第1話(湘元 晃編)
「...や、やめてくれ!なんでもするから!一体何が目的なんだ!?」
工場地帯の一角。今はもう使われていない工場に2人の男はいた。
そのうちの1人は殺人鬼。指名手配犯でもある。殺人鬼が男を見下せるような体制で、現在に至る。
男は必死に土下座をし、その男の下には涙やら、鼻水の類のもので濡れているようだ。
殺人鬼はそれを見て、
汚ったないなぁ。人間ってのは。
そう思った。
「興奮するんですよね。人間が必死に命乞いする姿。だから死んでくれますか?」
殺人鬼が男にそう告げると、男は大音量で工場内いっぱいに声を響かせた。
「く、狂ってる!こんなのが許されるわけがない!俺を殺してもお前はすぐに捕まる!」
「その言葉。聞き飽きました。今まで何人の人間が涙を流しながら、死に際に僕にそう言ったことか。」
殺人鬼は男の顔に自分の顔を近づけて、笑顔で言い放った。男は以前として、土下座の体制のままである。
「名前が分かればすぐに捕まる!俺の家族が黙ってないぞ!」
殺人鬼はその言葉を聞くと、顔いっぱいに満面の笑みを浮かべた。
「気づきませんか?僕、指名手配なんですよ。まあ、気づかないのも無理ありませんよね。整形は何回もしているので。」
殺人鬼のその言葉に、男は全てを諦めたかのようだった。まるで、うつ病の末期の患者のようだ。
男は全身からありとあらゆる体液を出しながら震えていた。尿までも漏らしているようだった。
男は正座をし、下を見たままか細い声を喉の奥から出し、ブツブツと、何かを言っていた。殺人鬼の耳にも届かない小さな声だった。耳を傾けると、
「や、やめてくれ...お、お願いだ...神様...た、助けてください...」
と、何度も繰り返していた。
「残念ですが、ゲームオーバー。今日まで人生お疲れ様でした。さようなら。」
殺人鬼がそう言って銃を男に向けると、男は悪魔でも見るかのような怯えた目で殺人鬼を凝視し、叫びながら必死に後退りを始めた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!うわぁぁぁ────」
「うるさいよ。あと、醜い。じゃあね。」
バンッ!!
男の叫び声が止むと同時に、銃声が廃工場のなかにいっぱいに響き渡った。
銃弾は1発で男の頭を射抜いたらしく、男はその場に倒れ込んだ。まるで、操り人形の糸が切れたようだった。
殺人鬼は男の死体を覗き込んだ。男は目は見開いたままで、死ぬ直前に叫んでいたせいか、目は血走っていた。銃弾のせいで空いた前頭葉の穴からは、血が溢れ出ている。その血はゆっくりと男の顔を赤くそめていった。
殺人鬼は立ち上がると、今日の反省点をノートに書き留めた。
「人間を殺すだけなのに5分もかかっちゃったな。次はもっと上手くやらないと。それにしても、」
殺人鬼は死体を見て、ふと思った。
「うるさい死体だったな。」
殺人鬼の本名は殺人鬼自身しか知らない。とても冷酷で残酷な人が死ぬことをどうとも思わない、男だ。偽名はこれまでに沢山使ってきたけど、本名は忘れたことがない。
なにせ、あいつらに復讐するための大事な鍵でもあるのだから。
※登場人物
・殺人鬼
本名は警察ですら知らない。偽名で人生ほぼ半分は過ごした。
・男
殺人鬼に殺されたごく普通の一般男性。