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Brave oars  作者: 夕坂 香
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爆弾拾いました

 少ない売り上げとは裏腹に大量の土産を得られたカルロは浮かれた足取りで家路についた。家の裏手にある船着場に舟を停め、家に入ろうとしたところ、玄関ドアの前で黒い影が動いた。泥棒かと思い咄嗟に身構えたが、よく見ると相手は気絶しているようだった。薄暗い街灯に照らされた顔には殴られたような痕があり、随分と息苦しそうだ。

「なぁ、あんた大丈夫か?」

 その人物がまだ年若い青年であることに安堵したカルロは、そっと彼の肩を揺すってみたが、少し唸っただけで目を覚ましそうにない。

「…仕方ないか」

 カルロは渋々青年を背負って家の中へと入っていった。


 *


「…ん?ここは…」

 青年が目を覚ました場所は冷たい石畳の上ではなく、程よく温められた室内だった。よく見ると自分の身体には毛布も掛けてある。どうやらこの家の住人はお人好しのようだ。

「あぁ、起きたの」

僅かに高い声が廊下側から聞こえてきた。湯気の立った食事を盆に載せて近づいてきたのは小柄な少年だった。室内だというのに何故か帽子を被っている。

「食べられる?」

青年がぼんやりと眺めていたら、目の前にテーブルにスープやらパンやらが続々と並べられた。忘れていた空腹が蘇り、腹から盛大な呼び出し音が鳴る。

「食欲はあるみたいだな。食べられるだけ食べなよ」

「君や家族の分はちゃんとあるのか?」

「食べてから帰ってきたんだ。家族はいないから遠慮すんな」

青年は触れてはならない話題だったかと思い、目を逸らしつつ胸ポケットから十字架を取り出した。家では祈りの際に必ず使う物だが、少年の目には珍しく映ったようだ。

「綺麗だね」

「ありがとう。そう言ってもらえて、天の母も喜んでいるだろう」

今度は少年が目を逸らす番だった。気にしなくていい、と言いながら祈りを済ませ、いざ食事をと口を開けた途端痛みが走る。突っ張る感触に口元を触ると、何か貼ってある。

「あちこち殴られてたから手当てしたんだよ。暫くは我慢しなよ」

「何から何まで世話になってしまったようだな」

「家の前で死体なんか出したら誰も寄りつかなくなるだろ」

青年は少年の素直でない言葉を聞いて思わず笑ってしまったが、彼はそれが気にいらなかったようで、ひどく不満気な顔で青年の痛いところを突いてきた。

「そもそもどこでそんな大怪我したのさ?」

「…君は口は堅い方か?」

「おしゃべりなつもりはないけど」

少年は更に不機嫌な表情で青年を睨んできた。なかなかには気の強い少年である。青年は一つ頷くと真剣な表情で話し始めた。

「僕がやられたのは『リッツォ・ファミリー』の下っ端だ」

「マフィアに?何で?」

『リッツォ・ファミリー』といえばこのカスケードの街を牛耳るマフィアの事だ。街に住む者なら誰でも知ってるし、危険すぎて彼らの居るところには誰も近づかない。

「事の発端は僕の従姉が内密に手紙をくれたことにある」

青年の話によると、彼の従姉はなんとかの有名な隣国フレイメントに嫁いだ王太子妃だと言う。しかしこの従姉、美人だがそそっかしいところがあり、嫁いだ時にカスケード国王から祝いに贈られた国宝の首飾りを先日壊してしまったのだそう。フレイメントで修理しようにも、うっかりカスケード国王の耳にでも入ったら国交問題に発展しかねない。そこで考えついたのが、実家である侯爵家を通じて内密に職人のもとへ持っていくという方法だった。その手紙を受け取った従姉の父は納得したが、問題はそこからだった。従姉は王太子妃なので国を出られない為、従者を遣いに立てたのだが身なりにまでは気を配れなかったらしく、一目見て貴族と分かる格好で路地裏をうろついてファミリーの下っ端に絡まれたのだ。その際に身包み剥がされた上、なんと大事な首飾りの入った箱も奪われてしまったのだと泣きながら侯爵に伝えたそうだ。

「叔父からこの話を聞いて、父も私も協力を申し出たのだが、叔父も父も若くないから、私がファミリーの所まで行ったのだ」

そこで正面から行って門番の下っ端たちにボコ殴りにされたという。少年の家の前で倒れていたのは単に力尽きただけらしい。

「災難だったね」

「それなりに鍛えてはいるのだがな。3対1では流石に歩が悪かった」

青年は洗練された美しい所作で食事を終えると丁寧に頭を下げた。

「行倒れを拾ってもらった上、食事まで頂いてしまってすまなかった。必ずこの礼はすると約束しよう」

「良いよ。今度出かける時にうちの舟を使ってくれればそれで十分だ」

「君はゴンドリエーレだったのか」

どうやら家の前で力尽きた時に裏手の係船柱を見ていなかったようだ。

「まだまだ新米扱いだけどね。さ、もう寝よう。明日は朝から学校なんだ」

少年はさっさと食器を片付けると奥へ引っ込んでしまった。青年はどうしようかと悩んでいたが、突然目の前が真っ暗になった。…良く見ると毛布だった。

「じいさんのベッド、埃被ってて使えないんだ。そのままソファで寝てくれ」

帰ろうかとも考えていたが、どうやらここで一泊するのは決定事項のようだ。青年は有難くそのまま眠ることにした。

次から少しずつ登場人物紹介が入る予定。相変わらずの遅筆で申し訳ございません。

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