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第3話 魔法大会が始まろうとしている時の話

 特別な子。

 セレネは当たり前の様に魔法を使った。

 魔法について何も知らないと言うのに。

 一体何故、神様はあんな子供に才能を与えたのだろうか。

 なんて、私の中に嫉妬の心がより一層深まる。

 クラスでも、いや学校全体でセレネに対しての話題で一杯だった。それは生徒だけでなく先生たちもである。

 良い話か悪い話かで言えば、悪い話ばかりなのだけれども、中には、魔法のコツを聞きに来る生徒やセレネと仲良くしようとする生徒もいた。

 ただ、そんな生徒に対して、セレネは。


「ごめんなさい」


 と謝って断るのである。

 無理にでも魔法について聞こうとする者、将来の魔導士団のトップになれるかもしれない少女に取り入ろうとする者。

 セレネはそんな者を望まなかった。


「ねぇ、セレネ」


 私はセレネに聞いてみることにした。


「どうしたの?」

「セレネは何時から魔法が使えたの?」

「生まれた時から」


 セレネの言葉に私は耳を疑った。

 するとセレネは無邪気に笑って、冗談だよと続ける。

 流石に生まれた時からなんて、あるはずもない。仮にも使えるならば、それは天使族ぐらいなものである。


「なら、何時から?」

「一年前から。まあ、正確に言えば違うのだけれども」

「どういう意味?」

「私には六歳より前の記憶がないから。だから何時から使えたかは分からない」

「記憶がない?」

「私は気づいたら森の中にいたらしい」


 どんな人生なのだろう。

 普通とは違う人生。


「森の中に倒れていた私を救ってくれたのが、私にとってのお母さん。血は繋がらないけども。そして私は小さな村で過ごすことになった。でも私はその村を出る必要があった」

「出る必要?」

「私はこの世界を救う使命があるから」


 私は再び耳を疑った。

 セレネとは短い仲だけども、彼女がしっかりしていることは知っている。そして、セレネが今真面目に話していることも何となくだが分かった。

 つまり、本当に。セレネは自身の力で世界を救おうとしているのである。

 より一層、セレネに対して、特別な子という感情が湧き出て来る。


「つまりこの学校はあなたにとっての通り道に過ぎないということかしら?」

「そういうこと」


 セレネははっきりと言った。

 その時、私はセレネに対して、嫉妬心の他に初めて。敵わないな、という尊敬に近い感情を持ってしまった。

 私が魔法学校に入学したのは、自身の将来のために良い職に就きたかったからに他ならない。そんな邪な理由。

 でもセレネは違うのだと、分かる。

 本気で世界のために。


「でも、勘違いしないで」


 そんな私の考えを見透かすように、セレネは続けた。


「私は本気で世界を救いたいわけじゃない。救わないといけない理由があるから救おうとしているだけ。だから私は聖人じゃない。ただの欲にまみれた醜い人間」


 その言葉は何時になっても分からないままにいるだろうと、何となく私は思った。






 気づけば、セレネが来て、一か月が経とうとしていた。

 もう少しすれば、毎年行われる魔法学校の魔法大会が始まる。だから少しだけ魔法学校内は慌ただしいものであった。

 私はセレネのルームメイトとして、セレネにこのことを教えた。


「大会?」

「そう。もちろん出るでしょ?」

「出て、何か良いことがあるの?」

「好成績を残せば、卒業後の待遇が良くなるわ。ちなみに、カルル様は合計で3回出たけども、全部優勝していたわ」

「へぇ、カルルが」


 カルル様に対して、呼び捨てなのに若干ながら怒りが沸く。

 まあ、今更なのだけれども。

 そんな気持ちを抑えて。


「私は出るけども、あなたは?」

「私は良いかな」


 セレネはそんな大会にあまり興味はないらしい。


「まあ、自由参加だから。でも、ほとんどの生徒が出るわよ。それに、学長や他の先生たちはあなたが出るのを望んでいるみたいだし」

「うう」


 その事実を突きつけると、セレネは困った表情をする。

 こういう顔は可愛いのだけれども。


「学長先生に聞いてみる。まず、その大会がどんなものか知らないし」

「それが良いわ」


 セレネはそのまま学長の部屋へ向かって走りだした。

 私はそんなセレネを追いかけることにした。

 何となくである。

 何となく、心配したからだ。

 走るセレネと、早歩きの私の距離は徐々に広まっていく。向かう先が分かっているのだからあまり関係ないと思っていたのだけれども。

 セレネが角を曲がった時に、私はある人物と出会ってしまった。

 その人物は私に気づくと。


「止まれ」


 と、我がままにも先を急ぐ私を止めるのである。


「何か用ですか」


 私はこの人物を知っている。しかしこの人物が私を知っているはずがないのである。

 そこまで接点があるわけではないからだ。そうその人物が有名人だから私は知っていただけ。

 その人物、生徒会長を務めるルークは私の顔をじろじろ見ながら。


「確か、セレネとかいうガキのルームメイトだったか?」

「そうですが」

「俺はお前を探していた。会えてうれしいぞ」


 私は嬉しくないのだけれども。


「それで、何用ですか?」


 なんて思いながら、どうして探していたのかを聞く。


「まあ、待て。そう急かすな。あのガキ、セレネはものすごい才能の持ち主らしいな」

「はい」

「今ではこの学校の話題の的だ。悪い意味でな。そして俺も奴に対して、あまりいい感情を持っていない」


 そうだろう、なんて私も思う。


「それで用だが聞きたいことがある。あのガキは大会に出るのか?」

「出たくないが本心みたいですが、学長に言われたら出るのでは?」

「そうか。ならば、俺の言付けを変わりに伝えてくれないか」

「言付け?」

「絶対に出ろ、と。少しばかり脅迫めいていても良い」


 七歳の子供に対して、脅迫させようとする生徒会長の姿に、私は彼なりの必死さを感じた。

 生徒会長の権限を使えば、大会で戦いたい相手と戦うことぐらいまでなら可能である。つまりルークは、セレネと戦おうとしているのである。


「まさか、あの子を打ちのめすつもりですか?」

「そうだが?」

「子供に対して、恥ずかしくないのですか?」

「恥ずかしい?」


 私の言葉にルークが聞き返してくる。


「では、お前は恥ずかしくないのか? 嫉妬で狂わないのか? あんなガキが、俺たちと同じ学校に通っているのだぞ」


 私はそれに何も言えない。


「だから教えなくてはいけない。上には上がいることをな。あのガキに世界の現実を教える義務が俺たちにあるはずだ」


 ルークはそう言って、背を向けて歩きだした。

 手を振りながら。


「では、頼んだぞ」


 そんなルークの後ろ姿を見て。

 今の私は苦虫を噛み潰したような表情だったかもしれない。

 少しだけ不快である。

 不快。

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