522:相変わらずの再会
セラとズィーは地面を砕き、抉った。
土煙を舞い上げて辿り着いたのはナパスの民たちの家がある場所だった。
二人が立ち上がった背後には、暗い紫色の半透明な半球があった。その中には仲間たちとナパスの民。
「セラ! ズィー!」
ユフォンが障壁の際まで駆け寄ってきて叫んだ。
「セラだって!?」
ナパスの一人が訝しんだ叫びを上げた。
「セラって、セラフィ様?」
「いやいや、ちょっと待て、それよりあれ……あれは! 俺の子だ! なぁ! ズィプガルだろ! なぁ!」
赤い髪の男がユフォンを押し退け壁に張り付いた。
ズィーが一瞬難しい顔をしたかと思うとはっと驚いた。「親父っ!?」
「おお! やっぱズィプか! 生きてたのか、よかったよかった! 母さんがあの世から守ってくれたんだな」
ズィーの父は苦悩など感じさせない笑顔で一人頷いて、壁際から去っていった。
「おう、みんな! 俺の息子が来たから大丈夫だぞ! これで安心だな、あははは! なんてったってビズラス様の一番弟子だかえらな! あはははは!」
「……」
障壁の中のみならず、外のセラとズィーも呆気にとられて言葉を失っていた。
少しの間を置いてセラが口を開く。「ズィーのお父さん、相変わらずだね」
「わりぃ」
「ん、そういや隣にいるのは……」ズィーの父は振り返り、セラに目を向けた。そしてまたユフォンを押し退け壁に張り付いた。「セラちゃんじゃねーか!? なぁ! なぁ! そうだろ。おーい、おじさんのこと覚えてっかぁ~」
にこにこと手を振る幼馴染の父親に、セラは苦笑し小さく手を振り返した。
「おおっ! きれいになったなぁ~セラちゃん。ん? ん? ズィプガル、どうなんだよ。二人で来たってことはお前、そういうことか? 王族の仲間入りか!」
「……」
「ちょっとおじさんっ」
そう言ってズィーの親を壁から剥がすのはユフォンだ。
「二人はそういうんじゃっ、ないですよ」
「……お、おお、なんだよ」
「大人しくしていてください。二人がどうにかしてくれるのは本当ですから」
ユフォンが言い終わったところで、セラとズィーに続いてガフドロが突然に現れた。
セラは今のがロープスではなかったことに気付く。
「全兵の帰還が完了した。残る問題はお前ら二人だ。囚人並びに評議会の戦士を葬るために、その前に、お前らを始末する」
「っは」ズィーはなにかに気づいて笑った。「それってつまりは、この壁壊せるってことだろ」
「そっか」セラが頷く。「壁を消せないなら、自分も帰ればいいんだもんね」
「勘の鋭い奴だ。が、気づいてどうとなることはない。俺が敗れることはない」
ガフドロがセラとズィーの前から消えた。現れたのは、ズィーの後ろだ。
「ズィー!」
ユフォンとズィーの父が同時に叫んだ。
「騒ぐなよっと」
ズィーは目を向けることも、動くともせず大剣を背後で受け止めた。空気だ。
「つくづく、勘が鋭い。獣並みか」
「竜だからな!」
今度こそズィーは振り返り、スヴァニを振るう。それに合わせるようにセラは反対側からオーウィンを振った。
ガフドロは大剣を指輪の能力で消し、両手の籠手で二つの剣を止めた。
そこで世界が揺れた。その揺れの中、ガフドロはまたも姿を消した。
「さっきから」ズィーは辺りを見回す。「ナパードかよ……ってセラっ?」
セラはズィーの言葉の最中にナパードで跳んだ。そして姿を現した先でガフドロと刃を交える。視線も交わり、ガフドロが目を見開いところで顔を逸らす。彼女の後方が吹き飛んだ。
「神の力まで読めるのは、やはりマスターの血か」
「移動も、目と同じ神の力か」
ズィーは勘で背中を守ったが、ガフドロの瞬間移動はナパードよりも静かだった。といよりも音も振動もなく、感じる気配も姿を消した瞬間に途切れ、完全に消えてから別の場所へ現れるのだ。まさに神がかった移動だった。
「さっきも言ったが、わかったからと言ってどうなる?」
ガフドロは余裕に笑んだ。世界も揺れる。




