両手に花は男も含む?
計画を練った翌日、カルロは学校の隣にある教会へと足を運んだ。熱心に計画成功を祈る一方で、今は亡き両親と祖父への謝罪を繰り返す。母は北方諸国の貴族の娘で、駆け落ち同然で父と結婚した。2人とも熱心な信徒だったから、盗みの片棒を担ぐ娘を許してはくれないかもしれない。
『それでも良い』
カルロの中では、レオナルドが見ず知らずの自分を信じて大事な秘密を話してくれた事で、力になりたいという思いが強かった。困っている人がいたら助けるのが当然、といって伝説にまでなった祖父を見てきたからこその行動である。
『伝説を受け継ぐのは自分しかいない』
カルロは祈りを終えると、振り向くことなく前だけを見て教会を去った。その姿を見ていた人物がいたことにも気付かずに。
カーニバル当日。数日前の曇天が嘘のように晴れ渡った空の下、街中が花で彩られ人で溢れかえっていた。シスターたちに混じって売り子をしていたカルロは、友人たちが何故か色めきたった様子なので不思議に思っていた。毎年この日は交代で店番をしなくてはならないから、祭りが楽しめないと皆ぼやいていたはずなのだが。
「カルロッタ、大変よ!」
「これは一体何の騒ぎ?」
「とっても素敵な殿方が来てるの!それも2人!」
どうやら年頃の女子生徒にとって目の保養になる程の美男が来たらしい。ここは女子校だから、男は神父様しかいないし、喜ぶのも仕方ないのかもしれない。が、職場で嫌というほど男(筋肉メイン)を見慣れているカルロは全く興味がなく、終始金の集計に没頭していた。すると、下を向いていたカルロの長い銀髪を誰かが軽く引っ張った。邪魔をされ不機嫌になった彼女が顔を上げて相手を睨むと、してやったりといった顔で笑う男が立っていた。
「銀の天使からお恵みを頂戴しに参上…かな?」
「約束通り来たぞ、カルロッタ」
目の前に立っていたのは正装に身を包んだミケーレとレオナルドだった。ミケーレは黒のスーツにワインレッドのアスコットを合わせる装いが黒髪に映えている。一方、レオナルドは濃い青の三つ揃えに銀糸を織り込んだクラヴァットを合わせている。金髪に青い瞳の彼が着ると、殊更絵本に出てくる王子の様で、周囲の女子たちはすっかり落ち着きを無くしていた。
「何でそんな格好してるのさ?まだ昼間なんだけど」
「私は挨拶回りの途中で寄ったから」
「俺は美人とデートの約束がな」
レオナルドとカルロは同時にミケーレを非難の目で見たが、当の本人はどこ吹く風といった体で女生徒たちに無駄な色気を振り撒いていた。その様子をカルロが呆然と眺めていると、レオナルドが軽く肩を叩いてきた。
「済まないな。来る途中で見かけたから一緒に連れてきたんだが、こんな騒ぎになるとは」
「良いよ、約束を守ってくれただけ感謝してるし」
カルロが引っ張られて乱れた髪を整えると、何故かレオナルドがじっと見つめていることに気づいた。
「……何?」
「いや、何というか……この教会に入った時にステンドグラスに照らされた君の頭頂に光の輪が見えて。ーー本当に天使の様だと思ったんだ」
呆気に取られているカルロの頭にその大きな手をぽんと乗せると、レオナルドは彼女の顔を覗き込んできた。
「銀の天使は必ず私が守り抜くと誓おう」
それだけ言うと、彼は入口付近で囲まれているミケーレの首根っこを掴んでさっさと帰っていった。
「牽制のつもりか?」
「……何の話だ」
レオナルドが半ば引きずるようにしてミケーレを外に連れ出すと、開口一番にそう言われた。意味が分からないレオナルドはミケーレを訝しんだが、彼は一人だけ納得したような表情でレオナルドを見ていた。
「無意識だろうが無自覚だろうが、俺は譲る気はないぞ」
普段よりもずっと低い声で凄まれレオナルドは思わずミケーレから離れたが、次の瞬間にはもういつも通りの様子で彼は笑っていた。
「手を取られるのは王か騎士か、見物だなレオ」