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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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528/535

524:碧花乱れ咲く

 崩れる塔を成すすべなく眺め、ナパスの民の多くが悲鳴とどよめきを上げた。すでに向こうへ行ってしまった同胞たちの命が奪われたと、もう生きては帰れないのだと。

「残念だったな。目の力は神特有だから失念していたか?」

 ガフドロはセラに身動きを抑えられながらも、口角を上げセラに視線を向けた。しかしその表情はすぐに訝しみに歪む。

 セラは凛とした顔のまま少しばかり顎をしゃくった。その先に目を向けたガフドロは驚愕に言葉を失うこととなった。

 そこには世界の唯一の出口である光の球と、すでにルピの扉をくぐっていたナパスの民の姿があった。碧き花びらを辺りに散らして。

「神の力にはこれはできないのね。だから考えてなかった?」

 セラが、それらを塔の上から跳ばしたのだ。

 悲観の声が歓喜のそれとなる。そして戦士たちが民の誘導をはじめた。

「……っく、マスターの力で、図に乗るなよ」

 ガフドロがセラを見た。近距離で対処できない。ただのヴェールを纏ったセラだったらそうだっただろう。だが今の彼女は違う。

 花が散り、地面が穿たれた。

 移動したのはセラだけではない。球体のすぐわきで、セラがガフドロの大剣を受け止めた。それだけですぐそばを歩いていたのナパスの民をよろけさせ、尻もちをつかせるほどの風を生んだ。

 鍔迫り合いの最中、セラはガフドロを睨む。

「これは、わたしの力だ!」

 弾くようにガフドロを吹き飛ばし、セラはその場でガフドロへ向けて手の平を突き出した。

「っが……!」

 ガフドロが碧き花散るステンドグラスに背中を打った。そこにセラの駿馬とトラセードを合わせた超加速の突きが向かう。

「っくぅ!」

 籠手を体の前に持ってきたガフドロ。だが、オーウィンは鋭く、籠手を、大男の身体を貫通し、ステンドグラスをきれいに割った。

「おのれっ!」

 ガフドロが刺されていない方の手でセラを掴みにかかるが、セラはその場からオーウィンを残して花を散らした。抜くという手間は彼女にいらないのだ。

 ――オーウィン。

 ガフドロの背後に現れたセラの手には、刹那の間にオーウィンが握られ、彼女は兄をなぞった。

 碧に交じり黄色の花も合わせ、真っ赤な血が飛沫を上げた。

「ぐぁあっ……っつぁ……」

 ガフドロが数歩、前進しながら血で大地を汚す。

「セラ! もっとだ!」ズィーが叫んだ。「回復される前に、決めちまえ!」

 碧が煌めくサファイアで冷たくガフドロの背を見つめ、セラは小さくうなずいた。光の球の方を一瞥すると、すでにナパスの民の姿はない。

 評議会の戦士たちも世界から出はじめ、イソラやルピ、キノセの姿はもうない。ナパスの民には勝手に飛ばされた先の世界からホワッグマーラに行くようにと伝えてある。それでもナパードができるほど体力のないものがほとんどだ。そんな彼らはイソラとルピが早急に迎えに行くことになっていた。

 現在残っているセラの知り合いはヅォイァ、ユフォン、ズィーの三人だった。

 視線を身体の回復をはじめているガフドロに戻すセラ。すると彼女の体が二重三重にぶれ、三人になった。

 分化だ。

 そして、三人のセラは仇敵を碧花で覆う。

 碧花乱舞の三重奏。

 血と花が散り、終わりが訪れる。

 と、セラを含めた評議会の四人が思う中。

 フクロウが悲鳴を上げていたことを、その翼に斬られるガフドロだけが黒を宿す褐色の瞳で捉えていた。

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