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Brave oars  作者: 夕坂 香
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闇夜を舞う者

前回から再び間が空いてしまい申し訳ありませんでした。気長に待っていただければ幸いです。

 家に帰ったカルロはすぐに着替えて舟の点検をした。明日は久々に予約が入っている為、念入りに手入れをしようとしたその時、何かが空から降ってきた。辺りは既に真っ暗で、落ちてきた物も黒かったのでカラスかと思ったが、すぐに立ち上がったそれは自分の背より遥かに大きい男だと分かった。昨日といい今日といい、何なんだと悪態をつこうとしたら相手が振り向いたので、カルロはその言葉を呑み込んだ。

「お前、ゴンドリエーレか?」

金縁のついた黒いシルクハットに仮面を付けた男がカルロを指差して尋ねた。異様な事態にカルロは首を縦に振ることしかできなかったが、相手はそれで納得したらしい。急にカルロの腕を引っ張ると無理やり舟に立たせた。

「何するんだよ!」

「漕げ。そして逃げろ」

「何でオレが…」

言いかけたところで静かな街並に不似合いな物音が聞こえてきた。けたたましい機械音と舟のシルエットを見てカルロは舌打ちした。新式のモーターボートなんかを所有しているのはマフィアぐらいしかいない。

「仕方ない…しっかり捕まってろよ!」

片付けの為に脇に置いていたオールをその細腕で持ち上げると、素早くフォルコラにはめ込み漕ぎ出した。舟の先端に取り付けられたランプだけでは心許ない暗さだが、カルロは驚くべき性格さでオールを操る。しかも、モーターボートに引けを取らない速さで、である。

「坊主、やるな」

「喋ると舌を噛むぞ」

仮面の男は飄々としているが、カルロは必死だった。ただでさえ狭い水路を、夜目の効かない状況で記憶を頼りに進んでいるのだ。落ち着いている男の方がおかしいくらいだ。

「おい、目の前!壁が…」

男が叫ぶと同時に、カルロはフォルコラから引き抜いたオールを振り、絶妙な力加減で壁に当て舟の進路を曲げた。無駄に速度を落とさずに済んだカルロたちと異なり、上手く曲がれないモーターボートは減速せざるを得ず、一気に距離が開いた。その後しばらく様子を見ながら舟を進めたが、追いかけてくる様子はなかった。

「ふぅ、何とか撒いたみたいだな。よくやった、坊主」

「さっき全力でしゃがんだくせに、平気な振りしちゃってさ。帽子、落ちてるけど?」

カルロがオールの先でシルクハットを持ち上げると、男は無言でそれを引ったくった。カルロがオールを振り回した時、男の頭上すれすれを通ったのが怖かったのかもしれない。

「お前、ちょっと本気で頭にぶつけようとしてただろう」

「当然だよ。人を勝手に巻き込んでおいてさ。顔を覚えられてたら、明日からの商売に響くじゃないか」

「大丈夫だって。こんなに暗いんだ、あいつらだってどこの誰だかはっきりしてないだろ」

あっけらかんと述べる男にため息をつくと、カルロは男のシルクハットを突いて尋ねた。

「で、どんなヘマしたんだよ?カサノヴァさん」

「なんだ、気づいてたのか」

仮面の男ーカサノヴァはたいして驚きもせずカルロの質問を受け流した。怪盗というだけあって只者ではない雰囲気を漂わせている。

「ま、あいつらに泣かされた女が一人いてな、仕返しに何か痛い物を盗んでやろうと思ったんだが見つかったのさ」

カルロは話の内容を聞いて、聞くんじゃなかったと頭を抱えた。2日続けてマフィアに絡む事態に巻き込まれるなど呪いとしか思えない。

「巻き込んで悪かったな。この借りは何らかの形で返すから許してやってくれ」

この通り、と頭を下げるカサノヴァに対し、カルロは溜息で返した。だがふとその時、普段の自分ならまず考えないようなことを思いついてしまった。

「借りを返すか…何でも良いわけ?」

「物によるが…出来る範囲で返すつもりだぞ」

その言葉を聞いてカルロは決心した。今自分が関わっている事件の解決に繋がると信じ、口を開く。

「あんたに頼みたい事があるんだ」


今回は人物紹介を次に持ち越します。初登場の方は2回に分けて紹介します。

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