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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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522/535

518:対峙

 昼になるとナパスの民が労働を強いられる作業場から監視の兵士たちが引き上げていった。

 セラに関しては三日しかグゥエンダヴィードにしかいないが、それはいつも通りのことだった。それからナパスの民たちは最低限の食糧を用いて昼食をとる。

 だが今日はナパスたちの動きはいつも通りではなかった。家に戻りはすれど昼食は取らず、固唾を呑んで待っていた。助けが来るのを。

 兵士たちが去ったのを見計らって、セラとルピで今日がその日だと報せた。

 ノォソスとウェイダも周りに合わせてそうしていた。セラがセラだということは、他の人たちに言いふらしていないようだった。誰も騒がないのはありがたかった。

 セラのことはすべてが終わった後に、助かった喜びと共に味わってもらえばいい。

 セラは建物の中で、記憶の羅針盤を服の中から取り出して握る。

 ルピが静かに言う。「いよいよだな」

「うん」


 その時は訪れる。

 監視にあたっていた兵士の小さな気配がなくなると、これ見よがしに圧倒的な気配が塔の頂上に現れた。取り巻いている他の気配も大きいが、抜きん出て一つだけ桁が違う大きさの気配。

 ガフドロ・バギィズド。

 セラはルピと共に気配を極力抑え、互いの健闘を祈りつつ別行動に移る。

 ルピが家を出てナパスの民たちに呼びかけをはじめるのを見届け、セラは花を散らした。

 第一部隊がどれほどの人数で来るかはわからない。次第に増えるかのか、作業に最低限必要な人員だけしか来ないのか。

 しかし今のところ塔の頂上にしか気配は現れていないのは、好都合だとセラは思った。

 そこで彼女が注意を引けばルピたちが動きやすくなる。

 決して雑兵ではない第一部隊の兵士とガフドロを一手に引き受けるのは、セラでも厳しい状況になる。だが少し耐えれば、オーウィンに導かれて仲間が駆けつけてくれる。それまでならどうにかなる。

 セラは兵を取り巻く隊長の背後に姿を現した。

 ――オーウィン!

 ヴェールを間髪入れずに纏うと同時にその手に愛剣を呼び出し、斬りかかる。

 オーウィンは大剣に阻まれた。

 やはり暗殺はできない。そうなればなにもかもが一瞬で終わるとは考えたが、それはあまりにも楽観的過ぎる願望だということはセラもはっきり自覚していた。だからセラは動じることなくオーウィンにより一層の力を込める。

 兵士たちが一斉にセラと自らの隊長から間合いを取り、それぞれに武器を構える。

「構うな」

 だがそんな兵士たちにガフドロは空いている手を上げて制した。背後の刃を受け止めているにしてはやけに余裕な動きだった。

「ゴーズ」

 暗い紫色の髪の男が返事をした。「はっ」

「お前は妙な動きをするネズミを始末しろ。他は作業にかかれ」

 兵士は武器を下げ、「はっ」と短く返事をすると塔の上から四方八方へ散開していった。

 異空への出口である光の球体。

 その前でセラとガフドロは二人きり。

 大男が微動だにせず、口だけ動かす。

「『碧き舞い花』だな。よくも俺の前……後ろか、それはどちらでもいいが、よく姿を出せたものだ」

「なにっ?」

「フェースを退けたのだから、その身を隠していればよかったのだ。どれほど重要かわかっていないようだな、その水晶が」

 セラの右耳で水晶が光を反射してきらめく。

「まさかあの時あの場に、それも目の前にあったとは驚きだ。今度こそ頂くぞ!」

 ガフドロが動く。

 軽々と、セラを薙ぎ払った。

「……っ」

 宙で身を翻し着地するセラ。

 振り返るガフドロ。

 塔の上を風が走り、白金(プラチナ)赤褐色(オーバーン)が踊る。

 碧が揺蕩う青玉(サファイア)と……。

 黒を宿らせる柘榴石(ガーネット)がその輝きを交わし合う。

 碧を纏う者。そして、黒に縁取られる者。

 二人が対峙した。

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