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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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61:戦術勝ち

 拘束を解いたセラはオーウィンを振り上げる。

 その一太刀はパレィジに当たりこそしなかったが、彼に大きな隙を作った。その間にセラは立ち上がり、追い打ちをかけるように蹴りを繰り出す。

「ぐっ……」

 苦痛の声を小さく上げたパレィジだが、セラはそれが演技であるとはっきりとわかっていた。目の前の警邏隊副隊長はすでに鎧のマカを再び纏い、自身の腹部に入ったセラの脚をしっかりと両腕で掴んでいたのだ。しかも、その両手は先程セラの体に触れようとしたときと同じ光を帯びていた。

「まあ、捕縛が目的じゃないのでね。続けましょう」気の弱そうな顔をして、上から物を言うパレィジ。まるで自分の勝ちを確信しているようだった。「でも、あなたはもう勝てない」

「何をっ!」

 セラは片脚を掴まれたそのままの状態でオーウィンを反対の手に持ち替えて振り抜く。すると、それを見たパレィジは彼女の脚を上に投げるように離し、オーウィンを潜るとそれを持つ彼女の腕を正体不明のマカの輝きを帯びている手で押すようにしながら彼女の懐に入り込んだ。しかし、セラもそれを読んでいた。徐々にだが戦いのカンが戻ってきているのかもしれなかった。考えるより早く膝が上がった。

「!」ここで初めてパレィジの気弱な顔が危険を感じて引き締まった。「っく!」

 セラの膝に手を当て横に転がり出るパレィジ。セラから距離を取った。しかし、強者と戦う感覚を取り戻しつつあるセラの次の行動は早かった。

「はぁ!」

 駿馬でパレィジとの間合いを詰めた彼女はすでにオーウィンを振り下ろしていた。勝てる。彼女は確信した。

 無音の斬撃。

「速いですね」

「受け止めてるじゃないですか」

 オーウィンはロープのマカによってやんわりと受け止められていた。たわんだロープは主の鼻先ギリギリまで迫っている。

「はっ!」

 パレィジはロープのたわみを一気に張った。その弾力でセラのオーウィンが彼女の体ごと後退させられる。

 セラが四歩ほど後退したところで彼女の足首にマカで作られたロープが蛇のように巻き付いた。それがパレィジによって強く引かれ、セラは足をすくわれ、体を浮かす。しかし彼女の顔は悪戯っぽく笑っていた。

「?」その顔を見たパレィジは訝しんだ。だが、それも寸刻のことだった。「!?」

 すぐさま、今度はロープのマカを握っていたパレィジの体大きく前に引かれたのだ。

 それもそのはず、悪戯な笑みを浮かべたセラは床に向かって衝撃波のマカを放ち、体を一瞬支えるとその支えを利用してロープが巻き付いた脚を自分の頭に付くほど大きく振ったのだ。そして、その勢いのまま床にきれいに着地してみせた。横で見ていたユフォンはまるでサーカスを見ている子どものように「おおっ」と声を漏らして小さく拍手をしていた。

 しかし観客の感嘆はこれだけで終わらなかった。次はもちろんパレィジだ。

 セラによって浮かされた彼はロープのマカを消すと、そのまま空中で前方に回転し、床に手をついて跳ね上がった。着地したのはセラの背後だ。

「ふっ!」セラの対応は早かった。すぐさま体を反転させながら剣を振るう。

「っ!」パレィジはやっとの状態で鎧のマカに覆われた腕で体を守る。

 腕と剣が甲高い音を立ててぶつかる。そして、オーウィンがセラの手から離れ、吹き飛んだ。

「なっ!」

 壁に当たったオーウィンを見つめるセラの表情は驚きそのものだった。パレィジはギリギリでも攻撃を防ぐ、一つ目は。そして体勢が戻らぬ間に二の太刀で勝負がつく。彼女はそう読んで、考えていた。それなのに、彼女の手にオーウィンはない。不思議でたまらなかった。

「もう、僕の勝ちですね」驚きで動けないでいるセラにパレィジが告げる。

「いや、オーウィンがなくても戦えますから!」

 セラは一瞬悔しそうな表情を見せた後、パレィジに反論する。そう、遊歩の対応力の応用をもってすれば、オーウィンが手を離れようがそのまま拳で次の手を出して勝つことができた。それが彼女には悔しかった。だが、冷静さを欠いてそのチャンスは逃したが、戦えないわけじゃない。

 しかし、セラの言葉を聞いたパレィジは首を横に振る。「確かにそうなのでしょうが、そういうわけではないんですよ」

「?」

「僕はブレグ隊長のように武闘派ではないのでね。力を見せるような戦いはできません。戦術を持ってして勝つ、それが僕の戦い方です。どうですか? どうして、剣があなたの手から飛ばされたかわかりませんか? 僕の力が強かった? 違います。では――」

「わたしの力が弱かった。ううん」セラは自分の手を見つめ何度か開閉する。「弱められた……」

「そうです。自分より強いと分かっている相手とそのまま戦っても勝てない。ならば相手を弱める。当然の戦術です。そして、僕が弱体化させたのは腕の力だけではないですよ。……そろそろ立っていられなくなって――」

 パレィジの言葉の途中、セラはがガクッと床にへたり込んだ。パレィジが使っていたマカは身体を弱体化させるマカだったのだ。

「セラっ!」すかさずユフォンが駆け付ける。そしてパレィジの気弱そうな顔を睨み付けた。「なんてことをっ!」

「あ、いや、その、大丈夫。時間が経てば元に戻るので……」

「あぁ……あぁ! そうだね。そうだった。僕としたことが気が動転して、ははっ……すいません」

「もぅ、ユフォンったら」ユフォンに笑いかけてから、セラはパレィジ向き直る。「パレィジさん。組手付き合ってくれてありがとうございました」

「いえいえ、隊長命令ですので。お気になさらず」

 体の前で手を振るパレィジ。と、そこへ訓練室の扉がノックされる音が響いた。そして、扉が開く。

「あ、パレィジさん。父さん、いますか?」

 姿を現したのは暗い紫の長髪を一本の三つ編みにして後ろに垂らした、瞳孔が赤く縁取られた瞳を持つ、セラよりも凛とした女性。ブレグ隊長が娘、ジュメニ・マ・ダレその人だった。

「? この時期に新人? 珍しい」

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