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碧き舞い花  作者: ユフォン・ホイコントロ  訳者:御島いる
第三章 ゼィグラーシス

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516/535

512:穴は消える

 徐々に小さくなっていく穴を背景に、セラたちとヌロゥの戦いは続く。

 普段のようにセラに対して狂気殺意をむき出しにすることなく、今しがたこの場を去った魔導賢者の元へすぐにでも向かおうと動き出すヌロゥ。

「行かせない」

 魔闘士ノルウェインが障壁のマカを張った。ヌロゥの前にではない。

 セラたちも含めた全員を覆うようにだ。一帯をマカで囲い、ヌロゥを閉じ込めたのだ。

 この行動にセラは頷けた。ヌロゥだけを閉じ込めることもノルウェインにはできたはずだ。しかしそうしなかった。敵との力の差を測り、魔素の壁を破られると判断したのだろう。そのうえで戦士たちも一緒に閉じ込めることで壁を破らせないようにしたのだ。

「っく、面倒なことを」

 ぬらりとだが怒りを露わにするヌロゥ。当然のようにマカの使用者を狙う。だがマカに囲われた区画には彼を討とうとする戦士が九人もいるのだ。

 ラスドールがまず友を守った。

 ラスドールに阻まれたヌロゥは身を翻して、ノルウェインに再び斬り掛かろうとする。しかしその動きは最後の最後でくらりとラスドールに狙いを変える。

「っ!?」

 敵ながら見事な転換に対応しきれていないラスドール。彼をセラは救う。ナパードで触り、トラセードで引いた。二人が消えた空間を斬る歪んだ剣。そこへ、飛び掛かるのはズィーだ。

 ヌロゥの振り下ろされた腕を空気で押さえつけ、その首を狙う。

「軽いっ!」

 ズィーの空気を跳ね除け、スヴァニを受け止めるヌロゥ。

 動きの止まった二人の横に、テムが水馬を用いて滑るように回り込んでいく。振り上がる天涙。しかし、どこからともなく現れた空気によって操られる剣に受け止められる。

 ふと、セラは頬に当たる風を感じた。

 ジュランとプライが翼を大きく羽ばたかせてヌロゥに向かっていた。それによって巻き起こった風だと思った。

 だがあまりにも弱まらない。

 そのことが引っ掛かり、セラは風を集中して感じる。ズィーほどではないが、集中すれば動きが見えてくる。そこでハッとする。

 壁の中の空気が回るよう動いていることにセラは気づく。

「みんな、引いて!」

 遅かった。

 ヌロゥを中心に、風が暴れた。

 セラをはじめ、戦士たちはみな壁に押し付けられた。かなりの風圧に身動きが取れない。セラだけでなく、全員が。こうなればナパードがあるセラがどうにかしなければならない。

 彼女が風の中心であるヌロゥの元へ跳ぼうとしたその時、障壁に亀裂が入った。そして止まることなく一気に壁は破裂した。

 勢いに任せて四方八方へ飛ぶ戦士たち。

 ジュランとプライは翼を使って宙にとまり、ほかの戦士たちは地面に受け身をとる。

 この隙にヌロゥが研究棟へ向かい動き出した。

 誰もがそう思ったが、そうはなっていなかった。全員の視線が先ほどまでヌロゥがいた場所に集まる。

 動いていない。

 ヌロゥは一点を見つめて、苦々しげにその場に立っていた。

「また時間切れか」

 そう言うと、彼は指輪を光らせロープスで空間に真っ黒な穴を空け、その中へ消えていった。

「また?」

 セラはその言葉に気がかりを覚えながらも、みんなと同じようにヌロゥが見つめていた方向を見る。世界に空いた、もうじき塞がりそうになった穴を。

「……え?」穴の周りに歪んだ亀裂が入っていた。「なに?」

 それも束の間、穴が亀裂もろとも弾け飛んで消えた。

 そしてセラは感じ取る。

 莫大な気配。

 神の気配。

 ヌロゥの「また」とはそういうことかと、得心する。彼はまたも自分の楽しみを神によって邪魔されたと言っていたのだ。

 丸かった穴は二つの人の形になっていた。浮遊する赤と青の双子に。

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