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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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95:ポルトー対ズィプガル

「さあ、渡界人の力、見せてくれよぉ!」

 ズィーがスヴァニを身体の前で構えると、ポルトーが言って鍵束から一つの鍵をもぎ取った。

「砲門解錠!」

 彼がくうに向かって鍵を回す仕草を見せると、ズィプを囲むように空間にいくつかの扉が現れ、それぞれ勢いよく開いた。

「マジかっ!?」

 開いた扉からは無数の砲弾が飛び出す。

 標的となったナパスの戦士は紅き閃光を散らす。控え室から見るセラもあの状態では彼と同じ判断をしただろうと考える。

『出たーっ! これが渡界人の渡界術!! 『紅蓮騎士』ズィプガルの渡界術だぁ!』

 ニオザの実況と共に会場が盛り上がる。それはつまり、『紅蓮騎士』の噂の広がり具合を示していた。

 砲弾が地面を抉り、紅い閃光の残滓が土煙に消える。誰もが騎士の行方を捜した。

「後ろ」とセラは呟いた。

 彼女の超感覚をもってすれば彼のナパードは騒がしい部類に入るのだ。見失うわけがなかった。

 セラ言う通りズィーはポルトーの背後でスヴァニを振りかぶっていた。

 ぼぅおんっと鳴るスヴァニ。

 ガグンッと止まる。

鉄鋼門てっこうもん施錠……ふぅ、あぶねぇ」

 危ないと言いながらも笑うポルトーの背後で分厚い鉄の扉がスヴァニを受け止めていた。

 彼が反転しながらズィーを蹴る。

 セラならば超感覚で先読みして防いだところだったが、ズィーは違った。蹴られるがまま蹴られて、後方へと滑る。「っく」

 滑りを止めると、ズイ―は駆け出す。

 ポルトーはそれに対して、体を構えるより先に鍵束から別の鍵をもぎ取って自分の両脚にそれぞれ当てて回す。そして彼の手から鍵は消え、鍵束に鍵が一本現れた。どうやら彼の持つ鍵は使い終わると鍵束に戻るようだった。

「はぁああ!」

 ズィーが剣を振り上げる。とても真っ直ぐで速い。軽くて重い、瞬時に最高速に達するスヴァニの特性はやはりズィーにぴったりだった。

「ぁらよっと!」

 ポルトーが跳び上がった。それは振り上がってくるスヴァニと同調したような速さで、距離が埋まらない。

 スヴァニはそのうち弧を描くように獲物から離れていく。

「速いな、でも!」

 ズィーは振り切った勢いのまま体を回転させて剣を投げた。しかし、それはポルトーには向かわず通り過ぎる。

「おいおい、そんなヤケな戦い方があるか……よ?」

 通り過ぎていったハヤブサからその飼い主に目を向けた鍵使いだったが、そこにはすでに紅い光りすらなかった。

「まさっ……!?」

 彼が気付いて振り返ったときにはすでにスヴァニは振るわれていた。

 はじめに背後を取ったときと言い、今といい、後ろをからの攻撃の時に声を出さないあたり、ズィーはビズラスの教えをしっかりと守っているようだ。

 空中でズィーがポルトーを斬る。

 鍵使いの背中から血が飛ぶ。

 殺してはならないという唯一のルールのことを考えてかやや浅い気もするが、きれいに決まった。

 一人が落ち、一人が降りる。

『決まっ――』

「ってない!!!」

 実況が試合の終わりを告げようとしたが、尚早だった。ポルトーは一瞬ふらついたが、しっかりと自分の足で立ったのだ。そして、鍵を一つ取り、背中の傷口に向ける。

「傷口……施錠」鍵が彼の手から束に戻る。「さあ、続きやろうぜ!」

「……いいのか?」ズィーは気遣うように問う。

「問題ないぜ、傷口は塞いだ」

「いや、そういうことじゃねえと思うんだけど」

「そういうことなんだよ。ほら、もっと楽しもうぜ」楽しそうに歯を見せるポルトー。

「まあ、そっちがいいって言うなら、やるか」なんだかんだ言いつつもズィプも楽しそうにスヴァニを構える。

『皆さん! まだまだ続くぞぁお!!』とニオザが言うと、客たちは大口開けて盛り上がる。

「面白ぇけど、厄介だな。速いとかの問題じゃねえしな、それ」

 ジャラジャラと鍵たちを弄びながらポルトーは呟く。何やら考えているようだ。

「よし、試してみっか」ポルトーは言うと鍵を一本手にして、ズィーとの間合いを一瞬で詰めた。それはセラにケン・セイの駿馬を思わせるもので、ズィーはまったく反応しきれていない。

 スヴァニを躱す前、両足に鍵を向けてから、彼の脚力は向上したらしい。身体能力を上げることも彼の鍵にはできるようだ。

 そして、その逆も然り。

「施錠!」

「……っ!?」

 持っていた鍵をズィーの腹部に当てて回すポルトー。

 なす術もなく、それを受け入れたズィーは一瞬痙攣を起こし、愛剣を落とす。そしてそれを拾おうともせずに、ナパードでポルトーから離れた。

 彼のいなくなった場所ではポルトーがその蹴撃で紅き花を舞散らかしていた。

「っく!」

 戦士の勘が危機を感じ取ったようで、だらりと腕を垂らした姿勢のズィーはさらにナパードを使った。彼に向かってポルトーが寸刻の間に迫っていたのだ。

 そこからは瞬間移動と高速移動の追いかけっこだ。

 ズィーの行く先にほんの少しだけ、そう、ほんの少しだけ、遅れてポルトーの蹴りが飛ぶ。

 スヴァニを手にしようと近場に跳ぶも、ズィプがそれを手にする暇も与えられない。

 鍵使いが超感覚に類するものを使っているとはどう見ても思えない。目で渡界人を見てから、向かっていっている。しかも、徐々にズィーが姿を現してからポルトーが追い付くまでの間隔が狭まっている。

 その理由をセラははっきりと見抜いた。

「ズィーのナパードが荒くなってる。初心者みたい……」

 ズィプガルの元々静かではないナパードが徐々に荒く、騒がしいものになっていっているのだ。もちろん、それは超感覚をもつ彼女にしか聞き取れない音だが、それ以外にも、素人の観客ですら目に見えてわかる変化がズィーには起きていた。

 一回で跳ぶ距離は短くなり、息を切らし、跳ぶ度に輝く汗を散らしている。

「……っく、そったれ!」

 このままでは高速移動に軍配が上がると会場中の人間が思った時。ズィーは空へと跳んだ。

 それも、一回ではポルトーの脚力で届いてしまう高さにしか上がれないものだから、何度も何度も上に向かって紅い光を放った。

 ポルトーも一回は跳躍してみたもののギリギリで届かず、着地すると空を見上げる。

 観客たちも皆、首を上げ、空に半分以下の大きさになった渡界人を見上げた。

「おいおい! それじゃ、勝負にならないぜぇ?」ポルトーが大声を空に投げかける。

『さあ、空高く舞うズィプガル選手! 一体どうする気だぁ!』

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