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「それでここに来たって?なんだい暇潰しかよ」


「……熊が怒るぜ?鉄蔵の周りうろついてると」


「そこまで了見は狭くねぇですよ豊国オヤジさんは。北斎先生の絵を真似りゃさすがに文句は云われますがね」



ふあぁぁぁ~ぁ…



お栄は大欠伸をすると、そのままごろりと横になる。


国芳がしたる用事も無いらしいと判り、興味を失ったのだろう。



「…これだ。お栄ちゃん客の前だぜぇ?」


「芳坊は客じゃ無ぇだろ……」



善次郎と国芳は顔を見合わせて苦笑いした。確かに暇潰しは客では無い。


お栄はすぐに寝入ったらしい。行灯の薄明かりの中、静かな寝息が聴こえてくる。



「一枚仕上げたからな、疲れたんだろ」


「……また代筆ですかい?」



国芳が作業机の絵を覗き、そこに北斎画の名入れを見て言った。



「女描かせると敵わねぇって先生も云ってるからな、俺なんざ及びもつかねぇ」


「善さんも最近じゃ枕絵が人気出てるでしょう?俺も見ましたよ」


「おいおい、元服前で枕絵見てんのかよ」


「他人の絵ぇ見るのも勉強でしょうが……善さんのは艶っ気がありますよね、手足の寸法が妙だけど」


「チェッ!一言余計だ」



…カン…カン…カン…



微かに半鐘が聴こえてきた。


次の瞬間お栄はがばりと起き上がると脱兎の如く走り出す。



「あ!おいお栄ちゃん!」



慌てて善次郎は後を追った。国芳もつられて走り出す。


見れば宵闇に薄く赤い炎の影が映っている。



カン…カン…カン…



お栄は火事場に着くと辺りを見渡し、近くの店の防火樽を足場にして、その店の屋根によじ登る。


火事は向かいの店からだ。家人が丁稚でっちを使って家財を運び出し、火消し達が梯子を掛けて屋根へと登る。



善次郎達が追い付いた時には野次馬の群れが火事場に集まっていた。


『火事と喧嘩は江戸の華』とはよく謂ったものである。野次馬達がヤンヤヤンヤとはやす中、火消しが

まといを振り上げる。



「あぁこんなとこに居た、お栄ちゃん」



善次郎達が屋根によじ登ると、お栄は筆を振るっている最中だった。


長屋を出る時、矢立と紙の束をとっさに持って来たのだろう。



轟々と噴き出す炎の響き、軒を舐めバチバチパチパチ爆ぜる音、火消しの掛け声、野次馬の喝采…



…音の洪水をお栄は矢立の墨を使って紙に封じ込める様に描いていく。


一枚描いては次の紙に描きなぐる。



「お栄ちゃん描いた紙放り出すなぃ!風で飛ばされちまう」



善次郎と国芳、二人して描いた紙を拾い集めた。




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