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執務室で机を叩く音が響く。
その音響元には 司令官に鋭い眼光を突き付ける軍人がひとり。
名をミサゴ・シトロネーチャー。
彼女がグレネードのピンを抜いた張本人である。
「事伝は以上だ。下がり給え」
「納得できません」
「貴殿の働きには感謝している。疾うに継ぎも用意してあるそうだ」
「再就職先も当然用意している、まだなにか不満が?」
「一等のものが」
司令官は深く息を吐くと
苦い顔で自分の分の紅茶を飲み干す。
「特別解雇、最終勲章授与、合同公安への異動。
全て上からの達しだ」
「無論 私とて合点が行く訳では決して無い」
ミサゴの表情は変わらない。
「私が任を解かれるのも」
「勤務先を唐突に変えられるのも納得が出来ます」
「…将官らは何処です」
「橋渡し役は私だ」
「実動部隊として、何より近くに留まろうとしてくれているのは家族として嬉しく思う」
「だが貴殿が持つ能力は今後 政治にも大きな影響を与えかねん」
「何故なら我々は超能力を持つ人型の核【人核】なのだ」
「選択肢は限られている。前線を退くか…もしくはより強大な組織に転属するか。ひた隠しに出来る程のな。さもなくば…時代には逆らえん」
「我々が」
言いかけたところでミサゴの口が止まる
変えるべきなのです。
「―失礼します」
一礼し、ミサゴは木目調のドアを潜る。
重々しい扉を開いても 重苦しい空気は換わらなかった。
「紅茶が美味いのが救いだ」
―差し出されたアールグレイだけが静かに湯気をくゆらせる。―