もしも白雪姫がスーパー戦隊に勧誘されたら
むかしむかし、西洋のとある国に白雪姫という銀白色の髪を持つ、それはそれは美しいお姫様がいたそうな。
「あー、今日のデザートのアップルパイ、美味しかったですわー」
白雪姫が自分の部屋の電灯をつけると、赤、青、黄、緑の4人の女性が、部屋の中に侵入していました。
「わっ!?」
謎の闖入者たちは、いきなり名乗りを上げます。
「赤雪姫!」
「青雪姫!」
「黄雪姫!」
「緑雪姫!」
すると、赤雪姫と名乗った赤髪の女性が続きを促すような仕草を見せますので、白雪姫は自分を指差しながら。
「し、白雪姫?」
「はい、5人揃って!」
『五雪姫!』
パンパーンと、クラッカーの音と紙吹雪が舞います。
「おめでとう! これで君も今日から私たちの仲間だ! これから共に世界平和のために戦おう!」
おー! と他のメンバーも雄叫びを上げて、盛り上がります。
「あ、あなたたちは一体、何なんですか?」
「我々は、秘密戦隊『五雪姫』だ!」
「警察を呼びますよ」
「ちょ、ちょっと、待ってくれ! 国家権力と事を交えたくないんだ。頼むから落ち着いて話し合おうじゃないか」
「慌ててるのはどちらですか」
突如、現れた4人の女性。
それぞれ名前と同じ髪色と、同じく名前に対応した色の、体のラインが浮き彫りになるような全身にぴったりのスーツを身に付けています。
体型は長身巨乳、スレンダー、ぽっちゃり、小柄と個性的ですが4人とも顔立ちは整っており、美人揃いといっても過言ではありません。
「というわけで、私たちは新しい仲間を迎えに、この国に来たのさ」
リーダーとおぼしき、長身巨乳の赤雪姫はビシッと白雪姫を指さします。
人の話を聞かない態度といい、傍若無人な胸の大きさといい、白雪姫は少しムッとしながら。
「誰も仲間に入るなどとは、一言も言ってないですわ」
「バカな! さっき、一緒に名乗りを上げてくれたではないか!」
「それは、勝手にそっちが仕向けただけじゃありませんか」
「じゃあ、君は世界が悪に征服されてもいいのか! 世界の危機だぞ!」
「わたくしにとっては、今この状況の方がよっぽどピンチなのですが」
バッサリ断る白雪姫に、なんてこったいと熱血リーダー風に頭を抱える赤雪姫。
「まあまあ。説明無しにいきなり言われても、混乱するだけですよ。こういうのは順序良くやっていかないと」
青髪スレンダーの青雪姫が、落ち着いた物腰で赤雪姫をたしなめます。
白雪姫は、ようやくまともに話が出来る人がいたと安心しました。
「悪いことは言わないから、大人しく仲間になってください」
青雪姫は拳銃を、白雪姫のこめかみにゴリッと突きつけます。
順序という言葉は、暴力の前には全く意味をなさないのだなあと、白雪姫は痛感します。
「カレーあげるから、仲間にならない?」
ぽっちゃりタイプの黄雪姫が、山盛りのカレーライスを食べながら言いました。
「冗談はこれくらいにして……。実は、私たちはこの国の悪を粉砕するために、やって来たんだ」
たぶん、今まで全部本気だったんだろうなあと思いつつ、赤雪姫のたわ言を聞く、心やさしい白雪姫。
「この国に悪人なんていませんわ」
「いや、いる! 君の継母の女王は悪い魔女。そして、秘密結社『ワルイマージョ』の幹部なのだ!」
白雪姫は、赤雪姫から語られた衝撃の事実というより、秘密結社のネーミングセンスの悪さに驚愕を隠せません。
「そして、女王は君を殺そうとしている。新開発の毒リンゴ、その名も『ポイズンアップル1号』で!」
「なんですって!? では、先ほど食べたアップルパイは、もしかして毒リンゴだったのですか? それとも毒イチゴ??」
「天然でボケてるみたいだけど、ご心配なく。アップルパイに使われようとしていた毒リンゴは、普通のリンゴと差し替えましたんで」
と、小柄な女の子の緑雪姫が、事務的に淡々と語ります。
「緑雪姫は忍者の家系で、諜報とか潜入工作が得意なんだ」
「まあ、そうなんですね。助けていただいてありがとうございます」
「じゃあ、貸し1つという事で、これからよろしく頼むよ」
「分かりました……って、それとこれは話が別ですわ!」
「むう、これでもチームに入ってくれないのか……」
「だいたい、そんな胡散臭いユニットに入っても、わたくしには何のメリットも無いですわ」
「そんな事はないぞ! もし、私たちの仲間になってくれたら、もれなく特殊能力が使えるようになる」
「まあ、すてき」
その話は、魔法少女に憧れを抱く、白雪姫の興味を引きます。
「例えば私、赤雪姫は火の能力の使い手!」
赤雪姫は、手のひらから炎の玉を作り出します。
「青雪姫は水の能力! 緑雪姫は植物の成長を促進する能力!」
2人はそれぞれ、水やつる草を出して、能力の片鱗を見せます。
「そして黄雪姫は、際限なくカレーをぶちまける能力!」
「黄雪姫さんのだけ、なんか微妙ですね」
「だが、彼女の能力は恐ろしいぞ。カレーが服に付いたら、洗濯しても、なかなか取れない」
「それは、ただのカレーあるあるでは?」
「とりあえず、仲間になってみてくれないか? 今なら洗剤とプロ野球のチケットも付けちゃうぞ!」
「なんだか、新聞の勧誘みたい……」
とはいえ、特殊能力が身に付く話はとても魅力的だったので、白雪姫はお試しで1ヶ月だけ秘密戦隊になる事にしました。
「じゃあ、この契約書にサインと拇印を押して……ああ、おっぱいはしまってくれ。ボインじゃなくて、指で押すハンコの事だ。そうそう、親指で円を描くように。よし、これで君も立派な五雪姫の一員だ!」
「では、さっそく能力を使ってみます」
白雪姫が精神を集中すると、手のひらから冷気とともに氷の結晶が生み出されました。
「これは、雪の能力?」
しかし、それを見た赤雪姫たちの表情が曇ります。
「すまない、白雪姫。その能力を使うのはやめてくれないか」
「え? どうしてですか?」
「『穴と雪の女王』とカブってしまうからだ」
「ディズ兄さんは版権にうるさいですからね」
「すいません、何を言っているかよく分かりません」
まあ、黙っていればバレないだろうということで、白雪姫はどしどし雪の能力を使っていくことにしました。
「よし! これで無事に5人揃って五雪姫になったぞ!」
『ばんざーい!』
「あの、もし私が入らなくて、4人のままだったらどうなってたのですか?」
「その場合は、雪姫四天王とか名乗って活動するしかないだろうな。それはそれでカッコ良いけど、やっぱり5人がベストだな」
白雪姫の疑問に、赤雪姫が答えます。
すると、そこに青雪姫が。
「赤雪姫! 雪姫レーダーにビリジアン色の反応が!」
「何! もしかして、ビリジアン雪姫か?」
「さっそく、迎えに行きましょう!」
「え? もし、そのビリジアン雪姫さんが仲間になったら、『六雪姫』になってしまうのでは?」
「それは大丈夫だ! 『9レンジャー』も、最終的には追加戦士を入れて12人になってたし!」
きわどいセリフを言いながら、セーフのジェスチャーをする赤雪姫。
「よし。じゃあ、ビリジアン雪姫がいるボスニア・ヘルツェゴビナに飛ぶぞ!」
「なんだか舌を噛みそうですが、それはどこの国ですか?」
「わからん! とりあえず、君はこのボディスーツに着替えてくれたまえ!」
「そういえば、これを着ないといけなかった事を忘れてました……」
赤雪姫は、白雪姫に白色のスーツを手渡します。
ピッチピチでボディラインが丸分かりなので抵抗がありましたが、白雪姫はやむを得ずスーツに着替えました。
「うむ、よく似合ってるぞ、白雪姫! それじゃ、準備が整ったら出発だ!」
『おー!』
こうして、スーパー戦隊の一員となった白雪姫は、仲間たちと力を合わせて継母の悪い魔女を倒し、国に平和を取り戻します。
そして、世界中を飛び回り、『オズの魔法使い』や『眠れる森の美女』、『人魚姫』や『シンデレラ』などに出てくる魔女たちをボッコボコにし、悪の秘密結社ワルイマージョを壊滅させることになります。
最終的に、五雪姫のメンバーは48色になり、某アイドルグループのようになりましたとさ。
めでたし、めでたし。
おしまい