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第三章 大魔王降臨? その1

 今までの俺を思い出しただけで吐き気がしたが、昼休みもあと少しで、もう次の授業が始まってしまうから、俺は涙と鼻水をトイレットペーパーで拭くと、トイレから出て教室に戻った。


 戻ってきた俺を、キリカはちょっと見て、すぐに視線を読んでいた本に落とした。


 俺が席に座って弁当にがっつくと、ノブヲがやってきた。


「ま、マコト、大丈夫か? キリも心配してたぞ」


 ノブヲはキリカのことをキリと呼ぶ。

 いつか「キリカのことが好きなのか?」とノブヲに聞いたが、軽くスルーされたことがあるので、俺はノブヲはキリカのことが好きなんだと理解した。


「おっ、わりいな。ノブヲ。パンチラ女がキリカだったんで、ちょっとパニクっちゃったよ」


 俺が素直にそう言うと、


「いや、マジ俺もキリもマコトのこと心配してんだって! 頭打ってるしさ。バイトで金貯めて買ったバイクも当分乗れないんだろ?」


 ノブヲは心から俺を心配してくれているみたいだ。

 キリカも正義感のあるいい子なので、きっと本気で俺を心配していることだろう。


 俺はそう考えると、また涙がこみ上げてくる。


 こんなに泣き虫の不良などいない。


「ありがとなっ。でも、もう大丈夫だよ。とりあえず学校にはバレなかったしなっ」


 俺はそういって笑顔を作ったが、たぶん相当引きつっていたことだろう。

 ノブヲはまだ心配そうに、大丈夫か? という目で俺を見ていたが、授業が始まるチャイムが鳴ったので自分の席に戻っていった。


 授業が終わると、ノブヲは俺を部室に誘ったが、俺はそれを断って帰ることにした。


 ひとつだけ気になることがあったからだ。


 学校と駅を結ぶ幹線道路を半分くらい進んだところが、今朝、俺が事故った場所だ。

 俺がコケたときに、俺を助けようともせず、気功波のポーズで俺を見てたヒゲ面のオッサンのことが気になっていた。


 ホームレスにしてはヒゲが整い過ぎているし、どことなく異質な感じがしたからだ。


 変なポーズだったせいもある。


 潰れた酒屋が見えるくらいまで歩くと、そこには誰かが座っているのが分かる。


「お、オッサン、まだいやがる」


 俺はそう呟くと、路地に隠れるようにしてオッサンの姿を認識できる位置まで近づいた。

 オッサンは目の前を通り過ぎていく車をボーッと眺めている。


 すると、今度は自分の両手をじっと見て、ため息をつく。

 そしてまた、車をボーッと見ている。


 何分か経ったとき、オッサンは片手をまっすぐ前に伸ばすと、朝と同じように気功波でも打つのか? というポーズになる。


 そのとき、


「キャッ!」


という声が道路の反対側であがった。


 俺が素早く振り向くと、何人かの女子高生がスカートを手で押さえている姿が見えた。


「やっぱり……」


 俺はそう呟くと、今度はオッサンと反対車線が両方とも見える位置まで下がり、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 反対車線には、緑高校の女子生徒が一人、駅のほうに向かって歩いていた。


 俺はその姿を確認すると、今度はオッサンを見た。


「……、……」


 な、何も起こらなかった。


 俺の勘違い?


 いや、ただの馬鹿な妄想か? とも思ったが、やはり気になるので、もう少し観察することにした。


 何人かの女子高生が通り過ぎて行ってたが、やはり何も起こらなかった。


「くそっ、やっぱり俺の思い違いか……」


 俺はそう吐き捨てると、駅に向かおうとしたが、チラッと学校の方向を見たときに、俺の視界には本城モトミの姿が入ってきた。


 夕陽のもとで見る彼女の姿もまた最高だ。


 スカート短いなぁ~。


 体もほっそいなぁ~。


 俺はすっかり本城モトミに見入ってしまった。

 俺が隠れている路地の前を彼女が通り過ぎると、今度は俺の視界にオッサンの姿も入ってきた。


 すると、オッサンはしっかりと手を前に出して、気功波ポーズをしているではないか!


 俺は、


「あっ!」


と小さく声を上げた。


 オッサンの手がビクンと一回動いたそのとき、本城モトミの短いスカートが一気にめくれ上がったのだ。


 大人の女が着けているような、俺がエロビデオでしか見たことがないような、濃い紫色の下着が目に飛び込んできた。


 俺の下半身、起立っ! 前へぇならえっ!状態だ。


 黒く縁取りされているソレは、パンツというよりもランジェリーという表現が当てはまる。

 これで当分は自己処理のネタには困らない。


 が、俺はそれだけではなく、オッサンの気孔波ポーズが予想通りだったことにも嬉しくてたまらなかった。


 俺は潰れた酒屋に向かって歩きながら、オッサンがどんな道具を使っているのか分からないが、きっと発明家の変態オヤジで、女子高生向けスカートめくり機の実験をしているのだろう、と推測した。


 それはけしからんっ! けしからんが……、こみ上げてくる笑いを必死に抑えながら、真面目な顔を作った。


 そして、オッサンの隣に腰をおろすと、


「オッサンさぁ、俺、見ちゃったよ」


とポツリと言った。

 オッサンは俺のほうにゆっくりと首を回すと、


「何をですかな?」


と、しらばっくれる気マンマンで言ってくるので、


「いやね、発明とかを否定する気はないんだよ。人類にとって発明は重要だからね。でもね、女子高生のスカートをめくる機械なんて普通は作らないよな。それをこんな天下の公道で実験するなんてさ。あっ、俺、そこの緑高校の生徒なんだけどね。アンタがさ、うちの女子生徒を実験対象にしちゃってるもんだからさ、うーん、なんて言うのかな、あんまり警察沙汰にはなりたくないでしょ?」


 俺は少しニヤケながらそう言ったのだが、オッサンは真面目な表情を崩さずに、


「何を言っているのかさっぱり分からないですな。ワシは機械なんぞ何も持っていませんぞ」


などと反抗的な態度を取るもんだから、


「アンタね、女子高生のスカートをめくってたよね? 俺、見てたんだよ。アンタが手をまっすぐ前に伸ばしてなんかスイッチかなにかを操作してさ、そうするとスカートがめくれるわけ。何をどう仕掛けてるんだよっ?」


 俺は頭にきて、男の腕をつかんで服の中をチェックした。


「あっ、あれ?」


 何もない。

 機械どころか、このオッサン、何ひとつ物を持っていない。


「だから、何も持っていないと言いましたじゃろ?」


「あれっ? そんなことはないんだけどな……」


 俺のテンションは急に下がり、強気だったのが、だんだん弱気になってきた。

 だが、これではいけないと思い、


「あのさ、俺はみ・た・の。アンタが女子高生のスカートをめくっているのをさ。さっき通った巻き髪のスカートが短い女の子はね、俺の知り合いなんだよ。だったら、あの子呼んできて証言させようか? このオジサンがスカートめくりました! ってさ」


 俺は叫ぶように言ったのだが、オッサンは全然冷静だ。


「いや、困りましたな。そう言いがかりをつけられても……」


 オッサンはそう言うと、両手を合わせるようなポーズを取った。


 その瞬間、俺は何とも言えない恐怖を覚えた。

 オッサンの顔がみるみる変わっていき、怒っているようにも、笑っているようにも見える不気味な顔になった。


「龍をだすぞぉ」


 凄みのある低音でそう言うと、合わせた両手に力をこめた。

 あまりの迫力に俺は完全に押されてしまい、声が出なかった。

 しかし、


「……。……」


 何も起きない。

 何も変わらない。

 オッサンは一層力を入れて手を合わせるが……。


「……。……」


 やっぱり何も起きない。


「お、オッサン、何も起きねえよ。龍も出ねえし」


 俺がそう言うと、オッサンは手を下ろして、うな垂れるようにして、大きなため息をついた。

 俺は変な不審者に声をかけてしまったと後悔すると、


「やっぱりさ、俺、ケーサツ呼んでくるわ。オッサン気味悪りぃし」


と言って、立とうとした。

 するとオッサンは俺の腕を掴み、


「すっ、すまん。ワシとしたことが、ちょっと気持ちが不安定になっていての。あ、怪しいものじゃないぞ。そ、その、警察は呼ばないでくれ。この世界であまり騒ぎを起こしたくないんじゃ」


 この世界って何だよ? と思いながらも、俺としても本心では警察には関わりたくなかった。

 だって、今朝、散々関わってしまったから……。


 しかし、天下の公道でスカートめくりの実験をしておきながら、騒ぎを起こしたくないとは、何たる厚顔無恥なのだろうか。

 よし、それなら俺が裁いてやろう。


「オッサンさ、警察呼ぶとか呼ばないとかはさ、俺の自由なわけ。でもさ、そのスカートめくりの秘密を教えてくれたら、考えないことはないんだけどなぁ」


 オッサンは似合わないキョトン顔になると、


「信じられるかのぉ? ワシの話を……」


と言うので、


「俺は大丈夫さ、信じるよ。本当のことを話してくれればね」


 俺はニヤッとしながら、そう言った。

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