんびりお風呂に浸かって読書をし、夜の時間を堪能してる人?
都会に行けば、そういう人間になれると思っていた。
気づけば、
都会の人の多さ
物価の高さ
酔い潰れてボロボロになった人の多さ
排水溝が猛烈に臭いところ
ちょっと人目のつかないところだったら
どこでもいる熱烈なキスをしてる人
思い描いてた都会
そりゃあ、都会にそんな人ばかりがいる訳では無いんだけど
そんなのなんとなくわかってたんだけど
私がこんなに出来ないんだって気づかせてくれる都会、人混みがこんなに辛いんだって分かった都会、思い描いてたようなバリキャリみたいな見た目の人も、所詮人間なんだってことも
わかってはいたんだけど
疲れてしまった。
気づいたら眠っていた私は、着陸の衝撃とともに窓に頭をぶつけて目を覚ました。
ひんやり、凛とした空気が気持ちいい。
深呼吸して、私は空港を後にした。