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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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90:桁違いの三人

『第三位! ファントム討伐数…………千百九(1109)体!! フェズルシィ・クロガテラー!!!』

 言った通り桁が違った。桁違いの討伐数。

『ドルンシャ帝以来の天才!! ドルンシャ帝以上の天才!! 初出場なのが不思議なくらいの才能が、コロシアムをどう沸かせるのかぁ!!!』

 闘技場中央に現れたフェズルシィへの歓声には女性の黄色いものも混じっている。だが、歓声の的である彼は全く気にも留めずに軽い足取りでズィーの隣に立った。

「うるさいし、囲まれてるし、ここは檻みたいでヤだな。早く外に出たいぞ、俺は」これがフェズの感想だった。そして、フェズを横目で見る。「今度の約束は、守れよな、ズィプ」

 クリアブルーの瞳をルビーが見返す。「もちろん」

『天才フェズルシィ・クロガテラーと戦うのはパレィジ警邏隊副隊長だ!』

 トーナメントの右最下段に二人の名前が映される。


『第二位! ファントム討伐数…………千百十二(1112)体!! マスクマン!!!』

 鉄仮面にフードのローブ男が闘技場に姿を現すと、客席はその何もかもが謎に包まれた男に一瞬戸惑いを見せた。見せたのだが、順位が順位だ、盛り上がらないわけがない。ニオザの紹介口上が始まると誰とも分からぬ彼に向けて歓声が上げられる。

『謎に包まれし戦士! だが、その実力は順位に現れた通りだぁ!! マスクマン! お前はいったい誰なんだぁ!!!』

 客席を軽く眺めながら台に向かうマスクマン。ヤーデンの隣に立つ。

『謎多きマスクマン選手が戦うのはウィーズラルのフォーリス選手!』二人の名前がトーナメント表の右最上部に表れるのを確認するとニオザは続ける。『さあ、残るはあと一人! 皆さんお待ちかねのあの人だ! え? 誰だか分からないって? おいおい、冗談はよしてくれよ!!』


『第一位! ファントム討伐数…………千百十七(1117)体!! ブレグ・マ・ダレ!!!』

 ブレグの名が呼ばれると、まだ本人が登場していないというのに会場が今日一番の盛り上がりを見せた。バリバリと会場が悲鳴に似た音を立てる。そして、ついにブレグがその姿を現すと、地震が起きたのかと思わせる地響きが会場を揺らした。

 ブレグは登場した場所で腰の剣を抜き、剣舞を見せてさらに客たちを沸かせる。

『やはりこの人! ブレグ・マ・ダレだぁ!! その名はホワッグマーラに止まらず、他世界にまで響き渡る! 我らが誇り高きマグリア警邏隊隊長!! 自身最高記録である連続優勝七回の達成なるか! みんなが期待してるぞぉ!!!』

 剣を納め、堂々とした足取りで、フェズとマスクマンの間にその身を置く。

『第一位のブレグ選手が胸を貸すのは最年少のドード選手だ!!』

 トーナメント表の左上部が二人の名前で埋まり、こうして表が完成した。


『観客の皆さん! ここに揃った十六人の強者つわものたちに盛大な拍手をお願いします!!』

 ニオザの言葉で本戦出場者十六人に向けられた祝福と激励の拍手が巻き起こる。それを合図にコロシアム内外に花火が上がる。しかしまだ夕暮れにも早い時間だ。上がるのは色鮮やかなものではない音だけの花火。それなのにとても華やかな雰囲気なのは、その音が音階を持ち、まるでファンファーレのように響いているからだ。花火たちそのものが十六人に対して歓喜の声を上げているかのように。

 数分間続いた華やかな花火が止み、次いで拍手と歓声が止む。

 それを見計らってニオザが司会の仕事を始める。

『皆さん、ありがとうございました。それでは、これより、今後の日程を説明させていただきます。まず、本日はこの開会式でコロシアムでのイベントは終了でございます。お客様は場外市場やコロシアム運営の勝敗予想券売り場、マグリアの街の観光などを楽しんでください。選手の方がたは明日からの戦いに向けて準備、休息等を取ってください。もしよろしければ、コロシアムの方で宿を手配させていただくことも可能でございます』

 ここまでは本日の催しが終わったこと以外のほとんどが宣伝だった。

『そして、いよいよ明日の午前中より本戦第一試合が始まります。第一試合はいきなり一位のブレグ選手! トーナメント表の左上から第一試合として、下に下がって第二、第三、第四と続き、しばしの休憩の後、右側へ移り第五試合から第八試合までを行います。そこで一日目が終わり、二日目は午後から初戦の勝者たちにより二回戦、つまりは準々決勝を執り行います。そしてベストフォーが出揃った三日目の午後、準決勝二戦が行われ、翌日、四日目は決勝……と思いきや、四日目は特別試合です。これは決勝進出者二名に万全の状態で試合に臨んでいただくための休息日を兼ねております。特別試合では参加者を募り、勝ち抜き戦を実施いたします。腕に覚えのある方は挑戦してみてください。もちろん、最後まで闘技場に勝ち残った方にはトーナメント優勝には及びませんが、名誉と賞品、それから副賞として金一封を差し上げます。さらに、こちらの特別試合には本戦、予選を含めた敗退者の方でも参加出来ますので、敗退した憂さ晴らしや発揮できなかった力の見せ場として使っていただいても構いません。さて、いよいよ五日目です。決勝戦……といきたいところですが、まだです、その前に準決勝の敗者二人による三位決定戦が午後より行われます。その後にお待ちかねの決勝戦です! 決勝戦は日が沈むのを合図に開始される予定です。クライマックスを迎え、勝敗が着き次第、表彰式へと移りまして、それを閉会式とさせていただきます。最後に、これは本戦出場者の方のみに関することですが、グランドフィナーレの後、帝居にて、ドルンシャ帝が主催するパーティがございます。お時間の都合がつく方はぜひ、ご参加ください。私が噂に訊いた話ではそれはそれは豪華なものだと聞いておりますから。以上です。本日を含め全六日間の日程の説明でした。くわしくはパンフレットまたはコロシアム係員にお声掛けください』

 ニオザはここでようやく一息を吐いた。

『それでは、これにて第十八回魔導・闘技トーナメント開会式を閉会させていただきます。選手の皆様は係員の案内に従ってください。そして、客席のお客様はお忘れ物、お足下、迷子などなど、お気を付けてゆっくりと、お帰り下さい』

 ニオザはそう言うが、観客たちは一向に動こうとしなかった。どうやら、闘技場にまだ残っている十六人の戦士たちを可能な限りその目に焼き付けておきたいようだ。

「選手の皆さま、こちらへどうぞ」

 セラが客席に目を向けていると、コロシアムの魔闘士が声を上げて十六人の注目を集めた。彼の誘導により、十六人が一つの方向に向かって歩き出す。

 行く先はコロシアムの建物に続くアーチ状の出入口。

 上へと続く階段が覗いている。

「上に皆さまの控え室兼観戦席がございます」

 階段をのぼりながら係りの男が説明を始める。

「コロシアムの外に直接通じておりますので、出入りはその部屋からお願いします。観戦のお客様と同じ出入口では混乱を招いてしまう恐れがありますので、ご了承ください」

 階段は上層の客席の高さで終わった。

 行き止まりの踊り場には両開きの扉が一つだけある。進行方向左にあるその扉の向こう、そこにある部屋の場所にセラは思い当たるものがあった。

 ユフォンが独りいた広い部屋だ。

「どうぞ」

 男が扉を開け、部屋の中を示す。

 案の定、そこにはユフォンがいた。紙を何枚も重ねた束と筆を持っている。

「彼は、筆師のユフォン・ホイコントロという者で、この部屋への入室、滞在、皆さまへの取材や試合の記事などを書くことを許可されています。コロシアムとは関係のない者ですが、何卒、ご協力をお願いいたします」

「よろしくどうぞ」ユフォンが頭を下げる。

「それでは私はここで失礼いたします」参加者が全員部屋に入ったのを見届けると係りの男が入って来た扉の外に出た。「外への扉は一番奥の扉です。その他トイレや簡単な洗面所も男女別にご用意してあります」

 男の言う通り、部屋の奥には入って来た扉と同じ造りの両開きの扉が、別の壁には片開きの扉が二つあった。

「御用入りの際は、こちらとあちらの扉、部屋の外に係りの者が常にいるのでお声掛けください」

「ああ、ちょっといいか?」口を開いたのはヤーデン。ホーンノーレンの一人開拓士団の男だ。

「なんでしょう」

「宿を用意してくれると言っていたが」

「はい。そうですね、では、宿泊先をご希望の方、今、伺います」

 係りの男のもとに数人が寄って行く。

 セラはいつも通りユフォンの部屋でいいだろうと、男の元へは行かず、ユフォンに声を掛けた。

「ニオザさんが感謝しろって言ってたのってこれだったんだね」

「そ、なにか面白い材料が手に入るかもしれないし、何よりセラと一緒にいれるからね」セラと視線を合わせながら言った後、彼はフェズと何やら話しているズィーに目を向けた。「彼だけが一緒にいれるなんてずるいだろ? せめて君がホワッグマーラにいるときくらいは、僕の方が長く君といてもいいはずさ」

 ズィプというライバルの出現からか、少しばかり押しが強くなった気もしなくないが、言われて気分を害することではない。セラも笑みをこぼした。

「ふふ、なにそれ」


 その後、参加者たちは各々の行先へ散り散りとなり、夜明けを待った。

 魔導・闘技トーナメント大会本戦の幕が開く。

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