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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
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60:警邏隊副隊長

「うっ……いきなりは、ちょっと、きつ、いよ……」

 ランプと槍の紋章がセラとユフォンを見下ろす、警邏隊本部前。

 突然姿を現した二人のことを道行く人々は一瞬だけ驚いた顔になって見たが、トーナメント前で浮かれているうえに異世界人が多く訪れている時期だからか、特に気にすることなく日常に戻っていく。

「本当に付き合ってたの、二人?」

「別れ方がね、ちょっと」

「おお! セラちゃんじゃないか! だいぶ大人びたな。ユフォンくん、修行は休みか?」

 ユフォンが気分を持ち直すと、鍛え抜かれた体躯のブレグ・マ・ダレ警邏隊長がちょうど建物から姿を現した。

「ええ、ヒュエリさん、コロシアムから仕事を頼まれたみたいで」

「おお、そうか」

「ブレグ隊長」セラはしっかりと、瞳孔が赤く縁取られた瞳を見つめる。「わたしと組手をしてもらえませんか?」

「ん? 組手? 大会前に敵情視察とは、セラちゃんもなかなか策士だな」

「いえ、そうじゃなくて……」セラは少し表情を曇らせる。「実は長い間、戦いから離れちゃって。だから、大会前に少しでも感覚を取り戻したくて」

「なにっ? それは大変だな。楽しみが減るのは困る。よし。いいだろう……と言いたいところだが」ブレグは赤黒い頭を前から後ろへ掻き上げる。「俺は仕事でな。大会前は異界人が増えるから大変なんだ。すまんな」

「そう、ですよね……」

「ブレグ隊長、行きましょう」

 セラが諦めたその時、ブレグの後ろから気の弱そうな顔をした黄みを帯びた茶髪の男が建物から出てきた。ブレグは振り返り、彼の姿を認めるとセラのサファイアを見つめる。そして、もう一度後ろの男を見る。

 隊長の行動を不思議に思ったセラやユフォン、それから茶髪の彼ははてなと首を傾げる。

 唐突にブレグ隊長は口を開く。「パレィジ副隊長。セラちゃんと戦ってみるか?」

「はい、隊長!……はい?」

「えっ!?」

 なんとこの気の弱そうな顔の男、パレィジ・エサヤは警邏隊の副隊長だった。

 しかし、セラはそれを聞いても隊長の後ろで驚いている男がそれほどの力を持っているとは思えなかった。ブレグと比べても外見も、内に秘めた力も強そうには見えない。ビュソノータスでのことを鑑みて、彼が力を抑えている可能性もあるが、それでも、どう見たってパレィジは自分よりも弱いと判断して間違いなかった。

「二人とも大会に出るんだ。ちょうどいいだろ。セラちゃん、感覚を取り戻すには俺よりいい相手だぞ。じゃ、仕事は俺に任せておけ、パレィジ」

 驚く二人を余所にブレグは白い歯を見せて笑い、軽く手を振って警邏隊本部を離れて行った。

「……」急転した話についていけずキョトンとするセラ。

「うぇ? は、はい!」驚きながらも隊長の命令に敬礼をして応えるパレィジ副隊長。

「ははっ、よかったね、セラ。組手できるみたいだ」乾いた笑いと共に呆気に捉えれるユフォン。

 警邏隊本部の前に残された三人は三者三様に呆然としていた。

 

「じゃあ、始めます?」

 警邏隊本部二階にある訓練室。体やマカを鍛えるための器具が部屋の隅々に片付けられ、すっきりと広いスペースが確保されたその部屋で異界の少女と警邏隊副隊長は相対していた。ユフォンは黙って器具の一つに腰を掛けている。

「はい。大丈夫です」パレィジに問われたセラは一瞬で取って戻って来たオーウィンを構える。「パレィジさんは武器とか何も?」

「はい……大丈夫です。普通の魔闘士は基本武器は使いませんので」パレィジの体が淡く光る。鎧のマカだ。「ブレグ隊長が特殊なんです」

 気弱な表情のままセラに迫るパレィジ。その動きは超感覚を使い彼に集中していたセラでも一瞬捉えることができなかったほど流れるようなものだった。それはセラの戦いの感覚が鈍った鈍らない以前に捉えどころがないもの。感覚を取り戻すにはブレグよりいいというのはこういうことだったのだ。パレィジと戦うには特に感覚を研ぎ澄まさなければならない。

 迫ってきたパレィジにセラはいつも以上に集中する。どう動くのか。魔素はどこから放たれるのか。とにかく感覚を研ぎ澄ませた。

「ふっ!」

「っ!」

 セラはパレィジの拳をオーウィンで受け止めた。鎧のマカを纏ったパレィジの拳は固く、訓練室に甲高い音を響かせる。セラはその音が鳴り止む前に剣を翻す。真一文字に振るわれた剣。パレィジは少ない予備動作で後転する。オーウィンが空を斬るが、もちろん静かだ。次いで部屋に鳴ったのはパレィジのブーツが床を擦る短い音だった。

 セラに飛び掛かってくるパレィジ。その手はセラに向かって伸ばされ、魔素が平に向かって流れてくるのをセラは感じた。すると案の定パレィジの手が鎧のマカとは別の光に包まれる。彼女にはそれがなんのマカかは分からなかったが、体に触れられるのはまずいと直感して、剣の腹を体の前で構えた。そこにパレィジの手が触れる。そして、オーウィンの刀身を握る。

「!?」セラはその行動に驚いてサファイアを大きく見開いた。手先だけの動きで、彼女の超感覚を持ってしても読むことができなかったのだ。

 強く彼女の体が引かれる。体勢は崩れ、目に映る景色はさっきまでの光を失ったパレィジの手のひらに占められていた。反応できない。

「うっ……!」

 セラは顔を掴まれ、そのまま仰向けに倒された。

「捕縛」パレィジがそういうとセラの手首足首をロープの形のマカがきっちりと縛り上げる。「完了」

「セラ!」ユフォンが器具から立ち上がって声を上げる。

「隊長からは大勢の賊を無傷で退けたと聞いていましたが……大したことないようで」

 立ち上がるパレィジは鎧のマカを解く。

「まだ……終わってない」

 セラは衝撃波のマカを応用して手足を縛るロープ状のマカを弾き解いた。

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