1 コンビニの帰り、チンピラに暴行されたが、謎の女が救ってくれた!
1 カツアゲされてた俺を、美人が救ってくれたのだが・・・
「なぁ、おっちゃん」
コンビニを出て歩き始めると、俺は通りの反対側にある公園で屯していた、3人の若い連中に絡まれてしまった。まだ10代だろう。
しまった。
「おっちゃん、な、小遣いめぐんでくれや」
3人に囲まれ、俺はアッという間に公園の暗闇に引きずりこまれてしまった。リーダー格の男は俺より背が高く、俺の胸元を掴んだ。
「や、やめてくれよ・・・」
生の暴力に晒された俺は、あまりに情けない声を上げた。
「やめてやるよ」
次の瞬間、いきなり腹に膝蹴りを食らう。
グ、グぇぇぇ~!!!
リーダーが手を離す。俺は痛くって地面を転げ回った。俺の背中に2発、3発と蹴りが入る。
グぉ、グぉぉ!!俺の口から血が噴き出た。苦い、苦すぎる。
「や、やめて・・・」
「なんだっておっさん、聞こえねえなぁ」
リーダーの蹴り。
「俺たち、ナンパできなかったから、イライラしてんだよね」
「そうそう」
代わる代わるの蹴り。俺はもうボロ雑巾のようになっていた。意識が遠のく。
藪でゴソっと音がしたのはその時だった。男たちが振り向く。
「あんたたち、オヤジ狩りしてんのかい?」
這いつくばっている俺にはよく見えなかったが、やや太い女の声が聞こえた。若い女みたいだ。
「ほうほう、こんな夜にネエチャンのお出ましかい?」
「いい女じゃん、イッパツやらせろよ」
男たちが女に近づいたが、次の瞬間、3人が呻いて地面に倒れた。
な、何だ、どうしたんだ???
そこで俺は意識を失った。何も見えない闇の世界だ。
唐突に目が覚めた。いつものワンルームではなく、白い天蓋がかかっている。
ここはどこだ。
寝たまま俺は顔を横にして辺りを見回した。まったく見慣れない部屋。天蓋付きのダブルベッドに高価なソファやでかいテレビ。バーカウンターもあり、奥のドアはバスルームか。ラブホテルでないことだけはどうにかわかった。
確か俺は煙草を買いにコンビニへ行き、その帰り3人のガキに暴行を受けたはずだ。
うぅっ!!!
上半身を起こすと、節々が呻き声を上げた。それに体がやけに熱い。
水が飲みたい。
必死に体を起こすと、俺はベッドから転がり落ちた。痛みよりも、とにかく水だ。
絨毯の床を這って、どうにかバスルームとおぼしきドアの前で立ち上がる。
ドアを開いて中に入ると、やはりそこはバスルームだった。ワンルームのユニットバスとは比べ物にならない豪華な内装だ。
しかし、洗面台のでかい鏡には20代半ばの引き締まった顔の男が映っていた。
な、なんだ、こいつは。
水を飲むのも忘れ、俺は呆然と鏡を見つめた。
だ、誰なんだ。
顎に手を当てると、鏡の中の男も顎に手を当てた。
お、俺か????俺は一体・・・。
俺は、50代の、ややハゲ始めた小太りのおっさんだ。こんな若造じゃない。
夢だ、夢に決まっている。
蛇口をひねって勢いよく水を出すと、俺は口を開いて飲みまくり、頭から水をかぶった。そして顔を上げると、鏡にはやはりずぶ濡れになった若い男が映っていた。
「な、なんだ、なんなんだよぅぅぅぅ!!!」
おぅぅぅぅぅぅ!!!おぅぅぅぅぅぅ!!!
気が狂ったように俺は叫んだ。いや、遠吠えと言ったほうがいいかもしれない。腹の底から凄まじい快感が沸き上がってくる。吠えることが気持ちいいからだ。
シルクの白いパジャマをはだけると、俺の腹は筋肉で締まっていた。
一体、どうなっているんだ。
ソファに座り、煙草に火をつける。
う!!!
中学生の時みたいに、煙を吸い込んでやけにクラクラと目眩がする。俺は慌てて煙草を消した。体がニコチンを拒否しているのか。ひょっとして、そうなるくらい俺はここで寝ていたのかもしれない。
リモコンを取ってテレビをつける。今は朝の9時で、日付は・・・。
煙草を買いに行ったのが給料日だったから、あれから4日間俺は寝ていたことになる。
仕事は・・・俺のワンルームはどうなってんだ・・・
しばらくボウっとしていると、ふいにドアがノックされ、人が入ってきた。
あの女だ。
白いセーターとスカート姿で、その後ろにはワゴンを押した白髪の婆さんがいる。
「あ、あんた一体・・・」
「話は後。とにかく食べなよ」
女は俺の前に座り、婆さんが手際よくテーブルに料理を置いた。山盛りの骨付きフライドチキンにポテトサラダ、いくつかの新鮮なフルーツ、それにオレンジジュース。それらを見て、俺の喉がゴクリと鳴った。
「いいのか?」
「あぁ。腹いっぱい食べな。毒は入ってないよ」
悪い冗談だと思ったが、食欲にはかなわない。俺は手を伸ばしてチキンに食らいついた。
美味い。
女二人が見ている前で、俺はとにかく喰った。この世の終わり、最後の晩餐だと思った。
「見事な喰いっぷりだね。気に入ったよ」
「あんたは食べないのか?」
「アタシはいいよ」
とにかく喰いまくってようやく満足した俺は、また煙草に火をつけた。今度はまともなニコチンの香りがした。
「満足したかい?」
「あぁ、ありがとう。腹いっぱい食べさせてもらったよ」
俺はあらためて女を見た。どこにでもいる、20代くらいの普通のおねえちゃんだが、その眼だけが異様に光っている。全体的に生気があり、エネルギッシュな感じで、野生さえ感じさせる。
「質問したいんだろ。ここはどこ、あんたは誰、俺はどうなった・・・とかね」
そう言って女が笑った。可愛らしい笑顔だ。
「あぁ」
「何から答えようか・・・ま、そうだね、あの夜のことから話そうか。ただし、これは夢でもなんでもない、本当のことだ。そしてあんたはもう逃げられない」
女がニヤリと笑った。その口に八重歯というより牙を見たような気がして、俺は身震いした。
「いいだろう」
「そう、あの夜、アタシは木の上で寝ていたんだ」
「木の上?」
「質問は後回し。最後まで耳の穴かっぽじってよぅく聞きな」
可愛らしいネエチャンなのに、どうにも口が悪い。けれど俺はじっくりと女の話を聞くことにした。
女の話によると、あの夜3人の若造を蹴り倒してから、乗ってきたワゴン車に俺たちを積み込み、ここまで連れてきたのだという。どうやら女の自宅らしいが、それにしてもでかすぎる家だ。豪邸といっていい。
そして、彼女は俺たちを蘇生した。若造たちは他の部屋に軟禁されているとのことだ。
「事情はわかったよ。あらためて感謝するよ。ホントにありがとう」
「通りすがりだったからね。じゃあ次の質問は?」
「決まってるよ。あんた何者だ?人助けのボランティアじゃなさそうだな」
俺はまた煙草に火をつけた。
続く