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第9話 お母さんの本性を知った

 カルルと再会した日から二日が経とうとしていた。

 夜中にこっそりと家に帰ったが、お母さんにばれることはなかった。

 向かえが来るまで私はこの村にいなくてはいけないが、カルルの言葉がどうしても忘れられなかった。

 山神様。生贄。本当にこの村の子供が生贄として山神様に捧げられていたなら、私はこの村の人たちへの感情を変えなくてはいけない。

 優しい人たちだと思ったのを考え改めなくてはいけない。

 まだ信じたい気持ちもあった。でもそれに希望がないことは何となく分かろうとしていた。

 迎えが待ち遠しい朝。


「セレネ。考えはある程度決まった? まだ山神様になりたくない?」


 お母さんが優しい言葉で私にそんなことを聞いてきて、私は首を縦に振る。


「なりたくはないよ。あんなモンスター」

「こら! 山神様をモンスター呼ばわりはダメよ」


 お母さんはそう言って、私を叱る。

 普通の親子の風景。

 今まではそうだった。でもあの真実を聞いてからは、これが作られた親子なのだと私は思い始めていた。

 そう。

 人間なんてそんなもの。

 本当の聖人はいないのだから。


「ねえ、お母さん」

「なあに」

「どうしてもなりたくない時はどうなるの?」

「そうね。山神様の反感を買うわ。そうなると、私たちは無事じゃすまなくなる。分かるでしょう?」

「うん、分かるよ」

「なら良かったわ」


 お母さんが私が賢いが故に、きっとわかってくれると信じてかホッとしたような表情を作る。

 そんなお母さんに私は聞くことにした。


「ねぇ、お母さん」

「どうしたの?」

「お母さんは、あの日どこに行くつもりだったの?」

「あの日?」

「私の前に山神様が現れた日」


 あの日。お母さんはかごのようなものを持っていた。

 お母さんがかごを持って森へ出かけるときなど見たことがない。ではどうしてか。たまに訪れる山神様へのお供え物じゃないかと私は考えた。

 その考えは正しかったらしくお母さんはこう答えた。


「山神様へのお供え物よ。果物を幾つか、持って行ったの」

「お供え物は果物だけなの?」

「そうよ。山神様は草食だから」

「じゃあ、毎年、村から子供が一人いなくなるのはどうして?」


 私の言葉にお母さんが言葉を詰まらせる。


「いなくなんかなっていないわよ? それとも、数十年に一度、山神様に選ばれた子供がいなくなることを言っているのかしら?」

「ううん。それとは別にこの村は、数年に一度。子供がいなくなるって聞いたから」

「それは誰から?」


 お母さんが私の肩を掴んで、焦った表情を見せる。


「カルルから」

「カルル?」

「魔導士の人」

「そんな人どこ…………に」


 お母さんが何かを思い出したのか、言葉を詰まらせる。私から手を離し少しずつ遠のいていく。

 その間お母さんは考えを巡らせていた。その人物に心当たりがあったのか。


「あの魔導士、セレネと会っていたのね。というよりも、もしかしてセレネはその魔導士から派遣されたのかしら? 魔法が使えて、頭が良いのはそうなのね。そうじゃないと可笑しいもの。こんな子供が魔法を使えるなんて」


 それは怖い表情だった。

 今まで見せなかったお母さんの本性なのかもしれない。

 怖かった。でもそれ以上に失望による怒りの方が強かった。


「ううん。違うよ、お母さん。でも、そっか。やっぱりそうなんだ。本当に子供を生贄に捧げていたのね」


 そのお母さんの顔を見た時、私はカルルを信じることにした。

 お母さんも敵だったから。そう敵。この村にいる大人たちはみんな敵。私の仲間はノア君だけなのかもしれない。

 だったら私はノア君を助けないといけない?

 ううん違う。

 そうじゃない。

 どうして敵を見捨てて、仲間だけを助けないといけないのだろう。

 私はこの世界を救うほどのことをして、そして神に戻らなくちゃいけない。神は聖人も悪人も、家族も仲間も敵も人外も等しく平等に救わなくちゃいけない。


「セレネ。良いことを教えてあげましょうか? 仕方がないのよ。私たちにとって山神様は、いえあのモンスターは村にとってこの上ない脅威なの。国はあれの討伐に動いてくれないし。だから仕方がないの」


 お母さんはそう言って、続ける。


「沢山の命と、たった一人の子供の命。どちらが大事か比べるもないでしょう?」

「違うよお母さん」


 力がなければ、そのどちらかを選択する他ないのかもしれない。でも力があればその二つを救うこともできる。

 私はお母さんに提案する。


「私があのモンスターを説得してあげる」

「…………え?」


 お母さんは私の言葉に耳を疑った。


「説得?」

「そう、説得。村を襲わせないようにしてあげる。それで良いでしょう?」

「そんなこと無理に決まっているでしょう? 討伐ならまだしも。あんなモンスターが人の話を聞くはずがない」

「そうでもなかったよ」


 お母さんがそう言い切る私に不思議そうな表情を作る。


「私と会話をしようとしてた。そして私の言うことを聞いてた。だから全然難しくないよ」

「そんな。ありえない。あのモンスターが人の話を聞くはずが」


 お母さんにとってこれは信じられない話だったのだろう。

 でも、とお母さんは思い出したみたいだ。

 あの日、私と山神様の距離を。


「あれは襲おうか悩んでいたわけじゃなく、従っていたというの?」


 お母さんが頭を抱え始める。

 頑張って。頑張って。考えようとする。そしてお母さんは私に聞いてくる。


「セレネは一体何者なの?」


 私はその言葉に素直に答えることにした。


「女神かな」

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