横の席の女の子
まだ出たばかりの暖かい朝の光に祝福されるように進級し、それは、新しいクラスでの新しい生活を意味するように思えた。
そして僕は、高校三年生となった。それは、単に最後の高校生活だというだけでなく社会人になる一歩いや、半歩手前まできているといっても過言ではない。僕達はいずれ社会に出て、結婚し、家庭を持ち家族を養って生きていかなければならない。そんな、社会への旅立ちを控えた最後の高校生活でクラスが変わり一番よく話したのは、隣の席の女の子だった。
当時、付き合っていた彼女と別れ、部活をやめようか迷っていた心の暗い時期に1番初めに話しかけてきた女の子だった。その女の子は、1年、2年の時にはそんなに話した記憶がないような子だった。
女の子は、雲がかかった僕の心の隙間を埋めるようにスーッと入り込んできた。いや、僕の心に誰の許可も取らず土足で入ってきたという表現の方が正しいのだろうか。
その女の子は、どこかの部活のマネージャーで喜怒哀楽が激しく野球部の彼氏持ちのクラスに1人はいる明るい太陽のような子だった。
女の子は毎日のように話しかけてきた。彼女と別れてまだ何ヶ月かしか経っていない僕に毎日のように惚気話をしてくる。始めの方は鬱陶しく適当に返事をしていたもののそれでも嫌な気はしなかった。彼氏の惚気話をする女の子の顔は素直でただ単に嬉しかったことを色んな人に聞いて欲しいんだなと思った。
それからから僕は、首の骨を折って入院した。
なんで、そんなことになったかというと別に自殺とかいった複雑なものでもなくたまたま、頭から海に飛び込んだが真下に石があっただけのことだった。
それから、長い長い病院生活が始まった。病院生活は慣れていたが体が動かせなかった病院は1日が長く、朝決まった時間に起きお風呂に入り、診察を受けるてご飯を食べるだけの退屈な1日が何日も続いた。そしてほとんど1ヶ月が経ち、ようやく退院の許可が出た。
それから数日が経ちやっと学校に行けるようになった。朝から学校に行き始めに声をかけてくれたのはやっぱりその子だった。女の子はいつも通りの笑顔で僕に大丈夫かと声をかけてくれた。その後に、バカやろと笑いながら言われた。彼女が僕に何か言うときはいつも笑顔だった。
しばらくして僕は、女の子と彼氏が別れたという噂を聞いた。嘘だと思った。がしかし、女の子の顔に笑顔はなく涙だけが目についた。噂は本当だったようだ。それから僕と女の子は頻繁に電話やLINEをするようになった。僕はたくさん相談にのった。それがあの子の為になっていたかは定かではないが毎日のように電話をしていた。それでも、学校では元カレの名前を出し、たくさんからかった。きっとその時は、早く楽になって欲しかったのだと思う。それから、女の子の顔には笑顔が増えていった。それでも僕には、笑っているのは表面だけで裏では笑っていないように思えた。
男と女とは全く違った生き物だと思うことがある。昔読んだ本でこんな言葉があった。
「男は好きと嘘をつき、女は嫌いと嘘をつく」
その時の僕は、この言葉の意味が何となくわかったような気がした。
それからは、学校が終わってからも頻繁に会うようになった。僕が学校をサボった時にもちょいちょい遊びにきていた。
僕には、女の子が僕を元カレの姿と重ねてみているように思えた。もしかしたら、僕も彼女を元カノの姿に重ねていたのかもしれない。それでも、その女の子の為ならそれもいいと思った。
きっと僕は落ち込んでいた時期に励ましてくれた彼女に元気になって欲しかったのだと思う。
ある日、女の子が授業中に言った。
「もうふっきれたけん」
それを聞いてもふっきれてないことはわかっていた。それでもそう言い切るものだから僕は元カレが他の女の子と楽しそうに話していたという話をした。
僕がそんな事を口にしたのもほんの軽い気持ちであった。
女の子は泣いた。
そうなるのは、僕もわかっていた。女の子を笑顔にしたかった僕が次は逆に涙を流さしてしまったと後で後悔した。
授業中なのに女の子はLINEで何度も僕を下駄箱に呼んだ。それでも僕は行かなかった。僕が流さした涙ではあるが、どのように言葉をかければ正解なのか僕には全く見当もつかなかった。そして、しばらくして女の子が帰ってきた。それでも僕は何も声をかけられなかった。その時、僕は、女の子とは何と難しくデリケートな生き物なのだろうと思った。
それから、少し話しづらくはなったが特に何もないまま数日が過ぎ、数ヶ月が過ぎて卒業を迎えた。
最初も最後も女の子は隣の席だった。長くて短く短くて長い1年という時の流れに逆らうことなく1日1日を過ごしていった。少しずつ暖かくなり、春の訪れを感じさせる3月1日という日に晴れた青空の下たくさんの思い出を胸に詰め僕らは卒業した。
それから数日が経ち、あまり連絡も取らなくなった女の子にお別れの言葉を言うこともなく僕はひと足先に社会という大きな海に船を出した。そしてこれから僕らは波にのまれ、風に吹かれながら少しずつ前に前にと進んでいく。
女の子も数日経ち遠い街に旅立っていった。僕は結局伝えられなかった。どんな時にも笑顔にさせてくれた女の子に伝えたかった。言葉にすれば長くなるから短く端的にと考えればこの言葉以外みつからない。
ごめんね。そして ありがとう 。




