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ねむるきみとねむる  作者: 野良丸
第二章
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エピローグ





 ぽつり、と空から落ちてきた水滴が地面を濡らした。

「やっぱり降ってきたか」

 どんよりとした空を見上げてから視線を下げ、三メートルほど前をぺたぺた歩いている娘の名前を呼ぶ。

「んー?」

 娘がくるりと勢いよく振り返ると頭の花飾りがふわりと揺れた。

「雨が降ってきた。合羽着て」

「あーい」

 ビニール製のポーチから取り出した合羽を渡すと、娘は小さく短い指を器用に動かして着始める。それが終わった頃を見計らって右手を差し出す。

「じゃあ帰ろう」

「えー。さんぽたりない」

「散歩し足りない?」

 首肯。

「じゃあ、少しだけゆっくり帰ろう」

「もー」

 娘は渋々といった様子で頷いて僕の手を掴んだ。

 左手で傘を差し、ゆっくりと歩きながら視線を少し上げて空を見る。

 雨は苦手だ。

 嫌いなわけではないけど。

 大切なものを掻き消されてしまいそうな恐怖を覚えることがあるから。

「どーしたの?」

 そんな声に視線を下げると、娘がきょとんとした顔で僕を見上げていた。

「ぱぱ、へんなかお」

 その言い草に思わず笑ってしまった。

「久し振りの散歩なのに雨が降って残念だなぁって」

「なんで? ひな、あめすき」

「そうなの?」

「ばしゅーってするとさいこー」

「バシュー?」

 謎の擬音に首を傾げると、娘は笑みを浮かべて大きく頷いてから僕の手を離して駆け出した。

「ちょっ」と思わず手を伸ばした先で、娘は「ばしゅー」と言いながら目の前にあった水溜りに飛び込んだ。

「えぇ!? ちょ、大丈夫?」

「いたくない!」

 勝気な笑みを浮かべてどこか尊大な態度で立ち上がった娘はその場で両足を交互に動かしてバシャバシャと水溜りを撒き散らす。いくら合羽を着ているとはいえ、最初のスライディングの時点で中の服まで泥だらけだろう。

 間違いなく妻に怒られるな、と苦笑した僕を見て娘が楽しげに笑った。

「楽しい?」

「さいこー」

「そっか」

 それなら僕も、また一つ、好きになれそうだ。

 雨空を眺めてから視線を下ろし、再び右手を伸ばす。

「さぁ、帰ろう」




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