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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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525/535

521:揺れる世界

 ガクンッ――。

 塔が縦方向に大きく揺れた。

 ズィーの手元は揺れに従って狂い、ガフドロの足のすぐ横の床を砕いた。

「なんだっ!?」

「ズィー避けて!」

「っは……っく」

 空気の拘束が解かれ、自由となったガフドロが振り下ろした大剣。ズィーはすんでのところで、その場から転がって避けた。それと同じくして揺れは収まった。

「あっぶねぇ……」

「はぁ……はぁ……やってくれたな」ガフドロが鎧ごと裂けた腹を押さえる。「背に続き、腹を裂かれるとは……だが、浅いな」

 ガフドロは今までに増して黒い縁を厚く、濃くした。そして彼の顔から苦痛の色は消える。

「俺の力でも治せる」

「んな、ずりっ!」

「遊びの時間は終わりだ、ナパスの復讐者たち。今の揺れは世界崩壊がはじまった合図だ。これから第二第三と続き、この世界は壊れる」

 再び塔が、世界が揺れた。

 収まると『夜霧』の兵士が一人、塔の上にロープスで現れた。「隊長、任務完了です」

 ガフドロが光の球体に顎をしゃくった。「戻れ」

「はっ!」

 兵士はセラとズィーには目もくれず、光の中へと消えていった。

「一緒に戦わなくても余裕だってかよ」ズィーが立ち上がる。「回復がなんだ。それより速く斬ればいいだけだ! お前の最期の言葉、『仲間を残しておくべきだった』に決定だなっ! 行くぞセラ!」

 セラは頷き、ズィーと共にガフドロへ斬りかかった。二つの刃は大剣と籠手にそれぞれ受け止められた。二人はガフドロを押し続ける。ズィーに限っては空気も伴って。

 それでもガフドロは表情一つ変えずに耐え、口を開く余裕すら見せた。

「仲間か。お前らの仲間は誰一人この場には来ないな? ナパスの民もだ。一体いつになったら来るんだ? それとも、世界崩壊と運命を共にする前にもう、死んだか?」

「適当なこと言うなっ!」

 セラは一度オーウィン引き、新たに振るう。

「みんなの気配はちゃんとある。それより、お前が命令したゴーズって人の気配はなくなったぞ」

「俺がどうかしたか、『碧き舞い花』」

 塔の上に暗い紫色の髪の兵士が戻って来た。

「そんなっ!?……ぐっ!」

「セラ!」

 セラはガフドロに蹴られ仰け反った。ズィーがそんな彼女に触れて、敵から離れた場所へ跳んだ。

「どういうことだ。なにを驚いた? みんなは生きてんだよな?」

「うん……ちゃんと」

 セラはゴーズに疑念の目を向けた。この男の気配がルピたちのところになかったのはこの場に移動したからだろう。だがなぜこの男はここに戻って来た。ガフドロの命令は始末のはずだ。ルピもナパスの民も、それから駆けつけたユフォンやイソラたちもしっかりと生きている。

「報告します、隊長。世界崩壊がはじまったようなので、ナパスと評議会の連中は我が障壁に閉じ込め、この世界に縛ってきました。援軍として来た者たちをまで相手にするのは、私では不可能と判断しての変更です」

「わかった。戻っていいぞ」

「っは」

 ゴーズは最後にちらりとセラとズィーに目を向けて光に入っていった。

「そういうことだそうだ、『碧き舞い花』。仲間たちはもう来ない」

 セラとズィーは揃ってガフドロを睨んだ。

「ズ――」

 セラが口を開いたところで、それよりも早く大きくズィーが声を発した。

「セラ! 俺が一人で戦う。お前はみんなのところへ!」

 それは彼に対して彼女が言おうとしたことと同じことだった。だからセラは一瞬逡巡したが、すぐに答えを出した。先に伝えた者勝ちだと。

「わかった」

 頷き、セラが跳ぼうとしたところにガフドロが二人に迫った。

「安心しろ、二人まとめて送ってやる!」

 ズィーを蹴り飛ばすガフドロ。

「っが――」

 その体勢から敵がくるりと身体を回したかと思うと、セラの腹に大剣の平が入った。

「ぶぅっ……っは」

 世界崩壊を控え、ガフドロは短期決戦に向けて力を増したようだった。抗えない力に流されて、セラは塔から吹き飛ばされた。

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