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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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519:並び立つ

「そのヴェール……マスターを感じるぞ」

「一緒にしないで」

 二人は塔の上を円を描きながら、互いに攻め時を見計らう。

「誰が一緒にするものか。あの方とは比べるに値しない、脆弱な力だ」

「っ!」

 セラが詰める。数度、剣と大剣をぶつけあうと再び間合いを空け、円を描きはじめる。

「俺が欲しいものだな、その力。あの方に仇なしたこの神の力ではなく」

 神の力。

 その言葉にセラは足を止めた。そこへガフドロが踏み込んだ。剣を打ち合う。最後の一撃をセラが身を離しながら躱す。また円を描く。

「俺は神と人間との間に産まれ、マスターにこの力の教えを受けた」

 ガフドロがオーウィンに目を向けた。

「その剣。背中が疼く。あの時にこの力が使えていれば結果は全然違っていただろうな」

 瞳に黒を宿し、身体を黒で縁取ったガフドロ。あれは神の力の現れ。そしてそれはセラが宿す力とは似て非なるもの。

 その本性が顔を出しはじめる。

「……仲間を呼んだのか」

 評議会の仲間たちがグゥエンダヴィードに気配を現しはじめた。その気配を感じ取りそう口にすると、ガフドロはセラに向けてカッと目を見開いた。

 そして、来た。

 セラは横っ飛びして、それを躱す。

 躱した先にガフドロの脚が迫っていた。セラはそれをサファイアで捉え、両手でいなし、お返しにガフドロの頭へ向けて足を振り上げた。

 セラの蹴りは、現在の『夜霧』では珍しく鎧をまとったガフドロの籠手に受け止められる。

 止まったセラへ振り下ろされる大剣。

 セラはトラセードを使う。

「……その技も使うのか。生き写しか? ナパスの英雄の」

 床に頭を半分ほど埋めた大剣を引き上げながらガフドロは余裕の表情で肩を竦めた。

「どうだ? 背中でも狙ってみるか?」

「っふん!」

 セラは駿馬で駆け、ガフドロに蹴り繰り出した。

 大剣の峰で止まる。

 そこからセラは上へ跳ね上がろうとしたが、その時、今朝方の悪夢が頭を過った。

 挑発を受け上へ跳び、背中を狙い、鎧ごと斬り裂いたとしてそのあとは……。

「どうしたよっ!」

 逡巡が隙を与え、ガフドロが薙いだ大剣に乗せられ、セラは大きく吹き飛んだ。

「っくぁ……」

 宙で体勢を立て直したその身体は塔の床から大きく離れ、あとは地上への落下を待つだけとなる。だが、そんなことをセラが許すはずがない。

 術式で床を出現させ、そこから塔へ向けて飛ぶ。飛距離は足りないが、空間の圧縮で問題なく補えた。床に転がり入る。

 すかさず花を散らす。

 セラがいた場所に大剣が突き刺さるのと同時に、彼女は転がった勢いを殺さずに立ち上がりながらガフドロの背に向けてオーウィンを斬り上げた。

 金属が擦れる音が響いた。

 ガフドロの背は斬れなかった。

 闘気だ。

 リーラ神がそうだったように、常人を超えた闘気の静止。ガフドロは薄くも強い気膜によって守られていた。

 それはヌロゥ・ォキャの外在力による空気の膜を凌ぐ硬さを誇っていた。

「神の力は闘気の技術と相性がいいんだ」

 悠々と振り返るガフドロに、セラは後退る。

「どうした。俺を殺したいんじゃないのか? 一族ため、故郷のため。そうやってここまで来たんだろ?」

 セラは足を止め、ぐっとガフドロを睨み上げる。

「そうだっ!」

 力強く踏み込み、セラはガフドロの周りに碧き花を散らし、オーウィンを振るう。

「お前がっ!」

 散らす。

「みんなをっ!」

 振るう。

「お父様をっ!」

 散らす。

「お母様をっ!」

 昂る。

「お姉様をっ!」

 散らす。

「お兄っ様をっ……!!」

 止まる。

「エレ……ナパスをっ!」

 虚しく花の残滓が舞い落ちる。

 セラの碧花乱舞をガフドロは無表情のまま、ものともせずに受け終えた。そして忙しく呼吸をするセラに冷めた目を向ける。

「気が済んだか? お前の復讐心はその程度か? 一時の怒りで力が増してその程度なら、お前は復讐を果たせはしないな」

「黙れっ!」

 煽られ、さらに煮え滾る感情のまま、セラは再び碧花乱舞を見舞う。

 だがそれは、ガフドロの手によって途中で終わりを迎える。

 ガフドロが横に伸ばした手が、セラの首をがっしりと掴んだのだ。

 そのままセラを自身の正面にすると、ガフドロは顔を近づける。

「滑稽だな。無為な復讐に囚われ、挙句、果たせない」

「……っぐ……ぅぅ…………」

「無駄な人生を歩んだな。この世界と共に消えろ、『碧き舞い花』」

 その言葉を最後に、セラはガフドロの前から消えた。

「小癪なっ!」

 振り返りざまのガフドロの裏拳に頬を強かに打つセラ。そのまま床に倒れる。そのまま敵を見上げる視界が涙で歪んだ。

 どうしてここで、自分はあの時の力が出せないのかと。

 できると思ったことすべてを意のままにしたあの力。

 没頭の護り石など関係なく、今、ヴェールのその先に手が届かない自分がもどかしく、情けなかった。それほどにセラのすべてが仇敵に向いているはずなのだ。

 自分の想いはその程度だったのか。

 セラが感情の波に飲まれそうになったその時だった。

「おいおい、抜け駆けすんなよな、セラ」

 騒がしいはずの彼のナパードが優しく感じられた。そっとセラの脇にズィーが現れた。

「隣に立たせてくれよ。ナパスのために」

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