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???「最善で最悪の結末」

「アークお兄、さま……」


アークの身体が消えてなくなった。

残ったのは様々な世界の様々な記憶。

自然と零れ落ちる熱のある涙。


「くくくっ! 奴は逝ったようだな」


「っ……!」


真魔王・デスラスカオスの言葉と笑い声にすぐに斬りかかりたい衝動に駈られる。

でもそこで思い留まる。

何故なら兄のーーアークの言葉を思い出したからだ。

アークの冷厳に徹しろという言葉に私の頭の熱は急速に冷めていく。


「どうした? かかってこぬのか? それとも諦めたのか?」


「……誰が諦めるものですか。私はアナタをーーいや、貴様を殺したくて殺したくて仕方ない」


「ほぅ……ついに本気が見られるか? 剣聖の本気というやつが」


回復したのかあくまで冷静なデスラスカオス。

対してクーアディアは禍々しさと神々しさを纏った魔力に包まれている。


「そんなものは必要ない。私はただ、貴様を殺すだけだ」


「ふん! 抜かせ! 貴様がこの余に真魔王に勝てるとでも?」


「勝ち負けなんて関係ない。私はただ貴様を殺し、アークお兄さまやテレスの仇を討つのみ!」


「ぐっ!? こやつ……動きが」


デスラスカオスはアルクゥのその体で魔王の爪でクーアディアに攻撃を仕掛ける。

しかしクーアディアもまともに受けるはずもなく己の友であり愛剣の聖剣・アークスで向かいうち、魔王の爪を弾くように剣を振るっていく。

振る度にクーアディアの動きは過敏に次第に素早さも聖剣の捌きも鋭くなる。


「いつまで遊んでいる気だ?」


「なに……?」


「私は遊び気分でいる貴様が許せない! こんな奴にお兄さまたちは殺されたと思えてくるから!」


クーアディアの怒りは頂点に達していた。

しかしそれでもクーアディアの頭は顔は冷静そのものだった。


「誰だ貴様は……本当に人間か?」


「私が人間かって? そうだな、化け物と言われてきたこともあったけど、確かに今の私は人間じゃないかもしれない」


「そういう意味ではない……貴様はいったいいくつの顔を持っているのだ?」


だから恐ろしいまでに冷徹に聖剣を振るう。

その剣捌き、もはや人間の域を遥かに凌駕していた。

その太刀筋に規則性はない。

足捌きも同様に、剣を振る度にデスラスカオスの攻撃を避けるために足を体を動かす度に別人の動きを見せる。

それをその身一つで感じ取った真魔王は恐怖する。

これが人間の、勇者の成せる業なのかと。


「何を言っているの? 私の顔は一つしかない。貴様のように身体を奪ったりしない」


「ならば余はいったい何を見ているのだ? 私は貴様ではない“何者か”が見えている! これはどう説明する!」


「…………」


「アナタはいったい何を見ているの?」


真魔王デスラスカオスは今まで幾度となくその時の時代、時代の勇者と戦ってきた。

そしてその一人である勇者が魔王である自分に立ち向かってくる。恐ろしさを感じるほどに。

その恐ろしさの原因はクーアディアの動きにあった。

クーアディアは気付いていないがその動きの一つ一つが歴代勇者の動きを思わせるものがいくつも内包されているのだ。

クーアディアはそれを無意識に行えてしまう。

それは歴代勇者の魂の記憶。

勇者として培ってきた全て、魔王と戦って得た魂の記憶がクーアディアを無意識に動かしていく。

こう戦えと今、正に導いていくのだ。


「有り得ぬ…有り得ぬ! 有り得ぬ!! 有り得ぬぅぅぅッ!!!」


「覚悟しなさい、真魔王。アースガルナ人の、聖魔の勇者の力を身を以て知りなさい!」


「ぐぅッ!? バカなバカなバカな! このような力をたった一人の人間が制御ができるはずがない! 身体が堪えられるはずがないのだ!」


だから次第に追い詰められていく。勇者の宿命をたった一人の少女が背負った攻撃は真魔王には絶大だった。

今まで経験したことなんてなかった。

勇者が他の勇者の動きをコピーするなんてことは。

それは今までできなかったしする必要がなかった。それほどまでに過去の勇者たちは強かった。強すぎた。


そしてこれもまた勇者の力そのものだった。


「くそっ、くそ! 勇者めえぇぇッ!!」


「遅い!!」


時間の経過と共にクーアディアの身体が兄・アークから受け継いだ“魔壊の力”に馴染んでいく。

真魔王はクーアディアの動きに翻弄され、攻撃も当たらない魔法すらも通さない。

魔王を殺す魔壊の力が込められた聖剣で疲弊していく。削られていく。


「ぐわあああっ!! 何故だ! 何故、バリアが発動しないっ!?」


「バリア? そんなのさっきからずっと貫通してるじゃない」


「なに……?余のバリアが貫通しているだと?」


“魔壊の力”はバリアをも貫通する。

アークが貫けなかったのは魔力不足とバリアの貫き方をよく理解していないせいだった。


「そう、だからもうアナタに勝ち目はない。諦めなさい」


「諦める? ふざけるな! ニンゲン如きが諦めを諭すなど、身のほどを弁えろ!!」


「くっ!? この魔力圧……城……いや、世界全体が揺れている……?」


諦めるかと言う言葉はデスラスカオスが先に言った言葉。

立場が逆転したこと、そして勇者に負かされていることが許せない腹が立った。

だからデスラスカオスは本気になる。

世界征服は二の次に変わる。

今はただ目の前の自分をコケにした勇者を純粋にぶっ殺したい。

ただそれだけが真魔王・デスラスカオスの感情を突き動かす。

世界の崩壊の音色。

城の姿はもはや跡形もない。

地響きがうねるように音を立てる。

デスラスカオスの邪悪な波動が世界の姿まで変えていく。


「くっ! ふふふ、はははは!! 面白い……面白いよ真魔王! まだ戦えるなんて! まだまだ力を残してるなんてね!」


「……なんだ貴様、ついに頭でもイカれたか?」


「…………イカれてない。いや、ある意味ではイカれてるかもしれないね! アナタがまだこんなに力を残してたことが嬉しくて、たまらないくらいワクワクするんだ!」


勇者の血筋は魔王を殺すことに悦びを感じる。

だからクーアディアは笑う。満面の笑顔を浮かべる。

無邪気に自然に笑顔になる。

世界が天変地異で大混乱しているであろうこの時に笑顔になれるのは今、この場に魔王と退治するクーアくらいのものだ。

常人が彼女を見れば狂気すら感じるだろう。

だが勇者の一族ーーアースガルナ王族にとってはそれが至上の喜び。

だから強くなる。魔王を殺すためにその悦びを味わうために強くなり、やがて勇者になる。勇者にさせる。

それが勇者が感じる悦楽の頂点だからだ。


「狂っている……狂っているぞ勇者ッ!」


「それは貴様も同じだ真魔王!」


デスラスカオスは爆発魔法を唱えた。

彼女は左手で絶対魔障壁を発動させ無効果することもできたがそれをしなかった。何故なら戦いの愉しさに目覚めた彼女には単に無効果するという行動ほどつまらない攻撃はなかった。

だからまともに受けて縦に横に聖剣の攻撃を繰り出す。

倒したい殺したい、でもこの戦いを楽しみたいとある種、戦闘狂の血が勇者の記憶がそれを許してしまう。


「ぐっ! これはなかなか熱い!」


「凍えて死ねえぇぇ!!」


「うっ!? こ、これはなかなか効く……ならこっちは、サンダーフレア!!」


「ぐおっ!? こ、混合魔法だと……?」


「まさか知らないわけじゃないでしょう?」


「偉そうにドヤるでないわ!」


デスラスカオスの上級氷結魔法、巨大な氷の塊がクーアディアの身体全体を包む。

普通ならこれで凍り付いて凍死することが多いがクーアディアはこの状況から抜け出す術を知っていた。

単純だ身体を覆う氷を燃やして溶かせばいい。

だがこれには弱点があった。

それはクーアディアの身体ごと炎が燃え盛り装備している軽装鎧までダメージを受けてしまうことだ。

氷の塊を溶かすことはできたが代償に軽装鎧の一部が焼け焦げてしまう。

しかしそんなことを気にする素振りを見せることなく魔法を唱える。


炎と雷の混合魔法がデスラスカオスを襲う。

雷と炎が合わさった魔法は超高熱のマグマを纏った雷の雨だ。

それが空の彼方からデスラスカオスへ降りかかる。


「……効かないか」


「そのような子供だましが余に通用するとでも?」


「魔王級ならこれでも大ダメージなはずなんだけどね」


「余は大魔王だ。そのような魔法は効かぬ」


しかしデスラスカオスには魔法が通用しない。

属性のない攻撃、もしくは魔壊の力しか通用しない。

「そっか……ならこれしかないね。私の、己の剣で貴様を殺す!」


「フッ……これを受けても言えるか?」


「っ!?」


「暗黒真光ッ!!」


「ぐっ!? こ、これは……力が……」


デスラスカオスの放った暗黒魔力の塊の集束砲はクーアディアの身体を、世界そのもの蝕む。


「クククッ! やはり聖女パワーは余の力で破壊可能のようだな!」


「そんな、こと……」


クーアは身体の安定が難しく、やがて目眩すらしてくる。

しかしそれでも毅然と立ち向かい、聖剣を振る。


「真か? 動きがおぼつかないぞ勇者ぁッ!!」


「ぐあっ!? わ、私はまだやれる!」


クーアディアは魔壊の力を自分の中に流れる聖女力を介して行使していた。

それはクーアディアの身体には魔壊の力を扱えるだけの耐性がないからだ。

魔壊の力はーー魔の属性は主属性が聖の属性であるクーアディアにはどの属性よりも脅威で耐え難いものだった。

それでもクーアディアは勇者としての素質と聖女の力で魔壊の力を制御していた。

それがデスラスカオスの暗黒エネルギーを受けたことが原因で纏っていた聖女力のバリアが破壊されていた。

魔壊の力を制御するには膨大な量の聖女力が必要だった。

周囲の瘴気に身体に悪影響が出ないようにその身を護る程度すらも聖女力を回す余裕がなくなってくる。聖剣に回すのが精一杯だった。


「フハハハハハッ!! さっきまでの勢いはどうした!? いったいどこに捨ててきてしまったのだ?なぁ、勇者よ?」


「うぅ……くっ! はああぁぁああああッ!!」


それでも振る、振る、真魔王を倒すためにクーアディアは聖剣を振り続けた。

だが狙いが定まらない攻撃はデスラスカオスには簡単にかわされてしまう。

それどころか、かわされる度にクーアディアはデスラスカオスの魔爪の攻撃を受ける。

軽装鎧はもはや元の形も分からないくらい裂かれ肌を曝してしまう。

それでもクーアディアは迷いもなくひたすらに聖剣を振るう。

よろめこうが倒れようがどんなに真魔王の攻撃を受け、身体が傷付いても魔爪の暗黒魔力に侵されても諦めずに立ち上がり聖剣を振るった。


「惨めな女だ……ならば一思いに殺してくれる。この真魔王……デスラスカオスの手でなぁ!」


「ぐぅッ!? わ、私は……私は死なないッ!!」


「ぐおっ!? 貴様……まだこのような力を残していたか!」


届かない剣。

そんなとき、デスラスカオスの魔爪がクーアディアの心臓を貫こうと伸びる。

伸びてきた魔爪を左手で防御し、右手の聖剣でデスラスカオスを凪ぎ払った。


「死ねない……こんなところで死ねるものかああああッ!!」


「ッ!? どこまでも《《我》》を苛立たせる奴だ! もはや生かしておく道理もない! 世界ごと綺麗に掃除してくれるわッ!」


「っ! なめるな……私は勇者だ! 剣聖だ! 私が世界を護るんだあああああああッッ!!!」


クーアディアの左腕は魔爪の攻撃を受け、真っ黒に染まりまともに動かず感覚もない。

それは左腕だけではなく、左腕ほど酷くはなかったがほぼ全身が真魔王の暗黒パワーに侵食され黒に染まっていく。

自由が利くのは聖剣を握っている右腕のみ。

そんな状況は真魔王を殺すことを諦めない。

勇者の血がそうさせるのか、それ以外の何かなのかは分からないが真魔王の暗黒魔力の集束砲を聖なる力を聖剣に載せ、切り裂く。それどころか真魔王の身体すらもーーいや、身体ごと切り裂いた。

魔と聖の力を併せ、全ての力を振り絞り放ったのだ。

それは正に集束魔法を剣に纏わせた魔法剣と呼ぶべき必殺剣だった。


「なにぃぃっ!? バカな! この我がこんな勇者一人にーー」


「はぁ……はぁ……っ………やった。真魔王を倒……した……」




その魔法剣はやがてデスラスカオスの全身を飲み込み、やがてその身体は跡形もなく消滅した。


「でもまだ……世界を、浄化……しないと……」


倒れるクーアディア。

もはや歩ける余力も起き上がる力もーー暗黒魔力に汚染された世界を浄化する力もない。

だがそれでもクーアディアは呟く。

自分の愛した世界を救いたい一心で呟く。

既に自分の身体が色を無くしていき、死んでいくということに気付くことなくクーアディア・アースガルナはーー一その生涯を閉じた。




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