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第1話 エミリアは不思議な子供と出会った

 私の名前はエミリア。

 魔法学校に通う、22歳の二年生だったりする。

 同期からは良く何のとりえもない子と言われる。それぐらい同期と比べると何も才能がない。得意な魔法は水。不得意な魔法は火と土。

 私の実家は平民の平均と比べると裕福ではあるけども、魔法学校に入学する生徒と比べると貧乏な部類に入る。

 そんな私が魔法学校に入学できたのは、カルル様という好きな人の影響が強い。

 才能も血筋にも恵まれなかった私は、好きな人と同じ学校に通いたい。ただそれだけの気持ちでひたすらに勉強をつづけたのだ。そして、見事、本当に運よくギリギリ合格を果たしたのだ。

 とは言ったものの、その好きな人であるカルル様はわずか二年で魔法学校を卒業してしまった。飛び級という制度で、他の先輩たちを飛び越えて魔導士団に入団する姿は何とも格好いい反面、一緒に学ぶことができないという寂しさに見舞われた。


 カルル様の凄さについて語りたいと思う。

 魔導士団はトップに4人の大魔導士、その下に13名の隊長、さらに下に56名の副隊長、さらにそれぞれに十数人の魔導士が配属されている。

 現在魔導士団の総人数は1000人を少し超えるほど。その中でカルル様は若干24歳にして副隊長の座まで上り詰めたのだ。

 魔法学校ではじめに学ぶ言葉にこんなのがある。

 魔法は知識と経験に比例する。

 魔導士とは歳を重ねれば重ねるほど強くなるものである。4人の大魔導士、全員が60歳を超えているし、隊長たちもほとんどが50や60歳である。そんな高年齢が当たり前の魔導士団で、20代で副隊長に上り詰めたのは現在カルル様だけである。

 これが一点。

 もう一つ、カルル様は様々な魔法が使える。

 魔法と人には相性がある。魔導士は四台元素、火、水、土、風の魔法を主に使うが、このすべてを使える魔導士からしてまず少ない。それなのにカルル様はこの他にも光、闇など四台元素に含まれない、特殊な魔法も使えるのだ。それができる魔導士は大魔導士ぐらいなもの。

 そんな素晴らしい魔導士なのに、さらにカルル様は容姿に優れて、誰に対しても優しいと来たのだから、老若男女、カルル様は人気なのだ。

 まあ、その人気が高すぎて、私なんかじゃ相手にしてもらえないのだけども。

 はぁ。

 思わずため息が出る。


「カルル様と一緒に働きたい」


 なんて愚痴りながら、私は今日も魔法学校に通う。




 そんな私の学校生活を脅かす、それと遭遇したのは何の変哲もない日だった。

 寮から学校への道を歩き、門をくぐったところで、私はその子と出会った。


「あの!」

「…………ん?」


 小さな女の子。

 10歳にもいっていないだろう、小さな子が魔法学校の敷地内に入っていたのだ。

 いけない。

 魔法学校できつく何度も言われるのが、魔法を20歳未満に教えてはいけないことだ。つまり子供であるうちは魔法学校に入ってはいけない。

 私は生徒だから問題ないけども、もしも学校に在住している兵に見つかれば外に追い出されるだろう。

 もしかしたら、私が連れてきたと思われて、私の席が消えるかも。


「学長の部屋を…………」

「ダメだよ。こんなところにいたら。早くお家に帰った方が身のためだよ」


 その子の声に被せるように、私は女の子を背中から押して敷地の外に追い出そうとする。

 なんて言おうとしたかは分からないけども、子供の話に耳を傾ける余裕はない。

 幸い、まだ誰にも見られていない。早くしないと他の人に見られるかもしれない。なんて思ってそう言うも、子供は言うことを聞いてくれない。

 まあ子供だから、ここに入ってはいけない、なんてまだ知らないのだろう。


「学長の…………」

「だから、ダメだよ。ここにいたら。怖いおじさんがやってくるよ」

「学長…………」

「ほら早く。私は見なかったことにするからさ」


 私はさらに強く押すも、子供は強く抵抗する。

 なんて面倒な。とはいえ、子供だから、怒る気にもなれない。

 あれ?

 今、この子は学長と言ったのだろうか?


「私の話を聞いて!」


 子供がそう大声をあげる。

 私は思わず辺りを見渡してしまう。誰にも聞かれていないことを確認して、仕方なく子供の声に耳を傾ける。


「どうしたの?」

「だから、学長の部屋がどこにあるのか教えて」

「学長先生のこと?」


 何でこの子は学長先生の部屋を探しているのだろう。

 もしかしてお孫さんとか? 学長先生は結構な歳言ってるから孫の一人や二人いても可笑しくないけども、学長呼びだから違うのかな?

 何だろう。


「それに、許可証は持ってるよ」


 そう言って子供は肩から下げた鞄から一枚の書類を取り出した。

 大きなハンコが押された書類にははっきりと通行許可証と書かれている。こんな子供に渡して良いものじゃないのだけれども。それを見せられたら認めないといけないのかもしれない。

 子供が経緯を教える。


「さっきまで学長と一緒にいたのだけれども、はぐれちゃって。だから学長の部屋を教えてほしいの」

「そうなの。それよりも」


 歳の割にしっかりした子だな、なんて思いながら私は子供に叱るように。


「年上には敬語を使おう。敬語。分かる? まだ小さいから敬語なんか使えないか」

「使えるけども、敬語は敬う相手に使うものであって、人の話を聞こうとしないあなたは、敬う相手から程遠いから」

「むっ」


 何この子、可愛くない。

 まあ、相手は子供。そう子供。怒るほどのことでもない。ちょっと知識を持った生意気な子供と思おう。よし。


「まあ良いや。学長の部屋ね。あっちに見える校舎の三階突き当り。案内はできないから分からなくなったら周りの人に聞いてね」

「ありがとう」


 最後にその子供は無邪気な笑顔を私に向けて、校舎へと走っていった。

 それがその子との出会い。






 なんてことがあった日の昼。

 私はその子との出会いなんか忘れて昼食を食べに行こうと、教室を出る準備をしていた時のこと。


「キャー、カルル様よ」

「カルル様!」


 クラスメイトの貴族の娘たちが、そんな大声を荒げるのだ。

 男子がほとんどの魔法学校で女子の声は何とも響く。

 私はその人物の名前に思わずギョッとして、すぐさま教室を飛び出した。廊下に出ると、カルル様が女子の間を縫って歩いていた。

 今日は良い日だ。

 私も取り巻きの女子のようにカルル様のもとへ行こうとした時。

 カルル様と私の目が合う。

 明かにこちらを見ている。思わず髪型をセットする。どこか変なところはないか確認をして。後ろも念のため確認する。もしかしたら私の後ろにいる人と目があっていたのかもしれないから。誰もいない。

 もしかして本当に、私の方を見てる?


「エミリアという女性を探しているのだけども、知らないか?」


 なんて思っていると、カルル様はそう取り巻きの女子に聞いた。

 私の名前だ。

 カルル様が私を探している?

 貴族の娘である彼女たちは私になど微塵も興味を持たない。だからクラスメイトだというのに私の名前なんか覚えていない。

 首を傾げて誰だろう、なんて口を揃えて言いあう。

 私はすぐさま手を挙げる。


「私です! エミリアは私です!」

「君か」


 カルル様が私の方へ笑顔を向けて、駆け寄って来た。

 そして、私の手を取ったのだ。

 これは夢? こんなことあるはずがない。でも実際に起きた。一体今日は何なのだろう。本当に素晴らしい。


「実は君にお願いしたいことがあるのだが。一緒に来てもらっても良いだろうか?」

「は、はい! もちろんです!」


 カルル様からそんなことをお願いされたらついていくほかない。

 周囲のクラスメイトたちの視線が痛いけども、そんなこと気にならにほど私の心は満たされていた。

 今日は本当に良い日だ。今日の日記に大変素晴らしい日だったと書いておこう。 




 カルル様に手を引かれ、連れて行かれた先。

 そこは学長先生の部屋だった。

 カルル様と学長先生は大変仲が良い。魔法学校始まって以来の天才なのだから、学長先生が気にかけないわけがない。その頃の名残が今だに残っている。

 カルル様が部屋の扉をノックし、開ける。

 中に入るものだから、私も着いていく。

 学長先生の部屋は奥に学長先生が業務を行う机。部屋の中央にソファが二つとテーブルが一つを置き応接間としても使用されている。

 二つのソファ。そのうちの片方に学長先生が座り、もう片方にどこかで見た子供が座っていた。

 そうだ。

 今朝出会った子供。

 生意気な子供。

 学長先生に案内してもらっているとかどうとか話していたけども。

 子供と目が合う。私のことを覚えているのか覚えていないのか、何とも言えない表情だ。


「私はどうして呼ばれたのですか?」


 カルル様に聞くと、カルル様は私の目を見て答えてくれる。


「エミリア、君の部屋は確か2人部屋だけども、君しか住んでいないよね?」

「はい、そうです」

「この子を君の部屋に住まわせてほしいんだ」


 カルル様の言葉を私は理解できずにいた。


「どういうことですか? 子供を寮に住まわせる特別な理由があるのですか」

「この子はセレネという。明日から、この学校に通うことになる。恐らく君と同じクラスになるだろう」

「…………え?」


 さらに謎が深まる。理解が追い付かない。

 どうして子供が魔法学校に通うと言うの。

 何があったというの。

 疑問符を浮かべるだけの私にその子供、セレネは笑顔を向けて。


「これからよろしくね」


 そう言ってお辞儀をしたのだ。

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