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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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527:フォルセス

「まずは……」

 セラは抱きしめていたオーウィンに視線を落とす。

「オーウィン……治るかな」

「『鋼鉄の森』だね」

 ユフォンがセラの肩に手を置いた。

「待ちくたびれてるはずだよ」

「?」


 鋼の大樹が乱立し、鈍く光を返している。

 それらの大樹の枝の上が鳥人たちの生活の場となっていた。

 木々の鋼を用いた鋼鉄工芸を得意とする『鋼鉄の森』の鳥人たち。その中でも刀鍛冶の技術力は異空で一、二を争うほどのものだ。剣を得物とする者であれば、『鋼鉄の森』か『氷結と炎上』の剣を握りたいと思うものだった。

 評議会は『鋼鉄の森』から武器の提供を受けているが、それらはこの限りではない。なぜなら提供されるすべては見習いたちの習作だからだ。

 名を馳せる刀鍛冶たちは曲者であり、気高き者たちだ。並大抵の剣士には剣を鍛えないことで有名だった。

 クラフォフもその一人だ。とはいえセラにはもう関係のないことだが。

「……無残な姿になったものだな。我が子よ。主の元へ逝ったか」

 気難しい顔でセラから受け取ったオーウィンを見やる彼。視線をセラに上げる。

「オーウィンはお前の手には戻らん、セラフィ」

「……」

「だが」

「?」

「次代に繋ごう」

「次代……」

「ついて来い」

 セラはユフォンと共に、工房の奥へと向かうクラフォフに続くのだった。


「オーウィン。俺がはじめてナパスの者に鍛えた剣。ビズラスのための剣は風切り音をなくした剣だった」

 クラフォフはセラとユフォンに背を向け、机でなにやら作業をしながら語る。

「タェシェ。あの子は特殊だった。剣術に留まらず変幻自在なエァンダには、影鋼(かげはがね)を使った剣が必要だった。そのうえ最初から意思を持たせることも必須だった。苦労した。優劣はつけたくないが、最高傑作だった」

 その背にある翼によって机の様子は二人には見えない。

「スヴァニ。ビズラスの依頼でなければ断っていた。見ず知らずの者への剣など。だが今は知ってる。ズィプガルという男に見事に合った剣だった。軽くあり、重くある剣」

 クラフォフの作業はまだ終わらない。

「ヴェファー。小さき大剣はナパスをまとめし者が持つに相応しい。オーウィンとスヴァニの特性を併せ持ち、さらにはナパードをする剣だ」

 ここでクラフォフの手が止まった。そしてオーウィンの柄をセラに向けて差し出した。

 セラは目を瞠る。

 その柄の先には、オーウィンとは違う刃がついていた。長さと柄との接合部分の太さこそ同じが、刀身はわずかに細い。そして七色にも見える反射を見せ、セラの見たことのない鳥の意匠が施されていた。

「タェシェをも超えた俺の最高傑作にして、『碧き舞い花』の真の剣だ」

 セラは握り慣れたオーウィンの柄を受け取る。重さも慣れ親しんだオーウィンと変わらなかった。

「わたしの真の剣。でもなんで?」

 オーウィンが治るか否かを確かめに来たセラには、なぜ新たな剣が形を持って目の前にあるのかが疑問でならなかった。

「なんで?」

 クラフォフがユフォンに片眉を上げて見せる。

「セラ。君は三ヶ月ちょっと、ずっと失意の中にいたんだよ? その間みんなが君のために動かないわけないだろう?」

「三ヶ月……クィフォ(うそ)っ?」

「気づいてなかったのかい?」

「わたし……そんなに…………!? ずっとユフォンのベッドに?」

「うん。毎日、ずっと声をかけてたんだけど。ゼィグラーシスって。君を励ます言葉はこれかしかないと思ってね」

 セラは信じられないとばかりに目を瞬かせた。

「だから、待ちくたびれてる?」

「うん。新しい剣も、クラフォフさんも。まあ、みんなもだと思うけどね、ははっ」

「……そっか」

「俺はゼィロスから依頼を受けた。オーウィンが折れたから、セラフィにセラフィの剣を鍛えてくれと。オーウィンが折れるなど今しがた見るまで信じていなかったが、それでもユフォンから折れた時の状況も聞いた。お前の特異な力についてもだ」

「ガフドロがあの力にオーウィンはついて来れなかった、みたいなこと言ってたから」

「その剣はお前の力に耐えうる。なによりお前の力を引き出すぞ、セラフィ」

「わたしの力を?」

「そうだ。貴重な鋼を使っている。この世界の神が落としたといわれる『神鳥の羽根』と呼ばれるものだ。触れただけで活力が漲る鋼だ。俺も鍛えるのに苦労した。いつも以上の力を加減するのにな」

「……実感は、ないかな」

「実際に使えばわかるはずだ。鞘はオーウィンのをそのまま使ってくれ。嫌ならちゃんと神の鳥の意匠を施した鞘も作るが?」

「ううん、このままでいい」

 鞘もまた兄の形見なのだ。

 セラはフクロウの鞘に神の鳥を納めた。背中にしっくりとくる重さを感じながらふと思い至る。

「そういえばこの剣の名前はなんていうの?」

「神の鳥、なんだが、ナパスの手に収まる俺の子らにはナパスの言葉をつけることに決めている。なんていう? 伝説上の鳥や幻の鳥なんて言葉でもいいんだが」

「神の鳥……ではないけど」セラは懐かしみながら言う。「フォルセスっていうナパードを使う鳥のお伽噺がある」

「フォルセスか……申し分ないな。決まりだ」

「フォルセス」

 セラはもう一度柄を優しく握った。

「よろしく、フォルセス」

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