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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第一章 碧き舞い花
52/535

50:復帰戦

 ついに? やっと? とにかく五十話です!


 久しぶりの前書き。

 よくよく考えれば作品の前書きや後書きではツイッターについて書いてませんでしたので、ここで書かせていただきます。

 ツイッターはじめました? やってます? まあ、とにかくツイッターです。

 https://twitter.com/Iru_Misima00

 質問、感想、指摘などなど気軽にどうぞ。


 あまり長く描いてる場合じゃないですね。

 では、『碧き舞い花』をこれからもお楽しみください!!

「はな、せっ!」

「ギュリ様! 息子だけは……どうか、お救いくださいっ!! 私の命はどうなってもいいっ! 息子だけはっ……!!」

 セラがクァスティアからギュリたちの方へ目を向けると、ズィードの手からは肉切り包丁が滑り落ち、父親の声は無情なる暴君の耳には全く届いていなかった。

「やめろっ! お父さんっ……! お父さんっ!!」

 ズィードは抵抗も虚しく、ギュリの肩に抱えられ灯台の方へと連れて行かれ始めた。その顔は涙と鼻水で濡れ、その腕は、こちらも血だらけで泣く父親に向けて伸ばされる。

 その光景は、セラにエレ・ナパス侵攻で『夜霧』に連れて行かれるナパス民を、幼き頃ズィプガルと共に遊んだ三人の少年を思い出させた。少年のひとりは戦士として子どもを庇って死んでいった。残りの二人はズィードのように無理やり連れて行かれた。

「そうだ、復讐だけじゃないんだ……」呟くセラ。

 彼女は今まで焼かれた故郷と殺されたナパスの民の復讐が果たすべき目的だと思っていた。だが、ここで気付いたのだ。連れ去られた同胞の救出もまた、一つの目的なのだと。今も様々な世界に跳ばされている同胞がいるのだ。そして、クァイ・バルで見つけた青年のように跳んだ先で未来を失う者もいる。

 それに気付いた彼女はいてもたってもいられなかった。それは伯父のゼィロスのもとを離れるとき、アズの地を離れるときと同じ感情。「止まってなんていられない」

 セラは力強い足取りでギュリの背後に歩み寄った。

 そんな彼女の姿を見てナトラード・リューラ・レトプンクァスの人々がどよめきだす。そのどよめきに気付いたギュリが辺りを見回し、人々の視線が自分の後ろに向いていることに気付くと、振り向いた。

 そこには凜として立つセラの姿。

「ああぁん? お前、この前の医者の助手か? 俺様に歯向かうのか? この前ここのルールは教えてやったはずだが」

「その子を降ろして」

「なんだおい。お前は馬鹿か? ルールも覚えらんねえのか」

「降ろして」

 セラはギュリと会話をする気はなかった。真っ直ぐ目の前の男を睨み付けるて命令するだけだ。

「……っ」ギュリはそのセラの姿に一瞬恐れたように見えた。半歩程足を引く。かと思ったら、下卑た笑みを浮かべた。「ふふぁふぁっ! 降ろしてやんよっ! おらっ!!」

「ぅぁわああああっ!」

 ズィードが高々と放物線を描いて投げ出された。街にいた女たちは悲鳴を上げ、男たちは慌てふためく。だが、セラは静かにギュリを睨み付けて落ち着いていた。それがギュリには気に食わない。アメジストの手が腰に提げた剣を抜いて振り上げる。

「死ねぇえっ!」

 振り下ろされる剣。しかし、大きな風切り音を立ててるだけでセラを斬ることはなかった。

 セラはというとナパードでギュリの剣を躱し、遠く離れ、ズィードが落ちる前にしっかりと、それでいて優しく彼を受け止めていた。

 念のために言っておくと、この世界から別の世界へのナパードができないだけで、ナトラード・リューラ内では制限なく彼女は跳べるのだ。

「おねぇ、ちゅあん……」

 セラに抱きかかえられるズィードはグズグズの顔でセラを見上げる。そんな彼にセラは微笑み掛ける。「ありがとう。君の勇気はわたしが受け継ぐよ」

 勇気をもって暴君に立ち向かった少年をゆっくり降ろし、セラは碧き花を散らした。

「お前、フェースって野郎と同じ世界の奴か」

「フェース?」

「ふんっ、お前があいつを知ってるかどうかはどうでもいい。とにかくむしゃくしゃする。せっかくの上物だが、ずたずたにして殺してやるっ!」

 ギュリはそのアメジストの肌に血管を浮かべてセラに襲い掛かってきた。その動きはとても無駄の多い動きで隙だらけだった。本当にこの男がヌロゥや赤褐色の大男と同程度の力を持っているのかとセラは疑ってしまった。疑いつつも自分が相手の力を測れていないかもしれないと、心を入れ直す。

 今、セラはオーウィンは持っていない。だから、徒手空拳とマカを主体に戦うことになる。戦いから離れていたことで動きが鈍っていなことを祈りつつ、彼女はその隙だらけの男に反撃を繰り出す。

 ひとまずはリーチのある脚で、迫りくるギュリの剣を持つ腕を蹴り払った。

「なっ!?」

「?」

 セラはあまりにも簡単に蹴りが決まったことに一瞬だけ訝しんだ。ギュリが何か仕掛けてくるのではないか。しかし、ギュリは驚きの表情のまま何かを仕掛けてくることはなかった。だから、セラはその開ききった懐、黒い鎧の胴に思いっきり回し蹴りを決めた。さすがに鎧をそのまま蹴るのは足に負担がかかると思い、鎧のマカを纏わせながら。

「ぐぁあ……」

 ギュリはさっき自分が投げ飛ばした肉屋の店主よろしく、街路に建つ建物の壁に激突した。

 二人の戦いを恐る恐る見ていた人々はここでどよめきと歓声を上げる。

「すげえぞ!」

「こんなことして大丈夫なのか……」

「セラちゃんがあいつを蹴り飛ばした!」

「頑張って! セラちゃん!」

「いけいけぇ!」

 どちらかというと歓声の方が多かったのは言うまでもない。ナトラード・リューラの人々にとって、ギュリが痛い目にあうことは願ってもないことなのだ。

 崩れる壁にもたれ掛るギュリに歩み寄るセラ。そして、ギュリを見下ろし訊く。

「お前、本当にグゥエンダヴィードの部隊長だったの? ヌロゥはもっと強かった」

「!」

 ギュリはヌロゥと聞いた瞬間、セラに飛び掛かった。もちろん、セラがヌロゥと同程度とは思えないこの男に捉えられるわけがない。軽々と飛び退いて躱す。だが、この男、なぜだか今までで一番の激昂を見せてセラに飛び掛かり続ける。セラは拳を、剣を次々と軽々避けていく。

「あの野郎っ! 有能な駒だと思ってたら、ふんっ! あんな力隠してやがって! 必ずっ! ここでっ! 第二のグゥエンダヴィードを! 作り上げてっ! あの方の信頼を再び!!」

「落ち着けっ!」セラは何を言っているか分からないギュリに苛立ちを覚えて、裏拳で張り倒した。「分かるように、グゥエンダヴィードのことを教えろ」

 もう、この頃になると彼女の頭の中には自分が戦えるかどうかとか、ナトラード・リューラの人々の想いとかそんなことはなくなっていた。目的のために目の前の元『夜霧』の男から聞き出せるだけ情報を聞こうと思っていたのだ。

「っは!」ギュリは少し落ち着いた様子で立ち上がる。「誰があの方を裏切るような真似をするものか! そんなことをするくらいなら死ん、ぶっ!」

 言葉の途中だったが、セラはギュリの腹に鎧のマカを纏った拳を振り上げた。「あのときの、痛くも痒くもなかった。殴るってこういうことだよ」

「がぁはっ……ぐぅ…………」ギュリは血を吐き、剣を落とし、腹を抑えて後退った。

「話す気になった?」

 この状況だけ見ると彼女がとても暴力的な女に見えてしまうが、彼女の名誉のために書いておこう。確かに、そこらにいる女性より彼女の腕っぷしは強いかもしれない、それでも彼女は別に筋骨隆々でも何でもないし、むしろその華奢な体のどこからそんなに力が出ているのかと不思議に思う程だ。そしてこの状況では、このギュリという男が弱いということが彼女を暴力的に見せている何よりの要因なのだ。

「何を、されようが話すわけがぁあああっ……がっ!」

 彼女は容赦なく、目の前の雑魚を壁に蹴りつけた。

「話す?」

「話さん……ああっ……! 分かった、話す、話すから蹴らないでくれぇ……」

 ギュリはセラが蹴りの動作に入ると、腕で顔を覆うようにして怯えた声を上げた。それを聞いたセラはギュリから視線を外し歩き始めた。

「なら、どこかゆっくり話せる場所に行くから」

 セラがそう言ったのも無理もない。街の人々はお山の大将の無様な姿に表情を明るくし、互いに顔を見合わせたり、抱き合ったり、目に涙を浮かべたりと歓声は上がらないものの、静かに話せるような状況ではなかった。喜びを噛み締める街の人々の中にはもちろん、セラに受け止められた場所から戻ったズィードとその父親の姿もあった。ロープを解かれ、息子をきつく抱きしめる父親。「いたいよぉ」と言いながらもその顔を綻ばせる息子。セラはその二人からクァスティアに視線を向けた。

 まだ魚屋の前にいたクァスティアはどこか悲しげな表情でセラを見つめていたが、セラと目が合うと一度だけ深く頷いて微笑み返したのだった。

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