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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
57/535

55:開拓士団が戻る日

 セラがホワッグマーラに戻るまでの話を軽く済ませたところで、カフェのマスターが恭しく朝食を運んできた。卵料理をメインとした、少し、少し豪華な料理。だからといって、朝から重たくない感じに仕上げられている。

「おいしそう」

 セラは「いただきます」と言ってから料理を食べ始める。その姿はやはり姫。とても丁寧で品のある所作だった。

「そういえば、今日は開拓士団がマグリアに戻ってくる日だった。コロシアムに行く前に見に行くかい?」

「どうして?」

 セラはどうして開拓士団の帰還を出迎えなければならないのか腑に落ちない表情で訊き返す。

「どうしてって、今年の目玉の一人が護衛にいるからだよ。フェズルシィ・クロガテラー。学院では僕やテイヤス・ローズンと同期だった男で、筆記試験では僕に劣ったけど、総合的には主席、それもドルンシャ帝の成績を上回って卒業した。今年も優勝を勝ち取ろうとするブレグ隊長を倒すんじゃないかって噂されてるよ。それに開拓士団の護衛にはブレグ隊長の娘さんもいるし、あと、最近聞くようになった『紅蓮騎士』って奴もいるんだけど、恐らくトーナメントに出るだろうね。だから、視察だよ。どんな相手がいるかを見ておくのも悪くないだろ?」

「ユフォンがそこまで言う人かぁ……じゃあ、見てみようかな。それににブレグ隊長の娘さんも気になるかも」

 セラは朝食に添えられたブラックティーを一口含んで言った。

「じゃ、決まりだね」ユフォンはその間に食べた卵料理を飲み込むとまた口を開く。「このトーナメントはホワッグマーラだけに止まらない大会だから、異世界人がいっぱい来るはずだよ。出場する強者つわものから、観戦を楽しむ観光の人とかね。だから、もしかしたら知り合いとかいるかもよ?」

 もちろん、大会を目的にホワッグマーラに来る異世界人は異世界の存在を知っている人たちに限る。だから、セラが旅した数少ない世界から彼女の知り合いが来る可能性は低かった。それでも、彼女は今まで旅してきた世界の人々の顔を思い浮かべて懐かしむような顔を見せるのだった。


 二人が朝食を食べ終えお腹を満たし、ユフォンの財布が腹を空かす。

 カフェを出た二人はそのまま噴水広場から西に伸びる大通りを真っ直ぐと歩いた。長い大通りの遠く向かう先には魔導都市の正門がどっしりと構えているのが見て取れる。その正門の反対側一直線、噴水広場を挟んでマグリアを北へと向かう大通りの先には白と黒のレンガで造られた帝居。帝居が正門から真っ直ぐの場所に位置しているのはマグリアが攻め込まれたとしても、そこまで辿り着かせないという意思の現れだ。現に帝居が落ちたことはマグリア史上一度もない。

 そんな帝居だが、格式高い三つのモノクロの中で一番小さく、狭く、低い建物だ。一番権威のある人物の家がどうして一番大きくないかと言えば、その必要がないからだ。そこが帝が暮らすためだけの建物で、巨大では生活しにくいことこの上ないし、帝居の周辺を守る警邏隊員が大変だからね。かと言って、小さいのはモノクロの建築物の中でだ、ということをしっかり書いておこう。僕ら一般市民から言わせてもらえば、大きいに決まっている。

 ちなみに、マグリアの東側には大時計をつけたマグリア一高い尖塔を持つ魔導書館。西側には建物だけでも一番の広さを誇るというのに、建物以外の敷地と学者・学生街を合わせるとマグリアの西側ほぼ全てを占めるという広大な広さを誇る魔導学院がある。

「うわっ、もうこんなに……随分早いと思ったんだけどな……」

 正門の前に辿り着く前にユフォンは苦々しい声を上げた。セラも小さく驚きの声を上げる。

 ロープで仕切られた大通りの両脇は、それぞれ門から距離があるところまでびっしりと人で埋め尽くされていた。人々は混じり合う太陽と満月の中心に置かれた方位磁石、その指針が剣となっている紋章が刺繍された小旗を持っている。紋章は開拓士団を表すものだ。つまり朝からこれほど大勢の人間が開拓士団の帰還を待ちわびていたのだ。

「まあ、これも毎年恒例か」ユフォンは楽しそうでいて諦めたような口調で言った。「そのうち噴水広場から団が報告に行く帝居までの道が埋め尽くされるよ。ここで人に揉まれながら見る?」

 開拓士団の出迎えはサーカスのパレードのように盛り上がる。別段、開拓士たちや護衛の魔闘士たちが盛り上げているわけではなく、ただ街の人々が盛況するのだ。その盛況ぶりときたら道中を歩く主役たちのことなど見れたものじゃないと彼がセラに説明している最中にも、どんどんと道端に人が溢れ出てくる。

 その様子を見てゆっくり見れないのではあまり意味がないかもしれないと考えたセ彼女は苦笑する。「コロシアムいこ?」

「そうだね。そっちの方が空いてるかも」

こうして、二人は来た道を人の流れに逆らいながら進んで行き、トーナメント会場であり、参加受付をしているコロシアムに向かうのであった。

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