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〆
後年、善次郎は美人画を描くかたわら、遊女屋を開いて主になった。
娼館を始めたのは女好きが高じた為か、酒好きが高じたのか切っ掛けは定かでは無いが、女の絵を描くには都合がいい。
善次郎の描く女は、情念を感じさせる仇な艶っぽさを持っている。
よく見ればやはり依然として身体の比率が妙だ。
頭がでかい、胴が長い。
立ち姿は猫背で、やや俯いて引いた顎が出ている。上目遣いになるから目に険がある。
普通であれば造作の悪い部類になるだろう。
なのに色気がある。
「善さん、最近はこんな女ばっかり描いてるね」
月代を剃った国芳が絵を見て妙な顔をする。
「なぁに、当の本人が紅一つささねぇからさ、絵の中で化粧してやってんだ」
「はあ?」
池田善次郎、この頃『渓斎英泉』と号す。
───── 終
拙作『お栄さん』と併せてどうぞ。