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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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74:戦いのあと

 戦いの翌朝。ヒィズルの太陽はいつも通りに昇って地上を照らした。

 そんな太陽が見下ろす中、ヒィズルの人々は生存者及び遺体の回収に駆けまわっていた。セラが寝た後、夜が深くなり一時の休息を挟むと捜索は再開されたらしかった。今、前庭に並ぶ遺体の数は昨夜、セラが部屋に上がる前より増えている。

「そういえば、イソラって空で動けるの?」

 セラは出立の準備をしながら縁側で超感覚を巡らせるイソラに訊いた。

 イソラがルルフォーラとの戦いで見せた空中での動きは、ビュソノータスの天原族のように羽があるのなら理解できるものだったが、もちろん、イソラに羽はない。

「ふぅ」イソラは集中を解き放ちセラに振り向いた。「あれはね、天馬てんば。駿馬、水馬のさらに上にある技術。あたしでも苦労したんだよ!? お師匠様は全然コツとか教えてくれないでしょ? 見て学べもそろそろ終わりにしたいなぁ。セラお姉ちゃんとは戦ったわけだし」

「そうだね、イソラならケン・セイだって楽しめるはずなのにね」

「でしょ! でしょ!」イソラが床を手で叩いて興奮する。

 その姿を笑いながらもセラは少し浮かない顔をした。「……イソラでも苦労するって、相当だね。やっぱわたしには無理だよね」

 セラはルルフォーラの動きを思い返す。彼女も空を漂い、イソラに反撃をしようとした。つまりは空中で動けるということ。この先他にも空で戦う敵に出くわすこともあるはずだ。仮に高く跳躍できたとしても空中で動けなければ反撃を受けたら終わり。

「? そんなことないよ」

「いや、でも、わたしは駿馬までだってケン・セイ言ってたし」

「……確かに、言ってたね。でも、あれ、嘘だよ」

「えっ?」

「だって、あたし、お師匠様と違うやり方でやってるんだよ? それでも、違うやり方でも駿馬だし、水馬だし、天馬なんだよ! それってさ、技になってればやり方はどうでもいいってことでしょ。セラお姉ちゃんの駿馬だってさ、あたしがコツ教えたんだよ? お師匠様のを見て、あたしやり方を知った。それがセラお姉ちゃんの駿馬」

「確かに、言われてみれば……」

「例えば」イソラは立ち上がり、セラに歩み寄る。「セラお姉ちゃんのあのズバッて魔法。あれって使えないかな?」

「衝撃波のマカ?」

「あたしあれ使えたら、すぐ天馬習得できたと思うな。最初に思いつくもん、足からズバッて出して動けるかなぁってさ」

 見て学ぶというスタイルのイソラはこうしてケン・セイの技を真似して、習得してきたのだと垣間見えた瞬間だった。

 セラの顔に笑みが浮かぶ。「そっか、今度試してみるよ!」

 立ち上がり、オーウィンを背負うセラ。

「もう、行くの?」

「準備も、できたしね」

「大会、頑張ってね!」

「もちろん! ケン・セイと、それからテムによろしく言っておいて」

「うん……」イソラの瞳に涙が浮かぶ。セラが譲った薬の効果が出始めているのか、少しだけ、傷が薄くなったように見える。

「もう、泣かないでよぉ。わたしをびっくりさせる町、作っておいてよ、イソラ」

「うん……またね、セラお姉ちゃん」

 イソラが拳を突き出し、セラがそこにこつんと拳を当てた。

「またね」

 二人の拳が離れると、碧き花が舞い上がった。

「あ! セラ姉ちゃん、行っちゃうのか!」

 ちょうど外から戻って来たのか、セラの耳にはテムの声が聞こえた。あの時と同じで、その姿は確認できなかった。


 セラがマグリアのユフォンの部屋に跳ぶと、そこにユフォンの姿はなかった。

 イソラと会った刺激からか、彼女は超感覚の限界を試そうとマグリア全体に感覚を向け、ユフォンを探してみることにした。

「わっ!」途端、驚いてよろめくセラ。

 彼女が感じたマグリアの街は人に溢れ、それは近場であっても超感覚で人を探すのは困難だろうと考えさせられる程だった。セラは窓を開け、規則正しい通りを見下ろす。

 まさにお祭り騒ぎ。ユフォンはコロシアム周りで、かつ、大会が始まったらと言っていたがどうやら過少表現だったらしい。大会前日でコロシアムに近いというわけでもなく、学生街の一角の通りでもこれである。セラの予想していた規模を遥かに超えていた。

「どうしよっかな……」

 窓から離れ、誰にでもなく呟いたセラ。その視線を彷徨わせ、部屋に置かれた小さな鏡に落ち着かせた。

 首に巻かれた包帯を取り傷を確認する。

 ルルフォーラの細月刀に付けられた傷は大して深いものではなく、すでに塞がっている。傷薬を塗ることもなく跡は残りそうになかった。包帯はもう必要ない。

 首の傷よりも彼女が心配なのは鋭月刀の柄で打撲した肋骨周りだった。

 服を捲り上げ、患部を確認する。そこには彼女の白い肌には似合わない、暗い赤紫色の痣が痛々しく残っている。ヒィズルの医者の見立てでは骨には何の異常もないとのことだったが、さすがに動いて当たると痛む。

 雲海織りは耐久度が高く、刃を簡単に通さない。伸縮性も優れているから衝撃も吸収される。だから骨に損傷はなく、痣で済んだと言えるが、それでも血を流す前のルルフォーラにこれほどの強打をするまでの腕力はなかった。戦いの最中にはそこに考えが及ぶことはなかったが、今、改めて痣を見つめながらセラは戦いを思い返す。

 しかし少しの間考えを巡らせたが、結局その答えは出なかった。「テムに訊いてみればよかった」

 服を戻しながら彼女が独り言ちていると、ユフォンが部屋に帰って来た。

「ぶ、べっ……!」彼は部屋に入るや否やセラを見つけて、目を見開いたと思ったら部屋を一瞬にして出て行った。「ご、ごめんよ! 戻ってたんだ。どうぞ、着替えて。ははっ」

 どうやらユフォンはセラが服を戻しているのを、脱ごうとしているのだと取ったらしい。

「ユフォン。入ってきていいよ。着替えるわけじゃないから」

 扉が開いて確かめるようにユフォンが入ってくる。「そうだったんだ。ははっ」

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