作戦会議は昼間にやるもの?
白亜の獅子像が見守る教会広場には歴史ある喫茶店が複数軒を連ねている。その中で最も古いカフェ・ジェンティアーナのオープンテラスで、学生服を着た少女と身なりの良い若者が並んで午後のお茶の時間を過ごしていた。終始無言の状態を貫いている少女に対し、若者はついに痺れを切らした。
「なぁ、結局今日は何の用事で呼び出したんだ?君が単純にティータイムを過ごす為だけに連絡を取るとは思えないんだが」
「もうすぐ分かるさ」
少女は淡々とした様子で紅茶のお代わりを注文している。若者の方は少しイライラしながらコーヒーを啜ったが、ちょうどその時午後三時を知らせる鐘が鳴った。大きな音に驚いて広場の鳩が一斉に飛び立ち、羽が視界を覆い尽くすように舞うと、その向こうから人影が近づいてくるのが見えた。長身痩躯のシルエットが徐々にはっきりとしてくると、目の前に一人の青年が立っていた。年の頃は若者と変わらないが、眼鏡の奥に見える金の瞳は隙を見せれば噛み付かれる、ぐらいの鋭さを湛えていた。
「時間と約束は守ってくれるみたいで安心したよ」
「まぁな。しかし、制服が目印だとは言われたが、女だったのか」
眼鏡の青年は無遠慮に少女の姿を眺め回した。その様子に嫌悪を感じた若者は彼の前に立ち塞がった。
「いくら顔見知りであっても、女性に対してその態度は無いんじゃないのか?」
若者の対応に一瞬面食らった様子だったが、青年はすぐに笑みを浮かべた。
「こいつ良いな、気に入った!協力してやるよ」
「だから一体何の話なんだ…」
肩を思いっきり叩かれ疲れきった表情を浮かべる若者に少女はようやく口を開いた。
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「フレイメントの王妃、ねぇ…また厄介な物を抱えてるな」
青年ーミケーレと名乗った男に対し、レオナルドはずっと青い顔をしていた。
「…本気でこの男に頼むのか?」
「マフィアに正面から行ってあっさり返してくれるとは思えないし」
カルロは平然とした様子でメリンガ(メレンゲ)を砕いている。砕けた部分を横からひょいっとつまみ上げた男は自分の飲んでいたカフェオレに投入した。
「借りを返すとは言ったが、国宝を盗り返すよう頼まれるとは思ってもみなかったぞ」
「私は頼んでいない」
尊大な態度で椅子に掛けるミケーレに対し、名家の子息であるレオナルドは随分と小さくなっているように見える。最初は大泥棒に相応しい振る舞いでもしているのかと思っていたが、身なりや仕草はレオナルドと比べても全く遜色ない出来だった。存外彼も侮れないようである。
「問題は連中が首飾りの価値をどれくらい知っているかだな。国宝だと知っていたら裏から国を恐喝ぐらいはするかもしれんし」
「奪われてから既に2日経っているが、王妃からそう言った連絡は入っていない。今は様子見の段階だろうか?」
「単に奪った下っ端が従者の格好を良く覚えてなかっただけだろ。頭の良い奴なら一発で素性を見抜くだろうに。ま、バレたらすぐ動くだろうが」
レオナルドは天を仰いで呻いた。カルロは十分口の大きさに入るよう砕いたメリンガを飲み込むと、ミケーレを見つめた。
「勝算はあるの?」
「可能性としてはまだ五分と言ったところだが、良い情報が入ってきている」
カフェオレを飲み干したミケーレは静かにカップをソーサーに戻すと、体ごと中央に寄ってきた。耳を貸せ、ということだろう、カルロたちも体を寄せた。
「3日後にカーニバルが始まる。この時期にマフィアは毎年オークションや賭博場を催しているんだが…」
そこで二人にもようやく理解できた。頷き合った二人を見てミケーレは話を進めた。
「オークションの目玉賞品に間違いなくあの首飾りは出てくる。当日は仮装客でごった返しているはずだから、紛れ込んで奪い返せば良い」
こうして、今年のカーニバルは波乱の祭りとなる事が決定した。
大変永らくお待たせして申し訳ございません。人物紹介2回目をどうぞ。
レオナルド・オルセオロ…20歳の青年。本作で威厳が全く見られないけど貴族。金髪碧眼の美青年な筈なのに周りが個性強すぎて目立たない。…頑張れ!