ゴンドラ商会
前回から大分間が空いてしまいすみませんでした。仕事の都合上このような事が多々あると思いますが、気長に見守ってやってくださいm(_ _)m
学生街へ向かう途中、駅前広場に差し掛かった辺りでカルロはざわついた気配を感じとった。
「号外、号外だよ!」
駅前は辺りに撒き散らされた号外に群がり、食い入るように見つめる人でごった返していた。その様子に呆然としていると、ビラ配りが強引に号外を押し付けてきた。見出しはこうである。
『怪盗カサノヴァ、三度現る!』
怪盗カサノヴァとは、ここ最近巷を騒がせている義賊のことだ。と言ってもこの怪盗、実際は祖父の頃から既に存在していて、数年前にぷっつりと活動が途絶えていた。なのにまた最近になって活発に活動を始めたものだから、じつはものすごい高齢だのいやいや不老不死の怪人だの様々な噂が一人歩きしている。噂は不穏な物が多いが、街の人々の評判は良いのでこうして号外が出ると皆我先にとやって来るのだ。一方で怪盗がターゲットにしている商館の役人や高利貸しからは常に嫌われていて、名前を出すだけで怒り出す客もいるとか。
「…自分には関係ないか」
号外を丸めて歩道のゴミ箱へと投げ入れる。放物線を描いて飛んでいったそれは見事にゴミ箱へとダイブした。カルロは今日の仕事が多く入ることを祈って舟を進めた。
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「遅かったな、もう始まってるぞ」
カルロが今日の仕事を終えて所属するゴンドラ商会に顔を出すと、入り口で親方が待っていてくれた。仁王立ちしていたから怒られるような事でもあったかと思ったが、表情がいつもより穏やかだったので、単に帰りが遅いのを心配してくれていたのだと分かった。父親代わりの親方はこの商会の中でもとりわけカルロに甘いのだ。
「女将さん迷惑してない?」
「あんなのいつものことだ」
親方の背後を覗きこむと、商会の水夫たちが既にどんちゃん騒ぎを始めていた。酔っ払って踊り出した若者を女将がトレイで叩いてまわっている。
「おぅい、カルロ!こっちに来い!夕飯まだだろ?」
「早くしねぇと飯なくなっちまうぞ!」
フィリポを含めた顔馴染みの水夫たちが手招きするので、寄っていくと無理やり席に座らされた。あれよという間に目の前に料理が並べられていく。
「あんたはいつまで経っても小さいからね、しっかり食べて頑張るんだよ!」
女将に背中を思いきり叩かれむせそうになったが、カルロは幸せを感じていた。温かい仲間に囲まれ、一時孤独を忘れることができるこの時間を噛み締めつつ、明日の仕事に向けてカルロは食事を楽しんだ。